表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/27

第一話 イア太とアマノは、めぐり会う。

 不思議なマイク、イア()と――。

 わたし、今川(いまがわ)天野(あまの)が出会ったのは、つい昨日(きのう)のことだ。


 場所は、かつての城下町(じょうかまち)

 中心には山がそびえる。その頂上にある、お城の「天守閣(てんしゅかく)」が、町を見下(みお)ろしている。

 春から夏に移ろいゆく季節を感じながら、わたしは、そんな町を走っていた。

 わたしは一年生のころから今の六年生になるまで、ずっと、かけ足で登下校している。

 ……何となく、楽しくて。

 走りやすいよう、いつもは、かみをお団子(だんご)にまとめている。


 ともかく、いつも(どお)りの下校をする(なか)、通学路にて事件が起きた。

 わき道から、ぬいぐるみのような物が飛び出してきたのだ。

 それは、つぎはぎだらけのカメのぬいぐるみに()えた。

 しっぽから頭までの長さは、わたしの身長の三分の一くらいだろうか。


 が、ゆっくり観察するひまは、なかった。

 カメが目をぱちくりさせ、こうらの破片をいくつも飛ばしてきたからだ。

 破片のスピードは、けた外れだった。

 わたしは、背負っているかばんに付けている、防犯ブザーに手をのばす。

 しかし、こうらの破片の一枚(いちまい)が花びらのように飛んできて、ブザーをくるんでしまった。

 これでは(おと)を鳴らせない。(ほか)の物を出しても、同じような結果になりそうだ。

 周囲には、だれもいない。

 あまりの事態に声も出ない。


 全力で、にげた。

 カメと、そのこうらの破片がわたしを追いかけてくる。

 わたしは路地の()()まりに追いつめられた。せまりくる多くの破片が、目に映る。

 ちょうどそのとき――。


「みなさーん、ぬいぐるみが動いていますよ!」


 ――という大声が、いきなり、ひびいた。

 同時にカメの動きが少し()まる。わたしの防犯ブザーをくるんでいた破片が、はがれる。

 ついで、こうらのかけらの群れがカメの背中にもどっていく。

 それからカメは、四つの足を地面につけたまま、そそくさと去っていった。


 ここで、路地に面している家の窓の一つが()いた。

 窓から顔を見せたのは、きれいな、若い男の人。その切れ長の目に見られたとき、意味もなく、わたしは頭を下げた。向こうの人は首をかしげながら、窓を閉める。


「これじゃあ、まるでわたしが、いたずらで大声を上げたみたいじゃん……。それとも、わたし、夢でも見てたのかなあ」


 やっと声を出せたわたしは、つぶやきつつ、路地から出ていこうとした。

 直後、呼び()められた。


「おい、待てって。おまえ、おれを拾えよ。せっかく助けてやったんだからさ」

「だれですか」


 わたしは声に反応し、ふり向く。

 そこは路地の行き止まり。人の姿は見当たらない。

 ただ、(なに)か変な物が落ちていた。こしを曲げ、わたしは、それに顔を近づける。


(なに)、これ、マイク?」


 棒の(うえ)に、あみの目の丸い物が置かれた形状――。

 それは、まさしくマイクだった。

 にぎってみると、想像以上にわたしの手にフィットした。


「落とし物かな。交番に届けなきゃ」

「持って帰らねーの?」


 マイクから(おと)がする。声変わりしたばかりの、男の子の声だ。


「さては、おまえ、おれを(おと)の鳴るおもちゃと思ってやがるな。それなら、おまえが話しやすい姿を生成するか」


 すると、わたしの視界に、だれかの足が急に映った。

 背筋をのばし、わたしは前を見た。

 そこに、わたしよりも少し背の低い、男の子が立っていた。そのかみには軽くパーマが、かかっている。どことなく、男の子のかみは、マイクのあみの目に似ていた。

 男の子は、せきばらいし、(くち)をとがらせる。


「こんなとこか。じゃ、改めて、さっきから言ってる(とお)り、そのマイク、拾って(いえ)に持ち帰れよな」

「いや、これ、落とし物でしょ」


 右手に持ったマイクに視線を落とし、わたしは返答する。


「勝手に自分の物にしたら、悪いじゃん」

「じゃあ落とし(ぬし)が、たのめば、どうかな」


「あ、これ、君のなんだ。返すよ」

「つーか、おれが、そのマイク」


「えー、(なに)それー」

「マジなんだが。じゃあ証明してやる。いったん、おれを――マイクを手放してよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ