第十五話 ミニシン探しと山登り。
夜が明けて、日曜日。
わたし、今川天野は、生成AIを内蔵したマイク、イア太を片手に持って、外に出た。ミニシンを探すために。
午前中は、自分の部屋で休んでいた。
前日のつかれを取るためだ。昨日は、あわただしかった。ミニシンと戦ったり、イア太の生まれた研究所に行ったりした。
しっかり休んで、午後から動く。改めて、かみをお団子にまとめ、気合いを入れる。
おじいちゃんとおばあちゃんは、「家にいたほうが、いいんじゃないかい」と心配してくれたが、わたしは「先手をしかけたほうが、かえって安全!」と言って家を出てきた。
それでも、おじいちゃんは、ついてこようとしたが……。
おばあちゃんが「あたしたちでは、かえって足を引っ張るだけだよ」と言って、おじいちゃんを止めた。
天守閣の見下ろす町を走りながら、わたしはポケットから写真を取り出す。千代原さんから受け取った二枚の写真を、改めて見る。
それぞれに、まだ見つかっていないミニシンが写っている。
どちらも、つぎはぎだらけの、かわいい「ぬいぐるみ」の姿である。
「えっと、一枚はリスさん型。もう一枚は、うすい黄色のヒヨコさんかー。他のミニシンに比べて、小さいね。写真の中で、どっちも手に乗ってるし」
「そのサイズだからこそ、連中たちの目をのがれることが、できたっぽいな」
わたしの見せる写真を前にして、イア太が冷静に声を出す。
「かつ、連中のしかけたテロメアの誤認……『大人を子どもに見せかける作戦』を、この二体は見ぬいたんだろう。だがアマノは本物の子どもだ。じきに向こうから会いに来るさ」
「だれもいないところのほうが会いやすいかな。だったら自然が多い場所で探そう」
わたしたちは、山の中に入る。
天守閣を頂上に持ち、その下に研究所をかくす例の山だ。
「灯台もと暗し……って言うんだっけ。案外、近くに、いるんじゃない?」
「可能性は高い。連中も山を一通り探したと思うけど、相手が小さいとなれば、お手上げだろうぜ」
「わなとか、カメラとかを生成して、ミニシンを探すのは、どう?」
「ミニシンには、そういうの、通じねえんだよ。町の防犯カメラの目すら、完全にさけることができるし」
「なら、地道に探し回るのが一番だね。でも、ちょっと大変になってきたかも」
進むたび、生えている木が多くなる。坂も急になる。
わたしの片手は、マイクのイア太でふさがっている。
転んだら、危ない。
「プロンプト入力。右のそでを素材にして、少し長めのリストバンドを生成。マイクを、そこに収納できる感じでお願い。ふったら、手の平にイア太が落ちてくるのがベストかな」
「分かりやすいプロンプトで、こっちも助かるぜ」
直後、わたしの着ている服の、右そでの一部が破れた。
その部分は、長く太いリストバンドの形になり、わたしの右手首に、はまった。
リストバンドには二つの穴があいていた。
「おまえのうでを通す穴とおれを収納する穴だ。外見のバランスを考えてリストバンドは全体的に太くした。かつ、歩きや走りで手をふる程度では落ちないようにも調整した」
「そこまで、してくれたんだ。ありがとう」
さっそく、イア太をリストバンドに収納する。
その状態で右手を垂らし、強く、ふってみると、イア太の頭部が手の平にするりと落ちた。さらに、おし返すと、あっさりイア太が元の穴にもどった。
「すごい! まさに、『こういうのを思いえがいていた』って感じの物だよ」
「アマノのプロンプトが的確だったからだ。おれがおまえの思考パターンをずっと学んでいるからでもある」
「頭を使い続けていたら、つかれない? 電池、切れたりしないの?」
「生成に使用する例の『風』で自家発電してるから、問題ない。ともかく、ミニシン探しを再開しようぜ。あと、これも出しとくか」
その言葉と共に、男の子のイア太がわたしのとなりに出現した。
「おれが子どもになりきっていたほうが、ミニシンも油断するだろうからな」
マイクのあみの目に似たパーマを、自分の指で、とんとん、たたく。
「向こうに男の子の姿は見えないけれど、おれ自身の気分も大事だし。ちなみに直接ふれなくても、てぶくろやリストバンドごしなら、本人の目にまぼろしを映すのは簡単だよ」
それから、わたしたちは、木々のあいだをぬけていき――。
ついに前方ななめ上に、ヒヨコ型のぬいぐるみを見つけた。
遠くからでも、つぎはぎが分かる。
ミニシンにちがいない。
わたしはリストバンドから、マイクのイア太を出し、がけの上をよちよち歩くミニシンを見上げて、「ヒヨコさんの近くの石を素材にして、鳥かごを生成」と言った。
が、何も起こらない。