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No.026 / 社会人一日目!


一年後、春――。


ピピピと鳴った目覚まし時計のアラームを止めて、私はむくりとベッドから起き上がった。

意識が鮮明になってゆくのと同時に、それを反映するツクモの形状が、人型の紙から猫型のものへと変わってゆく。

「ツクモ」とは、幽世学園時代に授業で与えられた、自立型Aiの俗称である。

私たち幽世学園の生徒及び元生徒にとって、一生つきあうことになるペットでもある。

その形状は主の意識に依存しており、私は猫を選んだというわけだ。


「おはようメバエ」

猫型のツクモがそう言いながら私の胸元へ飛び込んでくる。

「おはよう、ルナ」

私はそう言って、暖かなルナの体に吸いついた。

「今日から新生活だね。準備はいい?」

ルナがゴロゴロと喉を鳴らしながら言う。

「もちろん」

そう答えて、私はルナに満面の笑顔で答えてみせた。


改めまして、私、ジガ・メバエ。

VR年齢2歳。

今日から社会人になる。


ここは第40番VR都市・幽世ランド。

約百年前に現実世界でコールドスリープに入った私たちは、2年前に幽世学園の生徒として目覚めた。

2年間の学園生活の末に、私たち学生は、ほぼ全員が、はれて幽世ランドの職員になることができた。


新たに幽世ランドの職員となる者の生活費は、すべて学園がまかなっている。

この春、越してきたこのワンルームも、学園が用意してくれたものだ。

幽世ランドの職員として働き始める私たちには、当然給料が支払われる。

その受け取った給料のうち、生活費の分を、今後毎月学園に支払うことになっている。


まぁ今後、現実世界の脳が寿命を迎えるまで、生涯にわたりこのVRで過ごす私たちにしてみれば、自由なお金があり過ぎても使い道なんて無いわけで。

「スリープから目覚めた過去の人間たちを、いかにVR内で活用するか」ということを考えた現実世界の偉い人たちが設けたこの仕組みの中で、私たちはかりそめの選択を続けていくだけなのであるが、それを考えだすと鬱々としてくるので、そのへんはあまり考えずに目の前のことに集中するようにしているのが、今の私だ。


「おはよう、サボ」

私は身支度を済ませ、ベランダで朝日をさんさんと浴びているサボテンのサボに挨拶をする。


「いってきます」

私の、社会人一日目が、はじまった。


私の部屋があるのは、幽世ランド本島の西の端にある町、ガクエンシティ。

このエリアには、本島とは別の島である幽世学園を卒業し、幽世ランドの職員となって働いている元生徒たちが住居をあてがわれ暮らしている。


幽世ランド本島全体を覆う、うっそうとした森の中を、一本のモノレールが走っている。

このモノレールは「幽世ライナー」とも呼ばれ、幽世ランド本島に縦横無尽にはりめぐらされている。

私は予習しておいた道をたどり、ガクエンシティ駅にたどり着くと、幽世ライナーに乗り込んだ。

幽世ライナー自体は数日前の予習ではじめて乗ったのだけれど、様々な仮装をした現実世界からの訪問者も乗り込んでいるため、車内はさながらテーマパークのようである(テーマパーク自体、体験したことはなく書籍でしか知らないが)。


予習通り、私はネノクニ駅でライナーを降りて、地図を見ながら目的の建物へとたどり着いた。

その建物は、街の一等地にあり、見上げるようなガラス張りの巨大なビルで、まわりの建物より頭ひとつ抜けていた。

建物前の石碑には、「ネノクニ総研」と書いてある。

今日から、私はここで働く。


私は先に受け取っていた案内通り、ビルの中に入ると受付で身分を明かし、受付のお姉さんに目的の部屋への道順を尋ねた。

「IT・システム部門情報システム部ですね」

お姉さんは素敵な笑顔で案内してくれた。

エレベーターに乗り、最上階の一つ下の階へと向かう。

ぴかぴかに磨かれた廊下の床を汚さないように気を付けながら、一歩一歩慎重に進む。

私が歩を進める音が、だだっ広い廊下いっぱいに響き渡る。

「ここね」

私は、「IT・システム部門情報システム部」と書かれた看板が設置されている部屋を見つけた。

聞き耳をたててみるが中から物音は聞こえない。


「よし、いくよ」

私は、頭の上に乗っているルナに、そう呼びかけ、ドアノブに手をかけた――。


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