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プロローグ 今川天野(いまがわあまの)は「生成」する。

「――リジェネレーティブ!」


 わたし、今川(いまがわ)天野(あまの)はマイクを手に持ち、さけんだ。

 すると、わたしの着ていた衣服が、別の服へと変化(へんか)する。

 派手(はで)なジャケット、ふわりとしたスカート。

 ちょっと見慣れないデザインだけど、動きやすい服装だ。

 マイクをにぎったまま、わたしは走る。


 ここは、砂のあらしで囲まれた明るいグラウンド。

 正面には、つぎはぎのあるカメのぬいぐるみが()える。

 いや、近づくにつれ、それが、ただのぬいぐるみではないことが明らかになる。

 しっぽから頭までの長さが五十センチくらいのカメが、わたしをにらむ。

 その正体は、本物のカメですらない。

 そう、わたしが今、相手にしているのは――。

 (かたち)を持った「AI(エーアイ)」だ。


「アマノ、相手の動きに気をつけて!」


 そう言ったのは、わたしの持っているマイク。

 走りながら、わたしは、うなずく。

 直後、目の前のカメが全身をふるわせる。

 背中のこうらが破れ、多くのかけらになって、わたしに向かって飛んでくる。

 それらが当たる直前、わたしはマイクを構えて、さけんだ。


「プロンプト入力!」


 地面をけり、砂を巻き上げる。


「砂を素材にして、カーテン、『生成』!」


 わたしの声がひびくと同時に――。

 巻き上がった砂が広がり、(ひと)つのカーテンになった。

 生成された砂のカーテンが、こうらのかけらをはじき飛ばす。

 しかし砂だけで(すべ)てを防げるほど、あまくは、なかった。


 じきにカーテンが破られる。カメの飛ばしたこうらが、こちら(がわ)に顔を見せる。

 が、わたしには当たらなかった。すでに、わたしが右に移動していたから。

 カメは、おどろいている。

 相手が次の行動を起こす前に、わたしは再びマイクにさけぶ。


「プロンプト入力。わたしの『くつ』の底を作りかえて、ばね生成」


 この「プロンプト」にともない、左右のその部分が変形する。

 ばねの力を両足に感じながら、わたしは、とんだ。

 カメのそばに寄り、その(くち)に向かってマイクを差し出す。


「ラーニング!」


 わたしが声を上げると共に、カメの動きが数秒、()まる。

 そのあと、カメの飛ばしていた、こうらのかけらの群れがもどってきた。

 再度、それらがカメの背中に収まり、もう一度、飛ぼうとする。

 ()を置かず、わたしは「プロンプト入力」と(くち)にし、早口(はやくち)で唱える。


「さっき学習したことを参考にして、こうらのかけらの動作を生成。素材は、くつ。カメを(つつ)みこむように。足りないなら、わたしの服の一部も使って!」


 すると、わたしの、はいている左右のくつが、ばねごと分解された。

 身にまとっているジャケットのそでも、スカートのすそも、部分的に消失する。

 代わりに、多くの破片になったそれらが、まるで先ほどのこうらの動きを再現するように細かくちぎれ、カメを取り囲んだ。


「悪いけど」


 わたしは思わず、つぶやいていた。


「改めて、からを破って世界を見つめて」


 わたしの生成した多くの破片が、カメの周囲をうめつくし、それを(なか)に、ふうじこめた。




 しばらくして……カメを(つつ)みこんでいた破片の「から」が破れた。

 カメは、うなだれている。すでに敵意はない。

 つぎはぎだらけのカメのぬいぐるみが、かわいい姿を見せているだけ――。


「やったなアマノ。じきに連中(れんちゅう)がこいつを保護しに来るから安心しなよ」


 わたしの右手で、マイクがそんな声を出す。


「とはいえ改めて確認するけど、プロンプトを入力する(さい)に、いちいち、さけんだり、『プロンプト入力』と言ったりする必要はないからな。最低限の声だけで、いいんだぜ」

「いや、さっきは必死で」


 わたしは、しゃがむ。

 左手でカメのこうらをなでながら、けだるく答える。


「でも、こうして、この子を助けられたから、万事オーケーだよ」

「おれも良かったと思ってる。こいつらは、おれの『きょうだい』みたいなもんだから」

「この子はAIで、イア()も『生成(せいせい)AI(エーアイ)』だもんね。ほんとに、良かったあ。……イア太、わたしといっしょに戦ってくれて、ありがとう!」


 それに対して、イア太は――わたしの持つマイクは、「こっちこそ」と小さく言った。

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