第十四話 決意を新たに、はげみます!
「ありがとう、おじいちゃん、おばあちゃん」
イア太と共にいていいと認めてもらえて、わたしは、うれしかった。
「良かった。ね、イア太!」
「ああ。だけど、まだ考えるべきことは、あるぜ。ミニシンとの戦い……そして」
「え? ミニシンは全部、千代原さんが見つけたんじゃ?」
「水そうのぬいぐるみの数が足りない。だろ、連中?」
そんなイア太のするどい声に、千代原さんが反応する。
「今も、わたしたちは探しているが、あと二体、見つかっていない」
千代原さんは、すわっていたイスから立ち上がり、部屋の中央の水そうに近づく。
そこに満ちた液体の生成AI「トランス・ペアレント」の中で、カメやクジラを始めとするミニシンたちが泳いでいる。
「すでに、わたしは、この町を『大人のにおい』で囲った。ミニシンは町から出られない。包囲を少しずつ、せばめれば、いずれ、つかまえられる」
ついで千代原さんは、ふり向き、わたしと目を合わせる。
「その前に、君がおそわれる可能性もある。ミニシンと戦った思い出が、君の脳に残っているからだ。ミニシンは、それを読み取れる。結果、君は別のミニシンを引き寄せる」
「望むところです! 元々、イア太といっしょにミニシンと戦うつもりだったんです!」
「イア太を君に預けたのは、君が一人でミニシンに対処できるようにするためでもあるが、望むなら、別の安全な場所で君を保護する。護衛をつけてもいい」
「必要ありません。イア太とわたしは、無敵です」
「分かった。無理は、しないでくれ」
ここで千代原さんは、ちょっとだけ、うつむいた。
「君はイア太と共に、カメ型のミニシンを、どうやって大人しくさせたんだ」
「相手を学んだんです。ミニシンは、学びたい気持ちをおさえられず暴れていたようでした。でも、こちらから相手自身を学べば、サプライズになって満足させてあげられます」
「一人で考えたのか」
「いえ、イア太といっしょに思いついて、実行したことです」
「すごいね」
千代原さんは、もう一度、水そうのほうに目を向け、ぬいぐるみたちを見つめた。
「わたしは、電流を使ってミニシンたちを強制的に停止させる指示を、回収チームに出していた。それしか、できなかった」
そう言って千代原さんは、とうめいの上着をひるがえし、この部屋から出ていった。
が、すぐに帰ってきた。
写真を三枚、わたしに、わたす。
「二枚は、まだ見つかっていないミニシンの姿。そして、あと一枚が、問題の」
若い男の人の、はにかんでいる写真。
それを、千代原さんが指差す。
「かれが――、一度イア太をさらい、ミニシンたちを町に解き放って研究所から消えた、和屋だ。見かけたら、にげてくれ」
「きれいな人」
わたしは、おじいちゃんとおばあちゃんにも和屋の写真を確認してもらった。
「見覚えのない顔だね」
二人共、同じ反応だった。
でも、わたしとしては、どこかで会ったような気もする。
そして、わたしとおじいちゃんとおばあちゃんは、研究所をあとにする。
千代原さんから事情説明は受けた。
もう、ここでの目的は果たしたのだ。
研究所をかくす、お城の天守閣――そこから出る。
車を運転して、千代原さんがわたしたちを家まで送ってくれた。
わたしたちは千代原さんに、お礼と、別れのあいさつを伝えた。
「では、生成AIつかい、今川天野! イア太と共に、はげみます!」
「何だ、その『生成AIつかい』というのは」
首をかしげる千代原さんに、わたしは胸を張って答える。
「わたし、イア太の生成を初めて見たとき、魔法みたいだなーって思ったんです。服装も、戦いやすいように変えられますし。今は、とっくに元の格好にもどってますけど」
「はは、それは科学技術のたまものだよ。仕組みが分からなければ、何でも魔法に見えるのさ」
「ですよね、イア太は魔法のつえじゃなくて、生成AIです。わたしも魔法つかいじゃ、ありません」
イア太をにぎりしめ、マイクに音を――プロンプトをふきこむように、わたしは言う。
「だから、わたしは、『生成AIつかいアマノ』なんです!」
「そうか、イア太との関係も大事だな」
最後に千代原さんが、ささやく。
「この先、何があっても天野さんだけは、わたしの孫を信じてやってくれ」