Priority seat
電話を切り終わった茂と美沙子は、
狐に化かされた後のように呆然としていた。
「何なの……今年の謎解きイベントは……
本当にヤバいイベントなのかな……」
「……やばかろうがやるんだろ? ハワイのためさ。
マイナスな事を考えるより、頭を働かせたらどうだ」
「茂は大丈夫なの!? 暗号解読しないと先に進めない謎解きイベントって何!?」
「あいにく……俺は浮世から隔離させていただいたからなんとも。
姉貴が毎年行ってるイベントのことも知らんそれより」
茂は、先ほどの画面に戻した。
画面には、黒地に白い囲いが描かれており、
囲いの中に 『Next clue: Call this number - 000-010010-111000』
と書かれている。
美沙子は電話で言われた事を思い出していた。
「隠された素数をかけろって言ってたっけ?
0と1かな」
「……0も1も素数じゃないけどな」
「え、じゃあ隠された素数って何? あ、わかった!」
美沙子は手柄を取った足軽の如く顔になり、
「10だ!!」
と答えた。
「素数じゃないな」
「えー……」
美沙子は顔を萎ませた。
「そもそも、一度問題文をちゃんと思い出すことだ。
『隠れている素数』だよ。
11や10111……は確かに素数だが、
『隠れて』ないだろ。
疑うべきは……」
茂はパソコンを操作した。
「やっぱり。こっちじゃないか?」
「え、何?」
美沙子は、何がなんだかわからなかった。
「この画面のサイズだよ。509×503だ。
実際これをかけると……? 256057
それで?…… ……頭三桁を三等分すると?
2-5-6か」
茂がまた、映画の悪役のような顔になり、美沙子は複雑な気分になった。
「どこの? どこの2-5-6だ?」
茂は貧乏ゆすりをはじめた。
「えっと……『疲れたなら楽をして、優先席に座れ』だっけ……」
美沙子はスマホで山手線の路線図を検索する。
「…… ……『有楽町』じゃない?」
「『優先席』って?」
「だから、『有楽町』の『ゆう』」
「うーん……」
言ってみたものの、当の美沙子もなんだか釈然としなかった。
暗号やら、文字のサイズやら調べさせておいて、突然初級編のクイズ問題みたいなものが出てくるとは思い辛かった。
「優先席……Priority seat……」
日の当たらない部屋で二人は黙り込む。
と、突然あることに気がついた美沙子が、
「ん? 『銀座』?」
「……はあ?」
「ほら。『シルバーシート』」
あ。と、確かに茂は思ったが……
「だとしたら山手線じゃないな」
「だからさあ、『有楽町』から行けってことなんじゃない!?」