第二十二話 生成AIつかいの決戦。
和屋が再び現れるまで、わたしたちには時間があった。
ひとまず緑のゆかを素材にして建物を生成し、わたしたちは、そこで休んだ。
「再生成していたアマノの服と体も、もどしておいたぜ。……あと、おれが勝手にアマノの体を作りかえていた件については、まだ謝ってなかったな。ごめん」
「改めて考えると、イア太は、わたしが戦いやすいように工夫してくれただけなんだね」
「……体に害がないようには、してる。つっても、ドン引きされるって思って、なかなか言えなかった。あと、これも伝えとく。アマノの脳みそのほうは作りかえてない」
「分かってる」
いったん、ねむってから、わたしたちは準備を整えることにした。
「ところでイア太って、わたしのまぼろしも作れる? だったら――」
一通り作戦会議をしたあと、緑の空間全体を回り、生成を重ねる。
「――さて、アマノちゃん。君のわがままの答えは出たかな。……お?」
和屋は、リス型のミニシンを右足に乗せ、姿を現した。服装は昨日と同じ。左右のかたに、黒い上着をかけている。
「へえ、葉っぱの中を、こんなふうに作りかえちゃったか」
周囲を見回す和屋。元は、障害物のなかった空間だったけれど、今では、森が広がっている。木はまばらでもないし密集しすぎてもいない。幹や枝は、茶色ではなく緑である。
加えて、わたしと和屋は、大きく切り立った、がけの上にいる。上から見ると丸い地形であり、その円から出れば、下へと真っ逆さまに落ちる。
わたしは和屋をじっと見て言う。
「あなたの思い通りには、しないと決めました」
「ふーん、かたすかし」
こちらを見返し、和屋が目を細める。
「君にねむる願いを、欲を、さらけ出してほしかったのに」
「だいじょうぶですよ。これが、わたしのわがままです。見届けてくれるんでしょう?」
イア太を構え、わたしは唱える。
「リジェネレーティブ」
元の服がちぎれ、ジャケットとスカートが生成される。合わせて体も軽くなる。
「わたしは、和屋さんに感謝しています。『生成AIつかい』って名乗りに、つっこんでくれたから」
いぶかしげな目を向ける本人に、わたしは、まばたきしてみせる。
「おかげで考えなおしました。わたしが生成AIを一方的に使うのでもなく、生成AIに一方的に使われるのでもない未来――それをわたしは目指します」
和屋の返答を待たず、続ける。
「そんな決意をこめながら、改めて、名乗りを上げさせてください。わたしの名前は今川天野」
イア太を口に当て、わたしは声を張り上げる。
一歩をふみ出し、きっと見る。
「生成AIつかいアマノ! 自分の未来を生成するため――」
マイクの頭部を相手に向ける。
「――わたしはあなたを、学びます!」
「いい口上だ、みがいたねえ。これはこれで、ぼくを高ぶらせるわがままだよ」
口がさけるくらいに、和屋は口角を上げる。
「君たちの作った森のフィールドにも乗ってあげよう。アマノちゃんの自己実現を、残さず受け止めたいからね!」
そう言って和屋は、自分の左手を右手でつかむ。
「じゃあ戦って、君の願いが本物であるか見定めるとしよう。ぼくの足にしがみつくリスちゃんを取りもどし、この空間から出るためにも、君は、ぼくを無力化するしかない」
続いて、わたしの後ろから、大きなかげが、おおいかぶさる。
同時に、わたしは、イア太にささやく。
果たして昨日と同じく、大きな葉っぱが巻きつく。
「ぼくは心だけでプロンプトを入力できるって言ったじゃん」
が、葉っぱが巻きついたのは、わたしの体ではなく――。
生成された、わたしの人形である。周囲の木々から作ったため、全体的に緑色だ。
「学習してるね、アマノちゃん。さっき、こそこそイア太に伝えていたのは、人形を生成するプロンプトだったんだ!」
和屋は左手の平の中心を、右の親指で、ぐっと、おす。
すると地面の一部が、無数のツタに早変わりした。
ツタが、わたしにせまる。――わたしは、とっさにイア太に言う。
「このツタたちを素材にして、トンネルを生成」
結果、ツタは、わたしをよけるように方向を変え、長い「てんじょう」と「ゆか」と「かべ」を形成した。そうしてできた、ややせまい通路を走り、わたしは和屋に近づく。
ツタにかくれた相手を見すえて「カメさん!」とさけんだ。
左手で、前方のツタをはらう。しかし、そこにあったのは……和屋の人形だった。
「――にせものを作るのは、君の専売特許じゃないさ」