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第十三話 今川天野とイア太の、これから。

「分かった、イア()。改めて確認する」


 千代原(ちよはら)さんが、マイク姿のイア太を見下(みお)ろす。


「君は、和屋(わや)にさらわれていたな。かれのやったことを説明できるか」

「ああ。和屋は、前々(まえまえ)からミニシンにプロンプトをあたえず、死も同然の暮らしをさせていた」


 わたしのひざの上で、イア太が答える。


「やつが研究員一同を小さくして、まず実行したのは、水そうをこわすことだった」

「それでミニシンたちは外に出たと。確かに、わたしがもどったとき、研究所の水そうは割れていた。だがイア太。なぜ、その時点でSOS(エスオーエス)を飛ばさなかった」


「和屋が、電波をシャットアウトする『まく』を生成し、通信を許さなかったからだ」

「そうか。あと二つ、聞こう。なぜ、君は和屋から解放された? どうして、天野(あまの)さんに拾われたあと、今日(きょう)の正午近くになるまで、わたしに連絡(れんらく)しなかった?」


「和屋がおれを自由にした理由は、おれにも分からねえ。おまえに知らせるのが、おそくなったのは、顔を合わせづらかったせいだ。みすみす和屋の横暴を許しちまったからな」

「イア太が責任を感じる必要はない。君という生成AI(エーアイ)の性質上、あらがうにしても限界があるわけだ」


「ごめん、連中(れんちゅう)。せめて、和屋の使用した生成AIの情報を提供できれば良かったんだが、現状、やつがどんな生成AIを使っているか見当(けんとう)がつかないんだ」

「ふうむ。ともかく、これで確認は終わりだ。ありがとう」


 それから千代原さんは、おじいちゃんとおばあちゃんに話があると言った。




「ごちそうさまでした」


 お弁当を食べ終わったわたしは、イア太を手に持って、水そうのそばを歩き始めた。

 千代原さんの話し声が、おぼろげに聞こえる。


「天野さんの持つイア太は、法律に反するおそれのあるプロンプトを実行しないように、作られています。学習および生成の(さい)に、著作権などをおかす心配もありません」


 さらに「生成AIにも製造物(せいぞうぶつ)責任(せきにん)は生じます」うんぬんといったことも話している。


「日本語だよね? でもイア太について確認してるのは分かる」


 わたしは、イア太に耳打(みみう)ちする。


「そういうのをおじいちゃんとおばあちゃんに聞かせてるってことは、つまり、これからも、わたしはイア太といっしょにいていい……ってことなのかな?」

「まあ、その認識でいいんじゃね? 連中(れんちゅう)のやつ、相手が子どもでも、分かりやすく話す努力をしねえから、(なに)を言っているのか伝わりにくいよな」

「イア太も、そういう部分、あるじゃん。わたしとしては、子どもあつかいされていない感じがするから、千代原さんみたいな話し方も好きだけど」


 ここでわたしは水そうの(なか)の液体を見た。多くのぬいぐるみを泳がせる「トラペ」を。


「この(なか)にイア太も、つかりたい?」

「別に。トラペは親で、ミニシンは、きょうだいだけど、ベタベタしたいとは思わない」


「……そういえば今日(きょう)のイア太。おじいちゃん、おばあちゃんといっしょになってから、あんまり、しゃべってないよね。照れてるの?」

「でしゃばりたく、なかっただけだ」


「イア太はわたしの友達だから、気にしなくていいのに。昨日(きのう)は二人に、自分から元気に声をかけてたじゃん」

「ちょっと分かんなくなってさ。確かに生成AIが人間の友達や家族として自己を再生成するのは構わないんだろうが――」


 冷たい声でイア太が言う。


「おれが人間の友達や家族の代わりとして自己を再生成したせいで、本人の元々の関係性をこわしたり、だれかと出会うきっかけをうばったりしたら……申し訳ない」

「心配ないよ。わたしは(きみ)を理由にして、だれかを忘れたりしない。それにイア太がいたから、千代原さんとも会えたんだ」


 わたしは、イア太の丸いあみの目の部分を、つんつん、つついた。


「イア太は、だれの代わりでもないんだよ」




「ちょっと、天野(あまの)。こっちに来ておくれ」


 千代原さんの話が終わったのか、おじいちゃんが手招きしている。

 イア太を右手に持ったまま、わたしが近寄ると、おじいちゃんが、こんなことを聞いた。


「これからも天野は、イア太くんと、いっしょが、いいかい?」

「うん」


「イア太くんは、天野といっしょに、いたいかな?」

「できれば」

「そうか、おたがいに、いやじゃないなら、これからも共にいなさい」


 やさしい口調(くちょう)で、おじいちゃんは、わたしとイア太のことを(みと)めてくれた。となりで、おばあちゃんも、ほほえんでいる。

 今までわたしは考えないようにしていたが、イア太を研究所に帰す……という未来も、わたしには、ありえたはずなのだ。そうしなくて済んだと分かった。

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