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No.011 / シノギとあや


【名前:波風 タツ】

【よみ:なみかぜ たつ】

【性別:女】

【年齢:28】

【コールドスリープを選んだ理由:

おはようございます、未来の私。何事もなくスリープから目覚めることができているでしょうか。スリープ前のことを簡単に書けと言われたので書きますが、あまり面白いことは書けません。

今、私の経営していた会社「ブルーバード」が買収されるというニュースで世間は湧いています。腹立たしいことです。ほとんどおとしいれられたようなものですから。詳しいことはここには書けませんが、私は怒っています。

私が汗水たらして大きくしたブルーバードを、こともあろうにあいつらは分割しようとしているのです。許せません。

スリープから目覚めるのがいつになるのかはわかりませんし、スリープから目覚めた私に何ができるのか分かりませんが、可能であれば、敵をうってください。他でもない、私の敵です。お願いします。

最後に、一緒にスリープした一筆文についてですが、どうか目をかけてやってください。まだ若い、純粋な少年です。……】


ナミカゼ・シノギはそこまで読むと、ふぅと大きくため息をついた。

「経営者か、悪くないな」

学生寮の一室にあって、部屋の中央に据えられた大きなソファに陣取って朝からヘッドセットを装着している。

膝の上には昨日、ノマ先生の「能力」の授業で拵えたツクモが乗っかっている。

「ライガ、調べたいことがある。現実世界のブルーバードっていう会社についてだ」

シノギはツクモに対してそう呼びかけた。

ライオンを落書きしたものがそのまま立ち現れたかのようなツクモは、次のように答えた。

「残念ですが、幽世ランドではネットは使えません」

シノギにはすぐに見当がついた。

あえて不便を楽しみたいという、現実世界からの訪問者のためのこの世界の仕様である。

「じゃあ、過去の情報を調べるには、どうしたらいい?」

とシノギはライガに尋ねた。

「幽世ランドでは、唯一、幽世図書館であらゆる情報が得られます」

ライガから発せられる機械音はそのように回答した。

「なるほどね」

今日の放課後の予定が決まった。

「何がなるほどなんだ?」

と尋ねるのは、ベッドから起き上がってきた同室のショユウ・ユウスである。

「教えられん。トップシークレットだ」

シノギはそう言うと、ヘッドセットの下でにやりと笑った。



その頃、女子寮の一室では、フミ・あやが同じくヘッドセットで例のレポートを参照していた。

【名前:一筆 文】

【よみ:ひとふで ふみ】

【性別:男】

【年齢:19】

【コールドスリープを選んだ理由:

未来の僕、スリープから目覚めて、まず何を考えていますか。

今の僕は、世界に打ちのめされ、満足に動かぬ体でスリープに入ろうとしています。

未来の僕の体がどんなふうになっているのかは分かりませんが、どうか体だけは大事にしてください。

もしかしたら体の一部が無いかもしれませんが、大丈夫、未来なので義体があるでしょう。頼れる部分は機械に頼りましょう。

一緒にスリープに入った波風タツさんが、きっと未来は僕たちの考えが及びもしないような義体があると言ってくれています。大企業・ブルーバードCEOのお墨付きです。信じましょう。

ああ、スリープに入るまでに、本当にいろんなことがありました。未来の僕は、そのことを覚えていますか。ここに詳しく記しておきたいのですが、誰がこのレポートを読むかも分からないので書けません。

ともあれ、未来の僕、希望を胸に、体を大事に過ごしてください。】


「いろんなことがあったって、ものすごく気になるじゃない!」

あやは思わず机に突っ伏した。

「何ひとりでにぎやかにやってんのよ」

と背後から声をかけたのは、同室のカチ・まねである。

「だってレポート読んじゃったら過去が気になっちゃって仕方ないんだもん」

あやはヘッドセットをしたまま泣き声で訴えた。

「あら駄目よ、未来に目をむけなくちゃ」

「そういわれたって、気になるものは気になるの!」

あやがいよいよ声を大きくした時、机の上のあやのツクモが甲高い機械音を鳴らしメッセージの受信を知らせた。

「クラス萌黄の生徒は第二視聴覚室に集まってください。9時から講義を始めます」

あやのツクモは機械音でそう告げた。

「へぇ、あやのツクモって狸なんだ」

自身のツクモである長いうねった髪の束からのぞく蛇の頭をなでながら、まねが言う。

「今朝やっと具現化できたんだ。へへ、かわいいでしょ」

「へぇ、いいじゃない」

「脳内のイメージがもっとリアルになれば、ツクモも連動してリアルになっていくって授業では言ってたけど、まだまだ先は長そうね」

あやはそう言うと、「ねーポン太」と呼びかけ、ツクモの頭に手をやった。

四月のおだやかな陽の光が、部屋の中にまで及び、室内のいたるところにまだら模様を描いている。

昨日も一昨日も、同じような陽気であった。

しかしここ幽世ランドにあっても、その季節はゆっくりと巡っている。

何も知らなかったあの頃に戻りたい――。

数年後、過去に思いを馳せる時、あやは決まってこの頃のことを思い出すのであった。


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