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No.022 / メバエとロック


現世と季節を同じくする幽世ランドは、十月に入った。

かねてから予告されていた通り、この日は幽世学園の島々で学園祭が行われる日で、メバエたちが住む島でも、朝から生徒たちが準備に追われていた。


「ほらー!こっちこっちー!」

現実世界からの訪問者に交じって、学園祭のゲート下で手を上げジョメイ・スクイを呼んでいるのは、彼のガールフレンドの八千代このはである。

スクイとこのはの住む島は異なるが、今日は学園祭という特別なイベントなので、交流が可能なのである。


学園前の大通りに並ぶ屋台のテントに交じって、美術部が催す「たこ焼き」のテントがあった。

「うり」

そう言って、カチ・まねは、ショユウ・ユウスの頬に思い切りたこ焼きをねじ込んだ。

「あっつ!」

ユウスが飛び上がらんばかりに叫び声をあげる。

「何するんだ、まね!」

「何ぼーっとしてるのよ、タイムイズマネーよー」

そう言いながら、まねは第二弾を用意している。

そんな二人を後ろからあたたかく見守っているのは、二年で部長のリン・ミスと、副部長のビカ・花である。


「おーい」

と、声をかける者があった。

見ると、大柄な体躯がいやでも目立つ、一年のナミカゼ・シノギの姿がある。

その後ろには、同じ馬術部のカシャク・セキと、リッパ・シンシ部長、タイシ・ボイ副部長も見える。

「来たわよー」

ユウスは「助かった!いらっしゃいませー!」と、テントの前に設置した長机へと移動した。

馬術部の四人は、注文したたこ焼きを受け取るとその場で開封し、はふはふ言いながらほおばった。

「いや、ここに来たのは、皆で昼ご飯を一緒にどうかと思ってな」

と誘ってくれたのは、リッパ・シンシ部長である。

「お誘いはうれしいんですが、たこ焼き屋はお昼からがかき入れ時でして。誰も抜けられないんですよね」

ユウスが言うと、「それもそうだな。失礼した」とシンシ部長は丁寧に頭を下げた。

「じゃあ、午後からもがんばってくれ」シンシ部長に連れられ、馬術部の四人はぞろぞろと去って行った。



一方その頃、学園の片隅にあるとある庭園に、ジガ・メバエはいた。

メバエの目の前に屹立しているのは、薄い衣をまとった、女性の銅像である。

右手を地面に、左手を天へと伸ばしたその女性は、いま、しずかにメバエを見下ろしていた。

メバエの目が、ひたとその像の両の目をとらえる。

と、そこへ、声をかける者がいた。

「見事ですね」

見ると身長のやや高い、トレンチコートの男の姿があった。

男は、肩まである金髪を風になびかせそこにいた。

学園の制服を着ておらず、学園祭にも参加せず、こんなところで学生をつかまえてものを尋ねる、おそらく現実世界からの訪問者であろう。

メバエはそんな見当をつけて、「はい」と返答した。

「学園創立当初に建てられたモニュメントだそうです」

「へぇ。実にすばらしい。君は学生さん?誰の手によるものか知ってる?」

男は碧眼の両目でメバエをとらえると、軽やかに尋ねた。

幽世ランドでは、入園に際し、厳しい人物評価や身元調査が行われる。一定の条件をクリアした善良な市民でなければ園内に入ることができないため、一旦、園内に入ってしまうと、みな定められたように警戒が薄れるのが常だった。

そう授業で習っていたメバエは、男の態度をなれなれしいとは思わない。

「確か、三代目ヤイバ・イットウの作品ですよ。授業で習いました」

「へぇ、ヤイバの」

メバエは男に向き直った。

「お兄さんは、デザイナーなんですか?」

「いや、VRゲームのクリエイターだよ」

男は静かに答える。

男は続けた。

「君は『常世の君の物語』っていうドラマを知ってるかな。あの世界を担当したんだ」

「すみません、ランド内では現実世界のテレビドラマは見ることができなくて。でも噂は聞いてます。すごい流行ってるって」

「ああ、君はここの生徒だったね」

「はい、一年の、クラス萌黄の生徒です」

しばし、二人の間に沈黙が流れた。

「一年か、もう進路は決まったの?」

おもむろに、男が尋ねた。

「工学部方面がいいかなぁって思ってますけど」

「それはいい。頑張ってね」

「お兄さん、お名前、聞いてもいいですか?」

「ロックだよ」

「私はメバエ。ジガ・メバエって言います。アカウントナンバー交換してもいいですか?」

「アカウントナンバー」とは、幽世ランド内で使えるスマホに付与された番号で、交換するとメッセージのやりとりが可能になる。

「いいよ」

ピッと互いのスマホをつきあわせて情報交換をしたあとで、ロックは「メバエちゃんにひとつプレゼントをあげよう。お近づきの印にね」と前置きし、握りこぶしをさしだした。

それをメバエは両手で受け取った。

見ると、幽世ランドのイメージキャラクターの一つである「終音おわりねミク」のキーホルダーにくっついた記憶媒体のように思われた。

「これは?」

「だからプレゼント。中は空だよ。好きに使っていい。大事にしてね」

「あ、ありがとうございます!」

「じゃあね、また会おう」

「はい、きっと、また!」

こうしてメバエとロックは別れた。

メバエはこの時知る由もなかった。

ロックがメバエの命を奪うことになる、その人となるということを。

学園祭は午後に入りいよいよ盛り上がりをみせている。

ひとり庭園に残されたメバエの姿を、ロックと見上げた、あの女性の銅像が見下ろしていた。


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