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第十二話 始まりは何だったのか。

 晴れて研究所にもどれた、水そうのカメに、わたしは手をふり返した。

 そんなわたしの近くに――。

 研究所のリーダーを務めていたという、千代原(ちよはら)連中(れんちゅう)さんが立つ。


「この水そうの液体こそが、君の持つマイクや、ミニシンを作った生成AI(エーアイ)だ」

「液体が、生成AI?」


 水のような「とうめい」の(なか)、たくさんのぬいぐるみが、ゆうゆうと泳いでいる。


「さっき割れた部分がもどったのも液体自体が動いたのも、生成の結果だったんだ……」

「AIを生み出す生成AI。名を『トランス・ペアレント』と言う」


「その『トラペ』の親が千代原(ちよはら)さんなんですね」

「君の略し方はともかく、そうだよ。わたしの夢は『AI』という言葉の消失にある」


 千代原さんは、水そうの表面をなでながら、ひとりごとのように言う。


「AIつまり『人工知能』が生成したAIは、人が直接、関わらないので、人工から少し遠くなる。AIから生まれたAIが新たなAIを生成し、さらにそのAIがまた別の生成AIを生み出す……これをくりかえし、始まりに人がいたことも忘れるくらいに生成AIの世代を連ねていく。しかし人工知能がその自然的な性格によって別の知能を作ったのなら、『人工知能(じんこうちのう)工知能(こうちのう)』……『AII(エーアイアイ)』とでも言うほうが適切じゃないか? この『(エー)』だけが、はしっこに一つ取り残され、『(アイ)』ばかりが無際限(むさいげん)に続く未来を想像してほしい。そうして『知能』が重なり、『人工』の割合は限りなくゼロに近づく。もはや『人工』という、枕詞(まくらことば)()らなくなる。――わたしは、そういう世界を夢見ている」

「……はい?」


 会話のレベルに追いつけない。

 わたしは、別の話題を探す。

 よく見ると、水そうの(なか)のミニシンたちが、千代原さんの近くに寄っている。


「そういえばイア()によると、悪いミニシンは子どもの前にしか現れないとのことですが、この子たちが大人の千代原さんから、にげないということは」

「もう悪いことは、しないという意思表示だろう。しかられる心配がないのなら、大人をこわがる意味もない」


 それから千代原さんは後ろを向いた。

 遠くから水そうを見ていた、わたしのおじいちゃんとおばあちゃんにも声をかける。


「この研究所にみなさんを案内したのは、今回の(けん)の事情説明のためでしたね。お弁当がありますから、めしあがりながら聞いてください」




 わたしたち三人は、用意されたイスに、こしかけ、「いただきます」と言った。

 みずみずしい野菜の(はい)ったお弁当をほおばりつつ――。

 千代原さんの話に耳をかたむける。


「元々、わたしは、この研究所のリーダーでした。トランス・ペアレントの開発および、それの生んだAIの観察と修正をしていました」


 ちなみに千代原さんもイスにすわっているが、(なに)も食べていない。


「そんな(なか)、トラペを別の場所に移す計画が始まりました。(ほか)の場所でも正常に機能するかテストするためです。そのテストを、開発者のわたしが主導する話になりました」


 さっそく、千代原さんが、わたしの「トラペ」という略し方を使っている。


「わたしは研究所をはなれる際、和屋(わや)という男をリーダーの後任に指名しました。トラペ開発で、一番がんばってくれた協力者です」


 ここで千代原さんは、右手で自分のおでこをおおった。


「トラペの作ったAIたちも、和屋に預けました。そして、わたしが去ってから二か月後、和屋の姿が消えました。ミニ・シンギュラリティ(すべ)てと、マイク型の生成AIと共に」

「和屋さんといっしょだった研究員の方々(かたがた)は、事前に(なに)か気づかなかったのかね」


 おじいちゃんがそんな質問をすると、千代原さんは「もっともな疑問です」と言って、ため息をついた。


和屋(わや)が消える一日前、研究員のうち全員が『再生成』を受け、小さくされたんです。おかげで和屋自身は好き放題。独自の生成AIをひそかに開発し、それを使用したと思われます」

「そんなことをする人だと、千代原さんは考えていなかったんですね?」


 お弁当の野菜をかんで飲みこんだあと、おばあちゃんが、やわらかく聞いた。


「――はい、わたしの責任です」


 千代原さんは、おでこに当てていた右手をはなした。


「その日は、研究員からの定時連絡(れんらく)がありませんでした。わたしは心配になり、急いで研究所に帰りました。が、研究員やAIたちの姿がどこにも()えません。しばらくして研究員のサイズがもどり、かれらが和屋の裏切りを知らせてくれたのです。わたしはすぐにミニシンの回収に着手しました。すでに二十九体を自主回収しています。ミニシンたちを落ち着かせるために、トラペも研究所にもどしました。トランス・ペアレントは、ミニ・シンギュラリティの親ですからね」

「暴走しているミニシンは、大人の前には現れないはずです。千代原さんたちは、どんな方法でミニシンを見つけ、大人しくさせたんですか」


 わたしも、おじいちゃんとおばあちゃんに続いて質問してみた。返答は――。


「テロメアの長さをかんちがいさせた。ミニシンは子どもと大人を、その長短で判断しているからね」

「テ、テロメ? ……ともかく(なん)だか複雑です。これからわたし、イア太といっしょに、ミニシンたちと戦うつもりでしたから」


「いや、原因は、こちらにある。それなのに、問題を子どもに丸投げするわけには、いかない」

「そう、ですか」

「ところでマイク、確認したいんだが」


 千代原さんが、わたしのひざに置かれたイア太に視線を落とす。

 イア太は、はっきり応じる。


「……連中(れんちゅう)。これからは、おれをイア()と呼んでくれ。アマノと生成した名前さ」

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