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第八話 生成AIつかいアマノ!

 砂つぶ(ひと)つの(なか)から公園に移る。わたしたちのサイズも、いったん元通(もとどお)り。

 そこにいたのは――。

 つぎはぎだらけの、カメのぬいぐるみ。

 昨日(きのう)、路地で会ったときは知らなかったが、今のわたしは理解している。それが、(かたち)を持ったAI(エーアイ)、「ミニ・シンギュラリティ」であることを。


「まずは、あいつをおれの生成する場所に引きずりこむ! ちょっとでいい、近づけ!」

「任せて!」


 生成AIを内蔵したマイク、イア()をにぎったまま、わたしは地面をけっていた。

 カメは、公園で遊んでいた子どもたちに向かって、こうらを飛ばそうとしていた。

 わたしはダッシュしながら右手をのばし、手に持ったイア太をカメに近づけた。


 すると、次に気づいたとき。

 子どもたちの姿と公園そのものが消え――。

 わたしとイア太とカメのぬいぐるみだけが、砂あらしの取り巻くグラウンドにいた。


「アマノ、場所の生成、終わったぜ。もう一度、砂つぶの(なか)に移ったわけだ。カメさんといっしょにな。そして戦い方の確認だ」


 いったんカメから、はなれるわたしに、イア太が声をひそめて話しかける。


「相手のことを学ぶアマノ自身の姿を見せ――、それをミニシン自身に新しい体験として学習させる。そうすればミニシンは満足し、大人しくなる。……この流れで、いいな?」


 カメの動きを注視しつつ、わたしは、一回、うなずいた。


「なら、あいつの口元(くちもと)に、おれの丸い頭部……あみの目の部分を差し出して『ラーニング』と言うんだ。アマノがそうしてくれれば、おれは相手のデータを学ぶことができる」


 もう一度わたしは、うなずく。

 そのとき、自分の服がバトルコスチュームから元の格好にもどっていることに気づいた。

 おそらくイア太がわたしの体を大きくしたり小さくしたりする(なか)で、服装も、もどしたのだろう。

 でも、それで構わない。改めて気合いが入るから。


「リジェネレーティブ!」


 派手なジャケットと、ふわりとしたスカートに着がえ、しっかりイア太を持ち、走る。

 こちらをにらむカメのぬいぐるみの姿が、視界の(なか)で大きくなっていく。


「アマノ、相手の動きに気をつけて!」


 そう、さけぶイア太に、わたしは三度目のうなずきを見せる。

 カメがふるえる。こうらのかけらの群れを、わたしに飛ばす。


「プロンプト入力!」


 わたしは足を使って、地面の砂をうかせた。先ほどのリハーサルでの失敗をくりかえさないよう、「バリア生成」よりも具体的なプロンプトをイア太にふきこむ。


「砂を素材にして、カーテン、『生成』!」


 結果、巻き上がった砂が一つのカーテンを形成し、こうらのかけらをはじいた。

 ()もなくしてカーテンが、さけた。が、すでにわたしは右に移動し、難をのがれていた。

 たじろぐカメにすきをあたえず、すかさずわたしはイア太にさけぶ。


「プロンプト入力。わたしの『くつ』の底を作りかえて、ばね生成」


 直接、確認せずとも、指定したところに、ばねができたことが分かった。足に力をこめ……、とぶ! あっという()にカメに接近し、その口元にイア太の頭部を軽く当てる。


「ラーニング!」


 声にともない、イア太から光のリングが生まれ、カメのぬいぐるみにまとわりつくように回転した。

 カメが数秒だけ停止する。直後、こうらのかけらが背中にもどり、再び動き始める。


 まだ、このミニシンは、「自分が学習された」と、はっきり分かっていないようだ。

 だから、暴れるのをやめない。

 イア太は、がんばってくれた。あとは、わたし、今川(いまがわ)天野(あまの)が学んだことを見せる番だ!


「――プロンプト入力。さっき学習したことを参考にして、こうらのかけらの動作を生成。素材は、くつ。カメを(つつ)みこむように。足りないなら、わたしの服の一部も使って!」


 なるだけ、具体的なプロンプトをさけんだ。

 今、必要なのは「自分のことをだれかが学んだ」とカメ型のミニシンに気づいてもらうこと。それでわたしは、イア太の学習の成果を、相手めがけて、ぶつけたのだ。


 両足のくつと、ジャケットのそでと、スカートのすそが、多くの破片に分解され、カメを目指す。こうらの動きを学んだ、わたしの服の破片たちが――。

 その動きを教えてくれた、カメ自身を包囲する。


「悪いけど。改めて、からを破って世界を見つめて」


 破片の群れが、カメを囲いこんだあと、(たまご)のからのように、それを閉じこめた。

 そして時間がたって……、からが割れ、カメが顔を出す。

 大人しそうに頭を下げるその姿に、もう危険を思わせる要素はなかった。


 相手を学んで落ち着かせる作戦が、うまくいったのだ。

 わたしは、ミニシンを傷つけずに戦えた。

 右手に持ったマイクの(なか)の、不思議な「生成AI」と共に――。


「イア太、わたしといっしょに戦ってくれて、ありがとう!」

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