No,001 / 目覚め
一筋の涙が、頬をついと流れた。
メバエはそれを感じ取って、右手でぐいと頬をぬぐう。
目覚めるとそこには大きな天井に丸いシーリングライト。
ぼんやりとする頭を上体ごと起こしてみると、自分が20畳ほどの部屋のベッドに横たわっていたことが分かる。
「おはようメバエ、やっと起きたか」
声のする方を見ると、窓際のデスクの前に座る人物がいる。
金色の髪の、ショートカットの女の子だ。
年の頃は15、16だろうか。
「誰?」
メバエは思わず口にする。
「誰って、もう忘れちゃったの?私、カシャク・セキだよ。出席番号6番。あんたと同室の。昨日会ってそう自己紹介したでしょ」
セキと名乗った彼女は苦笑いをしながら、メバエに一封の封書を渡してきた。
「はい、あんた宛て」
見ると確かに、封書には『ジガ・メバエ様』と書いてある。
封書を開けてみると、次のようなことが書いてあった。
「おめでとうございます、ジガ・メバエ様。
あなたは入学試験で最も優れた成績をおさめました。
つきましては入学式で学年代表としてスピーチをお願いいたします。
長さは3分におさまる程度で……」
「入学式って?」
メバエは椅子の背にもたれてこちらを向いているセキにねぼけまなこのまま尋ねた。
「もう。どこまでボケちゃったの?ここは幽世ランド付属幽世学園よ。私たちはその新入生!」
メバエは目をぱちくりさせる。
「そう言われてみればそうだったような」
「さあさ、あと1時間で入学式が始まるわ。さっさと制服に着替えて身支度しちゃってよ」
見ると、セキはおそらく学園の制服なのであろう、左前合わせで上下セパレートの白い
スーツを身に着けている。
そのスーツはゆったりしているものの、両手首と両足首に近づくにつれて細くなっており、全体的になだらかな流線形を描いている。
どこのデザイナーの手によるものかしら。
メバエはそんなことを思いながら、とりあえず顔を洗うために、備え付けの洗面所へと向かった。
肩にかかる長い銀色の髪の毛を両耳の後ろで二つに結んで鏡を見る。
そこには、見慣れているはずの自分の顔があるはずだったが、なぜか初めて見るような心地がした。
西暦2380年、ジガ・メバエ、VR年齢0歳の春のことである。




