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No.027 / 社会人一日目(2)


「はじめまして!わたくし幽世学園第11期生ジガ・メバエと申します!今日からこちらでお世話になることになりました。よろしくお願いします!」

部屋の中にメバエの声が響き渡った。


部屋の中には5人。

左の壁に沿う形で宙に浮いている卓球台のこちら側とあちら側にいる男性が2人と、奥のテーブルに腰かけてティーカップを口につけている女性が1人、そして部屋の右にあるソファで並んでタブレットをいじっているカップルらしき男女の2人だ。


しばらく反応が見られなかったが、一呼吸置いて、卓球台のこちら側の、メバエに一番近い位置にいた男性が、声をかけてきた。

「ああ、話には聞いているよ。自己紹介するよ。僕はアレン。よろしくね」

比較的背が高く、長い癖毛をオールバックにして首の後ろでまとめているアレンは、人のよさそうな笑顔でメバエに挨拶した。

メバエはとりあえずホッと一息ついた。


アレンは続ける。

「卓球台の奥にいるのが、アミット」

アミットと呼ばれた短髪の青年は、軽く会釈をしてよこす。

「奥にいるのがボスのミノリ」

ミノリはティーカップを軽く上げて会釈をする。

「それからソファに座っている男の方がノークで、女の方がベス」

肌の浅黒い黒髪ロン毛のノークは、タブレットから視線を上げて目だけで挨拶をしてきた。

その奥に座っていたベスは、軽く手を振ってメバエに挨拶をしてくれた。


「よ、よろしくお願いします」

室内のくだけた雰囲気に完全に意表を突かれた形のメバエは、しどろもどろになりながらなんとか挨拶を繰り返した。

アレンは微笑んで続けた。

「ああ、そんなにかたくならないで。僕たち、ミノリをのぞいて全員現世の住人なんだ」

「えっ」

そんな情報、メバエは何も聞いていない。

「あれ?聞いてなかった?」

アレンは目を真ん丸にしてメバエを見やる。

「はい」

メバエもどうしてよいか分からずたじろぐ。

そこで口を開いたのが、奥のテーブルでティーカップを手にしているミノリだった。

「私の時もそうだった」

全員の視線がミノリに集まる。

「幽世学園を卒業したらそのまま何も聞かされずに就職でさあ。ここに入ってみたら誰もいなくていきなり責任者なんだもの。びっくりしちゃった」

「へ、へぇ」

メバエはどう返事をしてよいか分からなかった。

「まぁ、お茶でも飲めば?僕たちこれでも今仕事中なんだ」

そう言って卓球のラケットをひらひらさせてアミットが笑った。

「はぁ」

ここでもメバエは返事に困ってしまう。


「いいわよね訪問者は。お仕事ごっこしてるだけでお給料が出るんだもの」

ミノリがそう言ってティーカップに口をつけると、ソファに座ってタブレットをいじっていたノークとベスが抗議の声をあげた。

「おいおい、聞き捨てならねーな。こっちは今、大滝の流水量をいじってる最中だぞ。仕事してるっつーの」

「そーよそーよ」

二人の息はぴったりだ。

「あんたらはいちゃいちゃデートしに来てるだけでしょ」とミノリはぴしゃりと言う。

ベスが「ひどーい」と非難の声をあげている。

「まぁ、こんな職場だからさ、気負わず明日から来てよ。歓迎する」

傍に立っていたアレンが、やはり優しい笑顔でそう言ってくれた。


その夜、メバエは風呂に入るのも遅らせて、ひとり自宅のベランダで外を眺めていた。

「どう?やっていけそう?」

頭の上に乗ったルナがメバエに尋ねる。

「仕事内容が訪問者のお守りとは知らなかったわ。私、バリバリ働く気でいたのに」

と、メバエは面白くなさそうな顔で答えた。

「万年学年一位だったメバエにも苦手なことがありましたか」

ルナはそう言ってヒゲをなめた。

「いいわ。仕事くらい、自分で見つけるわ」

メバエはそうきりかえすと、ルナに、にっと笑ってみせた。

「さすがね、そうこなくちゃ」

「みんな頑張ってるだろうしね」

そう言ってメバエは、頭上に輝く真ん丸のお月様を見上げた。

「みんな」とは、もちろん、学園で一緒だったクラス萌黄の生徒のことである。

「そうね」

ルナも大きなお月様を眺めた。

一人と一匹の影が、ベランダに淡く伸びている。

幽世ランドに浮かぶ満月は、いつまでもメバエとルナをやさしく照らしているのだった。


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