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「犯人みっけ!」


 深夜、扉の内側で見張っていたアシーナは外で音がするので思いっきり扉を開けた。

 すると扉の外に何かを置こうとしていた誰かが吹っ飛んだ。

 仮眠をとっていたベルも、もそもそと起きてきて、アシーナの背後に控える。


「いたーい!」


 床にたたきつけられた女子が声を上げる。

 

「痛い?そう?」


 アシーナはその女子の手を引っ張り、体を引き上げる。


「これ、あんたが自分で考えたの?それとも指示されたの?」

「ひ、あの!」


 女子は気が弱そうで、おどおどした様子だった。

 これが実行犯のはずがなかった。


「誰に言われたの?」

「そ、それは!」

「うるさいですわ。野蛮な民ねぇ」


 寮の扉が開き、一人の女子が現れた。

 同室の女子は後ろに控え、その手にランプを持っている。

 

「何事ですの?」

 

 その女子たち以外にも、扉が開き始め、女子たちがローブを羽織り、扉から顔をのぞかせる。


「皆さん、この野蛮な民がうるさいですのよ」

「うるさいって何?この子が私たちの扉の前にゴミを置こうとしたんだけど?」


 アシーナはブチ切れながら、答える。


「うるさいです。本当」

「うるさいのはどちらでしょうか?スランダン伯爵令嬢様。あなたの声で他の方が起きられたのではないですか?」


 ベルはアシーナの隣に立ち、淡々と問いかける。


「私はうるさい声がしたので、様子を見るために扉を開けただけです。うるさいのはあなた方でしょう?」

「皆さん、どうしたんですか?いったい!」


 足音がして、中年の女性が現れる。

 それは副寮監であり、女子寮担当のクリティナだった。


「クリティナ先生。アシーナさんたちがうるさいのです。ちょっと静かにするように言ってもらえますか?」

「はあ?」


 アシーナは頭に血を上らせて、スランダン伯爵令嬢に突っかかる。


「事情を教えてもらえますか?寮監室にいらしてください。アシーナさん、ベルさん、そしてユリアさん」

「スランダン伯爵令嬢は呼ばないのですか?」


 暴れ出しそうなアシーナを押さえ、ベルが冷静に聞く。


「マチルダさんには明日お聞きします。さあ、皆さん、休んでください」


 アシーナは全く納得いかない。

 しかしベルに腕を掴まれており、仕方なく同意した。


 結局、こちらも副寮監クリティナからの注意のみ、犯人というか実行犯ユリアは注意を受けただけだった。


「ああ!もういや!」

「アシーナ?」

「こうなれば、明日ロナルド様に言って、婚約解消を迫るから。だって、もう面倒。学校なんていいや」

「まだ二日目だよ。本当にいいの?」

「うん。こんな場所、一刻も早く出ていきたい」


 学校に入学するまで、アシーナは期待をたくさんしていた。しかし実際はどうだ。嫌がらせは多い。これは受けて立つとしても、先生がまったく使えない。尊敬なんてできるわけがなく、教えを請いたいともアシーナは思わなくなっていた。


「……とりあえず寝よう。そして朝、ロナルド様のところへ行こう」

「うん。こんな時間だし。さすがに今日はもう何もないと思うし」


 ベルに提案され、アシーナは頷く。

 随分眠くなっていた。


 ベッドに飛び込むと、あっという間にアシーナは眠りを落ちる。

 ベルはそんな彼女に対して苦笑を浮かべる。そして隣のベッドに体を横たえた。

 

 ベルは女装しているが男だ。しかしアシーナはそういうことは全く気にしない女性だった。

 いや、ベルだから気にしないだけかもしれない。

 そう思うと、ベルは少しだけ悲しくなった。



「ロナルド様!」


 アシーナとベルは授業が始まる前に、ロナルドの教室へ行き彼を呼び出した。

 周りの視線は痛かったが、アシーナは構っている余裕はなかった。


「お話があります。ちょっと来ていただけますか」


 おそらくちゃんと話したのはこれが最初だろう。

 そう思いながら、アシーナはロナルドを誘う。


「あ、ルーカスも連れて行っていい?」

「どうしてですか?」

「君もそのベルを連れているだろう。そして事情を知ってる」

「ルーカス様もご存じなのですか?」

「当たり前だ」


 ロナルドにそう言われれば断われない。

 なので、人目が気にならない校舎の裏に四人はぞろぞろと向かった。


「早速ですが、私は結婚したくありません。ロナルド様もそうですよね?」

「へ?君、この私と結婚したくないの?」

「はい」

「どうして?」


 本当わからないとロナルドはアシーナに尋ねる。


「私は無理やり結ばされた婚姻は好きではありません。この婚姻は私の母の命を楯に結ばれたものですよね?」

「知ってるよ。それが?」


 ロナルドは悪気が全くない微笑みを浮かべている。


(この人、オカシイ。貴族って生き物がおかしいのかな)


「こほん」


 その後ろで黙ってたルーカスが咳ばらいをした。


「ロナルド様の常識はちょっと他の人とは異なるのです」


(そんなこと言われても。それがわかっても意味がないし)


 ルーカスの言葉はロナルドがオカシイ人と分かっただけで、あまり意味のないものだった。


「とりあえず、あなたの常識は置いとくとして、私はあなたと結婚したくありません!」

「どうして?私はこんなにカッコいいのに」


(この人、やっぱりオカシイ)


「もっと仲良くなろうか。そうすれば君も私の虜だよ」

「いやです!」

「どうして?」


 ロナルドとそんなやり取りを繰り返していると、最初の始業の鐘が鳴り始めた。


「遅刻だよ。君たち。教室へ戻ろう。また遊びにきてね」


 ロナルドは何事もなかったように、手を振って、そのまま元来た道へ戻っていく。ルーカスはそれに黙ってついて行く。


「ちょっと、待ってください!」


 アシーナが言ってみたが、二人の足は止まらなかった。


「僕たちも急ごうか?」

「……うん」


 ずっと黙っていたベルがそう言って、アシーナは頷いた。


 それから休み時間の度に、ロナルドの教室へ行き結婚しないと主張したのだがロナルドは取り合わなかった。


「こうなれば、暴力に訴えるしかない」


 翌日アシーナが部屋で宣言し、ベルは止めなかった。

 ロナルドには何をいっても無駄のような気がしたからだ。

 自己肯定感が非常に高くて、すべての女性が自分に惚れていると自負しているようなところがあった。


 昨晩念のため、二人は交互にごみ対策で寝ずの番をした。しかし、昨日の今日で、相手は何も手出ししてこなかった。

 教室にたどり着いても、机の上にいたずらされた形跡はない。相変わらずクラスメートは遠巻きに二人を見るだけであったが。


 今のアシーナにとって、そんな苛めはどうでもいいことになっていた。


「今日のお昼に仕掛けるよ!」

「本当にやる気なの?アシーナ」

「もちろん。だって相手は話が通じないオカシナな人だから」


 それは完全合意で、ベルは歯止めをかけるために学校についてきたのだが、今回ばかりは止めなかった。


 そうしてお昼、ロナルドとルーカスが食事しているところにアシーナは乱入した。


「ロナルド様。今日は力尽くで言うことを聞いていただきます!」


 食事が終ったのを見届けてから、アシーナたちは姿を見せた。


「面倒だなあ。ルーカス、とりあえず君が先に相手して」

「私ですか?」

「よろしく」


 ロナルドの頼みをルーカスは断ったことがない。

 ルーカスはため息をついた後、アシーナの前に立つ。


「まずは私がお相手しましょう」

「よろしくお願いします」


 そうして四人は場所を訓練所に移す。

 授業には剣技や体技も入っており、訓練所が敷地内に設置されている。屋外にあり、模擬戦なども行われる場所だ。

 訓練所の中心で、アシーナとルーカスが向かい合う。

 食堂で話をしたため、野次馬が集まっている。貴族のモットーが淑女紳士であることは、この際忘れておこう。


 アシーナはあまり期待せず、ルーカスに相対する。

 握手したときの柔らかい手。まるで令嬢のようだった。

 数分戦い、アシーナは自分の評価が間違っていたことを知った。

 ルーカスは剣を握らない。しかしその体術は完璧だった。

 何度かアシーナが投げられた後、ベルが代わりルーカスに勝負をかける。

 互角に戦っているようで、お互い出方を見ているような戦いだった。


「つまんないな。私は戻らせてもらうよ」

「卑怯な!」


 地面からなんとか立ち上がり、アシーナが咆哮する。

 しかしロナルドはそのまま背を向けていってしまった。




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