第一話 イア太とアマノは、めぐり会う。
不思議なマイク、イア太と――。
わたし、今川天野が出会ったのは、つい昨日のことだ。
場所は、かつての城下町。
中心には山がそびえる。その頂上にある、お城の「天守閣」が、町を見下ろしている。
春から夏に移ろいゆく季節を感じながら、わたしは、そんな町を走っていた。
わたしは一年生のころから今の六年生になるまで、ずっと、かけ足で登下校している。
……何となく、楽しくて。
走りやすいよう、いつもは、かみをお団子にまとめている。
ともかく、いつも通りの下校をする中、通学路にて事件が起きた。
わき道から、ぬいぐるみのような物が飛び出してきたのだ。
それは、つぎはぎだらけのカメのぬいぐるみに見えた。
しっぽから頭までの長さは、わたしの身長の三分の一くらいだろうか。
が、ゆっくり観察するひまは、なかった。
カメが目をぱちくりさせ、こうらの破片をいくつも飛ばしてきたからだ。
破片のスピードは、けた外れだった。
わたしは、背負っているかばんに付けている、防犯ブザーに手をのばす。
しかし、こうらの破片の一枚が花びらのように飛んできて、ブザーをくるんでしまった。
これでは音を鳴らせない。他の物を出しても、同じような結果になりそうだ。
周囲には、だれもいない。
あまりの事態に声も出ない。
全力で、にげた。
カメと、そのこうらの破片がわたしを追いかけてくる。
わたしは路地の行き止まりに追いつめられた。せまりくる多くの破片が、目に映る。
ちょうどそのとき――。
「みなさーん、ぬいぐるみが動いていますよ!」
――という大声が、いきなり、ひびいた。
同時にカメの動きが少し止まる。わたしの防犯ブザーをくるんでいた破片が、はがれる。
ついで、こうらのかけらの群れがカメの背中にもどっていく。
それからカメは、四つの足を地面につけたまま、そそくさと去っていった。
ここで、路地に面している家の窓の一つが開いた。
窓から顔を見せたのは、きれいな、若い男の人。その切れ長の目に見られたとき、意味もなく、わたしは頭を下げた。向こうの人は首をかしげながら、窓を閉める。
「これじゃあ、まるでわたしが、いたずらで大声を上げたみたいじゃん……。それとも、わたし、夢でも見てたのかなあ」
やっと声を出せたわたしは、つぶやきつつ、路地から出ていこうとした。
直後、呼び止められた。
「おい、待てって。おまえ、おれを拾えよ。せっかく助けてやったんだからさ」
「だれですか」
わたしは声に反応し、ふり向く。
そこは路地の行き止まり。人の姿は見当たらない。
ただ、何か変な物が落ちていた。こしを曲げ、わたしは、それに顔を近づける。
「何、これ、マイク?」
棒の上に、あみの目の丸い物が置かれた形状――。
それは、まさしくマイクだった。
にぎってみると、想像以上にわたしの手にフィットした。
「落とし物かな。交番に届けなきゃ」
「持って帰らねーの?」
マイクから音がする。声変わりしたばかりの、男の子の声だ。
「さては、おまえ、おれを音の鳴るおもちゃと思ってやがるな。それなら、おまえが話しやすい姿を生成するか」
すると、わたしの視界に、だれかの足が急に映った。
背筋をのばし、わたしは前を見た。
そこに、わたしよりも少し背の低い、男の子が立っていた。そのかみには軽くパーマが、かかっている。どことなく、男の子のかみは、マイクのあみの目に似ていた。
男の子は、せきばらいし、口をとがらせる。
「こんなとこか。じゃ、改めて、さっきから言ってる通り、そのマイク、拾って家に持ち帰れよな」
「いや、これ、落とし物でしょ」
右手に持ったマイクに視線を落とし、わたしは返答する。
「勝手に自分の物にしたら、悪いじゃん」
「じゃあ落とし主が、たのめば、どうかな」
「あ、これ、君のなんだ。返すよ」
「つーか、おれが、そのマイク」
「えー、何それー」
「マジなんだが。じゃあ証明してやる。いったん、おれを――マイクを手放してよ」