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No.021 / 『常世の君の物語』


「――というわけで、今日は隣の島の一年、クラス『えんじ』と交流授業だったんですよ」

昼間、このはさんと沢山しゃべり気をよくしたまま、僕は夕方からの茶道部に顔を出していた。


「へぇ。私たち二年も、月に数回、隣の島の二年と交流してるよ」

そう話すのは、譜詩・ダイダイ部長だ。

「で、今日は他にどんなことをしゃべったんだい?スクイ君」

皆がござの上に正座をしてお茶を楽しんでいる中で、朧・ホウシン先輩が興味深げに聞いてきた。


「現世で流行しているドラマの話とかしましたよ。僕たちが見ることは叶いませんが、現世から訪れている同級生の子孫が現世の話を土産話としていろいろ話してくれるそうです。タイトルはえーっと……」

僕はそこまで言ってはたと言葉に詰まる。

「『常世の君の物語』!じゃない?」

ダイダイ部長の言葉に、僕は「それです!」と食い気味にこたえた。

「なんで部長は知ってるんですか?」

部員全員の視線が、ダイダイ部長に集まる。

「こないだ行われた二年の交流授業でも話題になっていたのよ。相当人気みたいね」

「へぇ」

ここ、幽世ランドは「非日常」を楽しんでもらうため、あえて現世のメディアをはじめ、インターネットでさえ利用できない仕様になっている。

僕は見ることの叶わない『常世の君の物語』という名の時代劇に思いを馳せ、ダイダイ部長たち茶道部の面々と、その内容についてあれこれと想像を膨らませるのだった。



ピピピピ、と、ツクモのポテが21時を知らせる。

「もうこんな時間か」

僕は読んでいた本を閉じ、ひとり伸びをする。

デスクとベッドが二つずつ並ぶ寮の中はがらんとしていて、同室のシュゴ・エンゴはまだ帰らない。

一応、同室のよしみとして、連絡だけは入れておく。


今日はこのはさんとの会話を楽しんだし、その後には茶道部のみんなと現世のドラマについて語り合った。

今日はいつもよりたくさんしゃべったな。

僕は大きく息を吐いた。


「ポテ、ヘッドセット装着」

僕の頭部を、黒いヘッドセットが覆い、目の前にテキストが浮かび上がる。


【名前:新進 徐明】

【よみ:しんしん じょめい】

【性別:女】

【年齢:39歳】

【コールドスリープを選んだ理由:

おはよう、私。スリープから目覚めた気分はどうですか?五体満足に目覚めることができているでしょうか。

今の技術ではスリープした人間を現実世界で蘇らせることはできませんが、未来ではできていると信じてこの文章を書いています。

目覚めたときに、どの程度スリープ前のことを覚えているか不安なので、これまでのことを簡単に記しておきます。

私には、難病の息子・四廟しびょうがいます。

スリープ前の医療技術では治療困難な難病にかかっており、クラウドファンディングで資金を集めて一緒にスリープしました。

残念ながらスリープのチケットを連番でとることができず、違うルームでのスリープとなってしまいました。

四廟は私の一つ前のルームでのスリープとなりました。

四廟に関しては、今、とても難しい年齢ということもあり、和やかに一緒にスリープするというわけにはいきませんでした。何を言っても反抗するし、病気についても……(略)】


「難病の息子を持つ母親、か」

僕はヘッドセットのスイッチをオフにする。

途端に、それまで灰色一色だった目の前に色彩が戻ってくる。

「クラウドファンディングとか書いてあるし、子孫とか遺産とかいう話とは無縁なんだろうな、僕。そもそも子孫がいることすら怪しいんじゃないかしら」

そう思うとなんだか笑えてきた。


でも僕はまだ知らなかった。

数年後、僕たちクラス萌黄の前に、他でもない「子孫」を名乗る人々が現れることを。


「ただいま」

振り返ると、入り口で靴についた泥を落とすエンゴの姿があった。

「おかえり。遅かったね」

「うん。風呂は?」

「先に入ったよ。行ってきなよ」

「うん」


今はまだ、幽世学園の一年生として、僕たちは日々目の前のことをこなすだけだ。

勉強して、運動して、部活に行って、宿題をして。

いずれ来るであろう、幽世ランドでの就職の日に向かって――。


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