モーティマー家
さっきから私の動きに合わせて女性と男性がとっても嬉しそうにしている。
あのままゾンビにやられてしまったのか。どうにか元の世界に帰れないものか。アンナの脳内は前世に残してきた家族のことばかりが巡る。
最後主人に会えてないじゃない! なによ私の人生。また後悔して終わるの?
悲しみと後悔がアンナを襲う。途端に涙が溢れ赤子さながら泣きじゃくってしまった。
悔しい悔しい悔しい
驚いた女性は私をさっと抱き上げて、ゆらゆらと背中を叩きながらあやし話しかけてきた。
「あらあら坊や、ママですよ」
私が今回転生したのは、どうやら王家の次男みたいだ。
大きな城の中にはいたるところに両親の絵が飾られている。
「この美男美女の子供とは。そりゃ美形で生まれちゃうよな」
両親と自分が描かれた絵を見ながら腕組みをしながら眺めていると、背後から声をかけられた。
「アルトは本当にこの絵が好きだな」
「ディーノ兄さん!」
この人は五つ離れたモーティマー家の長男、ディーノ。剣術が得意だけど、後継ぎの関係で王様としての教育に飽き飽きしている。今もいつも通り、家庭教師のクレアから逃げてきたようだ。
「兄さんまたクレアと鬼ごっこしてるの?クレアが母上に怒られてしまうよ」
「お前がこの家の後継ぎになってくれたら俺は剣術に熱中できるのに。母上ときたら。アルト、剣の相手になってよ」
「やだよ、兄さん強いもん」
「お前には剣の才能がある、俺なんかよりも」
城の窓から遠くをみるディーノ。悔しいけど戦場には立てないことを悟っている。
それもそのはず、私は前世で村を守る為に戦場に行っていたのだから。この国にもゾンビのようなモンスターが出て、そのたびに軍を派遣して戦っている。私ももう三才で、母上の目を盗んで父上の書庫にこの国の歴史を学びにこっそり忍び込んでいる。見つかってはかわいく「えへへ」と言うとなんでも許される。
「おーい、アルト聞いてるか?」
「あ、ごめん兄さん。ほら、クレアが探しているよ」
窓を指さし、庭でディーノを探すクレアを指さす。
「やれやれ、長男も大変だよ」
目を瞑り首を左右に振り、手を頭に当ててそう言うとディーノは庭の方へ歩いて行った。
私だって、母上に怪しまれないように文字を読めないふりをしたり、喋れないふりをするのは大変だよ兄さん。
心の中でそうつぶやき、父上の書庫へ足を忍ばせる。
この国はどうやらゾンビのようなモンスターさえいなければかなり平和なようだ。私の生まれたモーティマー家には代々伝わる秘宝が存在していて、どこかを映し出すと書かれていた。
三才児らしく、庭の花壇で砂を触りながら考え込む。
未来予知なのか、この世界のどこかなのか。はたまた、地球だったりして。
今の日本はどうなっているのかな。ファーストファンタジーのナンバリングはどこまでいったのかな。車は空飛んだかな。
そんなことを考えているとクレアがキョロキョロしながら歩いてきた。また兄さん逃げ出したな。
「アルト様、ディ」言い終わる前に言う
「兄さんは厨房だよ。この時間は夕飯のつまみ食い」
ありがとうございますと早口で言い、勢いよく頭を下げ髪が放物線を描き速足で厨房へ向かう。
やれやれ、今日も平和でなにより。泥だらけの手をパンパンとはたき城の中へ戻る。