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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第一章 繋ぎ紡ぐは継承の証
9/89

後顧の憂いを断ちまくる

ただいま一章の修正作業をしております。今話から大幅なエピソード追加、変更を実施します。大まかな話の流れは変わりませんが、より楽しめるものになっていると思います。前後で話が合わなくなる場合がございますので、修正した話には↓のように前書きに『済』の印を置いておきます。できるだけ早めに終わらせます。混乱とご迷惑をおかけしますが、少々お待ちください。(江本)(2022.08.05 追記)


済(2022.08.05)


 時は少しだけ遡る。


『まあ俺は正直どっちでもいいんだけどな。その村の奴らの顔も名前も知らねえし』


「俺がよくない」


 平原を駆けながら、ツナギとリュウゴが会話する。村近くの、整備された石畳はここにはない。でこぼことした地面を蹴って前へ進む。


「まず、昨日の晩だ。あのゴブリンの群れはだいたい谷底に落としたが……引っ搔き回したのは俺たちだ。無関係とは言いづらい」


『モンスタートレインってか?気にしすぎだと思うぞ』


「俺もそう思うんだが……二つ目は、やっぱり『聖都』に行きたくない」


『激しく同意。クソエルムはいっぺん死ね!』


 リュウゴの暴言を、ツナギはスルーする。途中、川を飛び越えながらマーク村まで直線で最短距離を進む。『魔の森』と比べると随分と走りやすい。一体何の経験が役に立つかは分からないものだ、とツナギは思った。


「そして最後……て言うかこれが全てと言っても過言ではないんだが……」


 少しだけ上がった息を整えて、ツナギは走る速度を速めた。


「あの人たちを助けたい。それだけだよ」





 


 にらみ合いが続く中、両者のそのちょうど中心に、炎が落ちてきた。

 正確に言うと、燃える剣を持ったツナギがやってきた。


 突然の乱入者に両陣営共面食らうが、状況をいち早く飲み込めたのは果たして、スピルクであった。


「ツナギ君っ!」


 その言葉を聞いて、マーク村の自警団の面々も、ここにいる数名の騎士団員も、今目の前にいるのが誰か分かったようだ。あの逆立つ桃色の髪の少年が、なぜかここにいるのかと。


「皆さん!助けに来ました!!」


「なっ、どうしてここに!?」


「説明は後で。俺がゴブリンを倒します。皆さんは討ちもらしをお願いします!」


 確かに、悠長にしている暇はないのかも知れない。ゴブリンが空気を読んでくれるとは思えない。


『左手奥にいるヤツから叩くぞ。あの一際デカイヤツだ』


 ツナギが炎剣を掲げてゴブリンの群れへ突っ込む。


「キィィィィィァァ!」


 向かってくるゴブリンを斬ると、肉の焦げる音と匂いがした。炎の余波で辺りのゴブリンが怯み、その隙にさらに斬りつける。

 これでゴブリンに抵抗を許さずに倒すことができるが、いかんせん数が多い。


「ギイィィィィィ」


 足は止めず、剣を振るいながらゴブリンを斬り続ける。炎を纏いながら駆け回る姿はまるで舞いを踊っているようだ。

 見張り台からその様子を見ると、暗闇に、炎が滑るように敵を呑み込んでいた。それでも抜けてくるものは、自警団が弓で仕留める。騎士団もツナギと共にゴブリンの群れへと突っ込み、斬り伏せる。中には魔術を使う者もいる。どちらにせよ、ツナギには心強い友軍だ。実際は、ツナギこそが援軍であるのだが。


 ゴブリンはもうすでに逃げ出しているものもいた。後に残るのは死体ばかりだ。数百にも上るゴブリンの群れは、ものの十数分で壊滅した。


「ふぅ……」


 剣から炎を消し、そこに佇むのは、ツナギだ。血まみれのまま村へと近寄るも、中に入ろうとはしない。


「ツ、ツナギ君……君はいったい……」


「それじゃスピルクさん、俺はこれから森に入って後顧の憂いを断って来ます」


「あ、あぁ……」


 村まで死臭が漂って来ないのは騎士団の魔術だろうか。騎士団の内の一人がツナギに声をかけようとしたときには既に、ツナギは走り出してしまっていた。


「あぅぅ…行っちゃった……どうしよう」


 あまりのことに呆気にとられている間に、ツナギはさっさと行ってしまった。







 『魔の森』を抜けて来た、と聞いた時はそれほど気に掛けてはなかった。子どもの見栄だろう、と。あんな危険な所を子供が一人で通れるはずがない、と。

 しかし、彼の言葉は真実だった。村を救ってくれたのだ。


 スピルクは後悔の念に囚われつつも、まだ感謝の言葉を言っていないことに気付く。彼は村の恩人だ。


(あぁ、ツナギ君にありがとうって言わないとな……)







 マーク村に駐在している騎士団は、全部で三人いる。昨今の情勢を受けて、『聖都』側も各村々へと騎士団を派遣しているのだ。

 さて、騎士団が派遣されているとは言え『魔の森』に近いこの村は果たして安全なのだろうか。その答えは、騎士団の練度をもって証明される。

 先に結論から言ってしまえば、別にツナギが駆けつけなくとも村は安全だったというわけだ。かなり楽にはなったが。


(どうしよう……これってかなりまずいよね?あの子行っちゃったよぉ……)


 ゴブリンの群れを退け、安心が立ち込める騎士団と自警団の中で、ただ一人憂鬱な気分の人物がいた。その心境を語ると、仕事でミスをしてしまったときに近い。


(あわわ……そうだ。ニューさんに連絡しよう。困ったときには頼れって言われたし……)


 そしてその騎士団の団員――――パナールはフルフェイスの鎧の中で、ホート村へ向けて連絡を取った。





「おいニュー。ニュー……やいこらニュート!」


 場所は変わりホート村周辺。ここもまた、マーク村と同じくゴブリンの群れに襲われた。それも、より大規模で。しかし、それももう解決している。他ならぬこの村にいた騎士団によって。


「良かったな。パナールちゃんからのラブコールだ。聞いてやれよ」


「あ……あぁ。分かったよグレイ」


 パナールからの連絡を受け、さっきまでうずくまっていたニュートがのそのそと立ち上がる。二人がいる場所の近くには、マーク村と同じくゴブリンの死体が山のように積み上げられていた。


「しっかし……村人を逃がしといてよかったな。村自体は無事だが……コレを見せるのは流石にためらわれる」


 グレイが目を向けたのはゴブリンの死体だ。それ自体はマーク村とそう変わらないが、問題は数だ。倍どころではない、、文字通り桁が違う。


「お待たせしました。計測が終わりました」


「おつかれブラウ」


「えぇ。とても疲れましたよ。さて……合計で783体。目算の800とそれほど変わりませんでしたね」


「改めて数を聞くと気が遠くなるな。よく頑張ったよ、俺たちは……エルムさんなら2秒で終わってるだろうがな」


 大仕事を終えた彼らはお互いを称えあう。村を覆いつくさんとする黒い群れを見たときは死をも覚悟したが、死ぬ気でやれば案外何とかなるものだ。そして一息つこうとして――――


「なにぃ!?森に入ったぁ!?」


『え…あ…はいぃ……そうでしゅ……』


「そもそも何で、今そこにいるんですかぁ!?」


『ひぃっ…ごめんなさいごめんなさい』


 ニュートの叱責に、パナールの言葉が尻すぼみに小さくなる。″彼″とはもちろんツナギのことだが、騎士団との関係を語るにはツナギの黒歴史についても語らなければならないので今は割愛しよう。


「……いいですか、パナールさん。あなたは何も知らない。それでいいですね?そう、何も見なかった」


『ひゃ…』


「良くねえよアホ。なにもみ消そうとしてんだよ」


 ニュートの背後から伸びた手が肩をポンと叩き、グレイが声をかける。


「う…うぐ……胃の調子が……」


「芝居はいらないのでさっさと迎えに行ってあげてください。こちらは僕たち二人で片づけますので」


 ブラウからも冷たい眼差しを向けられ、ニュートはようやく観念する。


「芝居じゃないんだが……くそっ『聖託』め……さっさと代替わりしろっ!」


 自身の上司とも言える人物への言葉の限りの呪詛をまき散らし、ニュートは涙目になりながらも残業を覚悟する。何しろ、これからすることはとても疲れるのだ。


「くそぅ……今だけは自らの力が恨めしい……ではあとを頼みます。【転(じゃあなこの)移】(薄情者ども)


 次の瞬間、ニュートの姿が二人の前から消えた。瞬間移動、テレポーテーション、呼び方は何でもいい。とにかく、ニュートはホート村からマーク村へと一瞬で移動したのだ。


「……聞かなかったことにしような、アレ」


「えぇ。その方が賢明でしょう」


 グレイとブラウは、同僚の名誉を守るために先ほどのニュートの言葉は聞かなかったことにした。







 ツナギとリュウゴは、森の前に立っていた。血まみれの格好のままだ。


『で、ホントにこの辺の魔物を全部狩り尽くすのか?』


「ああ、そのつもりだよ」


 歩きながら物騒な事を話す二人は、ついに森の中へ入る。入ってすぐに、早速魔物を見つけたようだ。


「さて、とりあえず手当たり次第だな」


 まだ夜は開けそうにない。


…………………………


…………………


…………


「疲れた……」


 もうかれこれ2時間ほど戦い続けているツナギは、さすがに音を上げた。いったい何体倒したのだろうか。彼の背後にある死体の山は、そのほんの一部だ。


『スローターやりすぎじゃね?どう思う?ツナギ』


「でもまた村を襲われると困るしなぁ」


「アーサーも同じことをやっているしな」


『ホントかよ?ジジイが?』


「そうだ」


『あー、用事ってもしかしてそれか?』


 一仕事終えて話し合う三人(・・)。疲れ切った顔のの少年と、他の人からは見えない少年、そして全身をオレンジがかった羽毛でつつんだ、鳥だ。


 その鳥に気付いたツナギとリュウゴは、一拍置いてから驚く。


『うおぉぉぉっ!』


「びっくりした~」


 そんな二人を見ながら、オレンジの鳥は口を開く。


「久しぶりだな、ツナギ」


『何しに来たこの焼き鳥』


「我をそう呼ぶな!」


 ギャーギャーと言い合うリュウゴと鳥の声は、疲れた頭によく響く。耳を塞ぎながら、ツナギはさっさと帰りたいと提案する。


「あーもう……ほら、帰るぞ。リュウゴ、グレン(・・・)


 夜は、もうすでに開けていた。

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