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彼は何者かという話

 中華人民共和国 香港特別行政区。通称香港。

 香港島、九龍半島、そして新界と分かれたこの地に、彼の住まいはあった。












 坂道の多い香港。その一つをのぼった山手のほうに古い洋館がある。壁はツタが覆っており、門柱はさび付いていて、郵便受けはすり減って名前が読めない。建物の周囲は南国特有の木々に覆われ、昼間でも人が通ることはあまりない。


 この屋敷の主人はリー・コウアンと言い、歳は四十路半ば。モデルなみのスタイルと俳優顔負けのハンサムガイとして知られていた。


 ちなみに彼は独身だった。人々は噂し合った。あんなに格好良いのにあの歳でやもめなんだ、一体なんでだろう? もしかしたらゲイなのか? いやいや、使用人が大勢いて、身の回りのことを全部やってくれてるらしいから、嫁さんのありがたみが分からないのだろう、等々。


 シャワーとトイレが同じ場所にあるような部屋で月に15000香港ドル(日本円でだいたい三十万くらい)するこの地で、庭付き一戸建に住み、ハウスキーパーを雇う余裕がある。聞けばお抱えのコックとやらまでいるとのことで、それは彼が金持ち、どうかすると桁違いの金持ちであることを物語っていた。香港にはそうした億万長者が多いから、彼もその一人なのだろう、と。


 しかし、一つ肝心なことが知られていなかった。それは彼の仕事に関することだった。 


 何で食べているのか、誰も知らないのである。


 屋敷の使用人に聞けば分かるのだろうが、彼らの口は牡蠣よりも堅く、身内はおろか寝言でも主人の秘密は洩らさない。

 

 ただ、コウアン氏自身が雑誌の撮影で――たまにモデルの替わりにファッション誌の表紙を飾ることがある――語ったのだが、仕事は親から代々引き継いできたもので、小売業なのだという。


 何を売っているのかまでは言わなかったらしいが、あまり儲かってないらしい。

 

 あくまで本人の言葉を信じるなら。ではあるけれど。




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― 新着の感想 ―
[一言] 雰囲気は良い感じです。 タイトルと相まって『小売業』に期待感もあります。 始まりとしては十分なんじゃないかと。
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