極悪非道は誰か
◇ ツナギ
こんなにもたくさんのお金を見ることは、これからもないだろう。
金属の独特の匂いが鼻を刺激する。鼻血を出した時みたいだ。痛いのを思い出してちょっと嫌だ。
リュウゴがまた何か企んで、お金を作っている。オーパークもそれに協力しているようだ。
僕は成長した。リュウゴの言うことが全て正しいわけじゃない。むしろ間違っている時の方が多い。
だからちゃんと、自分で考えないと。
「ねえ二人とも、義賊やってきてくれない?」
『よっ!待ってました!』
◇
「ウチの実家をね、もう潰しちゃおっかなって思うの」
『いーぜ!爆弾でまとめて吹き飛ばしてやるよ!』
「それはやめて」
ジュールさんが言うには、父親の不正の証拠を掴んでほしいとのこと。あくどいことをやっているようだ。
「で、これがその証拠で~す」
ユーへインがおどけた調子で書類を手渡してくる。とても分厚く、一冊の本のようだ。
「こっちの仕事の合間に作らされたやつだ。失くしたら殺すぞ?」
「はっ……はい?」
目が笑ってない。とても疲れた目をしている。虫みたいな目だ。
『で?あれなに?』
「奴隷商」
『うっわモロアウトなやつじゃん。死ぬぞソイツ』
奴隷―――マノガスト聖王国では、それは認められていない。皇帝がアレなお隣のシュルロード帝国ではいざ知らず、ここでは犯罪だ。
「マノガストを経由しての横流しに噛んでるだけだから死にはしないさ。多分帝国からだろうね」
この国も、奴隷の黙認から絶対的な禁止へと変わったのはかなり最近―――400年くらい前に『聖託』のベラさんがなんやかんやしたそうだ。偉大な人なんだろうなぁ。
「じゃあ僕たちは適当に暴れて……これをホーマリオンに渡せばいいの?」
「そうねぇ……まぁ彼が妥当かな?」
『そーだな。どっかの誰かさんみたいに、忙しくても部下に丸投げしたらいいもんな』
「それは誰を憐れんでんの?」
『主におまえ』
「もうやだこのガキ!」
今日は『ゴールドバンク』という組織が活動を開始した日だ。2ヶ月くらい前から裏ではこそこそしていたが、表向きに。
人の良心に漬け込み―――じゃない、社会的責任を持つ者として人々を煽動―――でもない、とにかく「良いこと」をしているのだ。僕はそう、リュウゴを信じたい。
人が預けたお金を、困っているハルベルクへ送る。そこには持ちつ持たれつ、困った時にはお互い様という温かい世界が広がっている―――。
お前の利益が要らねぇけど。
『じゃあロンダリングは任せた!いい感じの起爆剤は任せろ!』
リュウゴがジュールさんに親指を立てて手を突き出すも、向こうからその姿は見えない。
「……ちょっと出てくる。知り合いに―――」
「じゃあシトロ、先に服頂戴。変装しないと!」
「……」
この場を離れようとしたシトロに待ったをかけて、先にこっちの用事を済ませてもらう。
大勢の前で素顔をさらす様なことがあってはならない。それはもう嫌だ。だってめちゃくちゃ恥ずかしいもん。
『あ、できるだけカッコいいので!』
「うるさい黙ってろ。人の善意を遮るな」
「?」
善意とはいったい何がどの辺が、とは思ったけど口には出さない。余計に話が拗れるだけだ。
シトロは、後で店に来るようとだけ告げ、銀行をあとにした。
決行は出来るだけ早い方がいい。別にわざわざ日を開ける必要もないし。
僕たちがハムスにいる間にさっさと済ませよう。
そう、例えば、今夜。
◇
暗い夜。
仮面越しに見る街の風景は、まばゆい街灯を除いて色褪せて見える。
『爆発は禁止されたからなぁ……。じゃあガラス割るかぁ!』
ジュールさんからある程度の破壊工作の許可は得ている。あくまでも「ある程度」ではあるが、リュウゴに常識は通用しないので極端な壊れ方をするだろう。
せっかくの大きな屋敷なのにもったいないな。
僕はペンダントから壺を取り出した。葉の模様がある壺だ。そしてそれを―――
「せ~のっ!」
屋敷に向かってぶん投げる。狙うのはガラス窓。投げた先に人がいないように、明かりの灯っていない部屋を狙った。
バリンッ、という音がし、窓と壺が割られる。僕はそこから屋敷の中へ入る。
暗い室内では、今着ているこの服のおかげで闇に紛れることが出来る。
黒いフード付きの外套と、黒い仮面。その他の服やレンズに至っても、全身黒ずくめだ。これではただの不審者だろうか。
……そもそも強盗に入っている時点で不審者もクソもないのだが。
目指すはザック・ミラハンドの執務室。ここに帳簿があるらしく、10年くらい前のやつに不自然な金の流れがあるらしい。
……絶対ウソじゃん。僕ならそんなもの怖くて残さない。
とにかく、いろいろ調べあげてユーへインが書類を作った、という体にするらしい。僕は件の帳簿を持ち出せばそれでお役目完了だ。
『にしてもガバセキュリティ過ぎんだろ。ジュールが何かやったか?』
屋敷に押し入ってから現在、向こうの動きはお粗末だ。バタバタと廊下を走る音が聞こえるだけ。一部はこちらに向かって来ているが、他にこれといった動きはない。
『まぁいいさっさとやれ。ここに楽しいものはない』
僕は扉を開け、部屋の外に出る。もちろん丁寧にドアノブを回してだ。リュウゴと違って僕に破壊の趣味はない。
「どっち?」
『左』
大きな建物の中は迷いやすい。いちいち確認してから進んだ方がいいだろう。結果、それが一番早いこともある。
一応の武装として、ペンダントから剣を取り出しておく。剣身が黒く、片刃の剣だ。僕の体の大きさに合わせて少し短め。
これとあともう一本をオーパークからもらった時、「剣を折ったら手首を切り落とすね」と冗談を言われた。なるべく気を付けて大切に扱おう。
「いたぞぉ!」
「来たなぁ」
廊下の突き当たりの横からこちらを捕まえようと警備員が現れる。それと同時に、廊下および屋敷全体に明かりが灯る。
全身真っ黒の僕は明かりに照らされて目立つ。紛れることが出来るのは夜の闇に対してだけだ。
「ほっ」
とはいえ、いちいち相手をしている暇はない。廊下くらいの狭さなら、壁を蹴って障害物を飛び越えることが出来る。
僕は警備員の頭上を通り抜けた。
道中、何人かと出くわしたが、大きな問題はなかった。大きな問題なく、目的の部屋へ辿り着けた。
「あれ?」
ガチャガチャと言うだけで開く様子はない。
「……」
バキンッ、と扉が破られる。鍵がかかっていたので壊して中に入ったのだ。
僕は無意味な破壊をしないだけだよ。時間がなければ贅沢はできないからね。
『ジュールは入ってすぐの棚にあるって言ってたな』
「これかな?804年……804……」
年数の書かれた帳簿の背を見ていき、僕は目当ての年の帳簿を見つける。パッと中を見てみるも、内容はちっとも頭に入って来ない。
「……中身は別にどうでもいいんでしょ?」
『どーせ捏造だ。勝手にやらせとけ』
なら、内容の理解は諦める。
両手でパタンと閉じた帳簿をペンダントに入れ、僕は部屋を後にする。
窓から外に出よう。それにしても静かになったな。あまり足音が聞こえない。すぐにここまで来ると思ったのに。
そんなことを考えながら、へりに足を乗せる。そして強く踏み込んで飛び、屋根に手をかけ、一気に体を引き寄せる。くるりと体を一回転させ、屋根に着地しようとしたところで、―――目が合った。
上下逆さになったままの僕と見つめ合うのは、規格化された制服をメチャクチャに着崩した男の人だ。その服から察するに、多分騎士団員なのだろう。
「ドッ!!」
まっずい、来るッ!
「ッカァァ~~~ン!!!」
『ぴょ』
目の前を閃光が埋め尽くす。一瞬だけ見えたその光の中には、十字架のような剣があった。
この騎士団員の攻撃だ。
「……ッ……!」
攻撃は、僅かに逸れた。僕のギリギリ左側を通ったのだ。
そこにはリュウゴがいたけど、どうせ僕以外には見えないし痛くも痒くもないはずなので放っておいていい。なんか鳴いてたけど。
音と光に呆けていた僕は、腹を蹴られて屋根から落ちる。ようやく現実に引き戻されて取り戻した意識で周囲を見る。
『うおやっべ。痛みを感じる間も無く蒸発した気分だ。オモシロッ』
庭が抉れている。破壊の範囲は大きくない。でも、程度は悲惨の一言に尽きる。
僕を襲った騎士団員の方を見ると、屋根が一部欠けてポロポロと落ちる瓦礫を増やしながら、彼も僕を見ている。月明かりの逆光だ。
そのさらに向こう、ミラハンドの屋敷の別の棟の屋根の上。こちらの様子をうかがう人影が一つ。さっきの攻撃で巻き上がった風に髪の毛をたなびかせている。
白く見えるけど多分金髪かなぁ。ちょうどあのくらいの長さの髪を最近よく見る。メガネのレンズは月光を反射している。うーん……
シトロじゃねぇか!裏切ったのか!?
「おま……!」
「オレはガジャミ!よろしく!早速で悪いけど逮捕だぁ!」
「ちょっ!」
ガジャミが僕に肉薄する。まだ空中にいる僕の所まで、だ。
(重……!)
はじめから子供と大人との差はあれど、剣自体の重さも全然違うのだろう。さっき十字架みたいな剣と言ったけど、文字通り、柄の部分にもギッシリと鉄が詰まっているんだ。剣身はそこまで長くもないし太くもない。
片刃の剣で良かった。受け切れなくて自分の体を斬ってしまうところだった。それでも峰は体に食い込むし、吹き飛ばされて背中は地面に強打したけど。
「ほら頑張れよぉ!」
振り下ろされる剣を必死に横に転がって避けた僕は、すぐに立ち上がってガジャミに斬りかかろうとする。
「良い粋だ」
やられた、と思った。僕の振る刃のほんのすぐ先に、何か光るものがある。多分衝撃を加えると爆ぜるのだろう。魔術だろうか。
僕は苦々しく目元を歪める。
「【フレイム】」
じゃあお前も巻き込んでやる。覚悟しろ。
僕の顔は、口元も歪んでいた。
◇
爆ぜた光が、ガジャミの持つ十字剣に収束する。爆風による影響はない。それすらも、十字剣に吸い込まれたのだから。
しかし、それをいちいち吟味する暇はない。今は、起こっている現象から想像出来る危険に備えた方がよっぽどいい。
「お返しだぁ!」
十字剣が光を出し、明らかに溜めているのが見て分かる。最初のと同じ攻撃が来る。
「ドッッカァ~ン!!」
僕は全力で横っ飛びする。ガジャミの構えた剣の位置から、左下から右上への斬り上げだろうと推測出来る。
攻撃範囲は縦に分厚いので上下への回避は出来ない。くぐって躱そうとすれば、僕は抉れた地面と運命を共にすることになるだろう。
となれば回避方法は右か左か後ろに飛ぶくらいしかない。それも思いっきり。上に飛ぶのは現実的じゃない。なので除外。
「ッだア!」
「おっ」
僕が選んだのは左への回避だ。思いっきり走り込み、最後は飛び込むようにしてギリギリで避ける。さすがに胆が冷えた。
グズグズはしていられない。僕はすぐに立ち上がり、ガジャミに向き直る。
それはそうと仮面が邪魔だな。
「おいリュウゴ!手伝え!」
『……いや、せいぜい数十秒。一人で相手しろ。すぐ逃げる』
「あの人メチャクチャ強いじゃん!騎士団ってこんなとこなの!?」
『知るかよ。なんならエルムも所属だけならそうだろーが!』
「?」
一人で言い争う僕たちをガジャミが怪訝そうに見る。まあ、自分でも珍しい方だとは思うよ。似たような人を見たことないし。
『まぁ裏事情もだいたい分かってきたところだ。どーせ大丈夫だから一人でやってろ』
「それってどういう……」
僕の疑問は無視して、リュウゴが何やらゴソゴソと用意をする。僕が首からかけているペンダントが変形し、心なしかリュウゴの声が大きくなっている気がする。
『あっあっー……マイクテースマイクテース……』
え?何それ知らない。拡声器?
リュウゴの声が庭に響き渡る。大きすぎる声は絶対わざとだ。耳が痛い。
『勤勉なる騎士様へ!』
「なんだぁ!?」
クソうるせぇ。
『せっかく名乗ってくれたんだガジャミくぅん。こっちも名乗らなきゃねぇ!』
リュウゴが心底楽しそうに人をバカにしている。大声でやられるととてもイラつくから今後一切控えてくれねぇかなぁ。
『俺の名は……そーだなぁー……ドラゴ・トリックス!人は俺を『害悪王』と呼ぶ!』
◇
ツナギは知らない。それがリュウゴの使う偽名の中でも飛び抜けて悪質を表すものだということを。
ルールの範囲内で精一杯の害悪戦術を用い、対戦する相手にイラつきを与えることを何よりの命題とする間違ったゲームの遊び方だ。主にストレス発散でやる。
決まれば爽快、決まらなければ次の獲物を探すその様は、まさにモラルをドブに捨てた悲しきモンスターだ。
オフラインではバグ技を極めたり、オープンワールドでディストピアを作り上げたりしている。
みみっちい上に当然よく燃える。
(パフォーマンスは盛大にぃ!)
つまり。
結論から言おう。ガジャミはサクラだ。
(シトロも離れたとこに居るってことはあいつのツテか?まぁそこはどーでもいい。ぶっ壊されんのが庭だけなのも配慮だろう)
より劇的な事件となるための演出。作為側から見て、この場のガジャミに求めるのはそれだ。
要するに、出来るだけぶっ壊してくれ。でも傷付けちゃダメな物もあるからな、と。
(じゃあどーせ逃がしてくれんだろ。じゃなきゃ意味がない)
何も聞かされていなかったことに対して思うものが無いわけではないが、リュウゴはそこでいちいちゴネない。問い詰めたところで証拠もボロも出さないだろうし、金も取れない。
じゃあそれは、争点としてはゴミだ。捨て置く。
『お互いの正義を振りかざそうガジャミ君!当然これが看過されない行為だとは分かっている。だが、誰かがやらねばならんのだ!例えば俺とかぁ!?』
害悪が語る正義には正当性の欠片もないと思う。正義感は、微々たるものだがあるかもしれないが。
しかし、「だから殴らせて」はいささか性急過ぎやしないだろうか。
「君はまだ子供だろう。そーゆーのは大人に任せなさいっ!」
『不甲斐ねぇ大人はみんなそう言うんだよッバァ~カ!』
もはや煽ることが目的となったリュウゴは止まらない。意味もなくディベートしてたいと思うようなイカれた奴なのだ。
ツナギは、こんな裏側の作為には思考が及ばない。
まだ、汚れが足りない。
◇
リュウゴの拡声で一時戦闘が中断されていたが、何てことはない。すぐに再開する。まずは言葉の応酬からだ。
「オレは口が巧くねぇからアレだけどなぁ、子供がそういうことやるの良くないと思う!」
『俺の故郷に少年法というものがあってじゃなぁ!』
「知らねぇ!何だそれはぁ!」
『免罪符のことだよ!』
「そいつはいいな!」
声が大きくとてもうるさい。もう少し穏やかな会話は出来ないのだろうか。
「ツ……じゃないドラゴ君!とにかく!後でゆっくり話をしよう!逃げられるものなら逃げてみるがいい!」
(あいつ演技ヘタクソなんだなぁ……)
そうは言ったガジャミだが、僕には早く逃げろと聞こえた。僕の名前もツナギって呼びそうになっていたし。シトロが教えたのかな?
『演説中に攻め込んで来なかったな。ラッキーだ。よし、逃げろ』
ペンダントを介さず、リュウゴが僕の耳元に直接囁く。でも、それにはちょっと従えない。
「やだ。やられっぱなしはやだ」
『……見上げた反骨精神だことで』
ガジャミの出した光の玉。僕が剣で斬りつけて爆ぜたやつだ。
剣の腕は当然として、アレを攻略したい。何も分からずやられたままっていうのは嫌だ。
「……よし!じゃあ1個!どっからでもかかってきな!」
こちらの意図を汲んだのか、もしくは立ち向かおうとした僕への手加減なのか、ガジャミの周りを光の玉が一つ回っている。
さて、どうしようか。一つ思いついているものがあるけどそれで行けるのだろうか。防がれた時の対応策も考えておかなければ。
「【エンチャント】……」
邪魔な仮面を押し上げて素顔を晒した僕は、自らの【アーク】を待機状態にする。いつでも剣に乗せれるように。
それとは別に、地面に落ちている石を拾ってそれに炎を纏わせる。3つ、それをガジャミに向けて投げる。牽制と実験を兼ねてだ。
ガジャミの十字剣に弾かれた石ころがはるか遠くへ飛んで行く際、僅かに不自然な弧の描き方をしたのを、僕は見逃さなかった。
「よし来い!」
「フッ!」
今度はガジャミに剣を投げる。さっきまで手に持っていたものだ。
僕の【エンチャント】は、体のどこかで合わせたい物同士に触れていなければならない。例えば、右手で剣を、左手で魔術を。別に手じゃなくて足でも何でもいいけど。
とにかく、触れていることが大事だ。
で、それを今からねじ曲げる。
キンと十字剣に弾かれた僕の剣は、ガジャミを中心とする円運動に一時囚われる。直線的に飛んで行くはずのものが、一瞬だけ曲がったのだ。
光の玉がガジャミの周りを周回しているのと関係があるのだろう。
それ、ちょうだい。
「ッ……ほう」
一瞬だけ皺を寄せた眉間は、ガジャミがそれだけの時間で状況を把握したことを意味している。後に続くのは感嘆の声だ。
剣がガジャミに刃を向けて、周回する。と言ってもせいぜい半回転くらいだろう。光の玉とぶつかるまでは。
いつ背後から刺されるのか気にしながら戦うとは思えない。迅速な対処をするだろう。今現在、剣は【流れに沿って動く】というだけの状態。僕の意志では動かせないけど、ガジャミがそれを知るよしはない。
「さあ!こっからどうする!?」
ガジャミが剣を掴む。刃に触れないように、剣身を指で挟む。すごい握力だな。
剣と、それを掴むガジャミと、光の玉。時間が止まったように感じる。策が決まるか決まらないかのドキドキが、集中を呼び起こしているんだ。
光の玉がぐるりと一周。僕に投げ返して来た剣に、引き寄せられて触れる。
「そこだっ!」
触れた側から、光の玉が溶ける。ぐにゃりと変形したかと思うと、剣に纏わり付くように刃を覆う。想像通りだ。
「ありゃりゃ……取られちゃった」
光の玉を出すのは一つだけと決めているのだろう。ガジャミがそういうルールで僕と戦ってくれるなら、胸を借りる気持ちで僕もそのルールに従おう。
光の玉を剣に【エンチャント】した。自分のではなく他人の魔術でも【エンチャント】出来るのは、エルムでもう試したから分かっていた。
「これで一つ、僕の勝ちかな?」
「おーすげぇすげえ」
なぜ手で触れずに【エンチャント】出来たのかと言うと、【あの光の玉に近付いたらエンチャントする】という状態を【エンチャント】したからだ。
言葉にするとややこしいけど、【アーク】はわりと何でも出来る。大事なのは本人のイメージだ。
「で、それについて良く分かってんのかぁ?」
「!」
「ハハハうっそ~。もう君の物だよ!」
『あからさまに警戒すんなよバカバカし~い。顔に出さず意識払ってりゃそれでいんだよ』
これは負け一つかな?
リュウゴと一緒にいるからある程度煽りには耐性がある。だからガジャミに対しては怒らない。でもリュウゴは黙れ。
「ほれほれ来なさい」
「ハァ……フフ」
斬りかかって来いと言わんばかりの手招きに、僕は思わず笑みをこぼす。光る剣を両手でしっかりと握り、構える。
「じゃあ行くよ!」
「っしゃ来い!」
一つ、二つ、剣同士が打ち合う。光の玉を【エンチャント】した剣だが、そこまで変わったことはない。
まぁ夜だから明るいのに助かってはいるけど。
向こうの十字剣は重い。だからバカ正直に正面から受けないで、受け流す。
そのうちこっちの剣が折れそうだけど、もし折れたらオーパークに怒られるんだろうなぁ……
そして三つ―――
「ボカン!」
三度目の打ち合いは、僕の剣が内側から砕けたことで成されない。
「あんまり人のコト信じすぎるなよ?ウソついてるかもしんねぇ」
剣に【エンチャント】した光の玉、それがガジャミによって破裂する。
【エンチャント】したところで、相手にそれをどうこうする手段があるなら、僕はそれに干渉できない。
エルムの時もなぜか風が急に向かい風になったことがあったし、じゃあ何で僕はこんなことやったんだろう。まぁ無力化出来たらいいなってくらいの浅い考えなんだけど。やられたな。
受け流せる物が無くなった僕は、その場に屈んでひとまずやり過ごす。でも、その遅れを詰められたらどうしても無理が出る。
「ちゃんと受けろよ。そんでもってこれで飛んで行け!」
十字剣を振るった勢いそのまま、下から斬り上げて来る。刃はしっかりこちらに向けて。
「んにゃっ、あぁぁ!」
内側から砕けたとは言え、左右の手では強く柄を握っている。僕は柄で刃を受ける。
薪を割るように縦にミリミリと亀裂が広がっていくも、全て裂かれるより先に僕の体が吹っ飛ぶ。小さな子供の体だが人には代わりない。大きな衝撃を受けて僕の両手は痺れる。
「じゃ~な~ぁ!じゃなかった。逃げるなー!」
なるほど。このまま逃げろ、と。
僕の負けだなぁ、これは。
まずは姿勢を制御する。下の方向を認識し、そっちに足を向ける。一呼吸できて辺りを見渡すと、ハムスの街の夜景が目に入る。
飛ばされた所を見るとガジャミが手を振っている。もう隠す気ねぇだろアイツ。
そこから少し離れた所にはシトロがいる。屋根の上でこちらに親指を立てている。じゃあこっちは中指を立ててやろうか?
おっとダメだ。思考がバカになってる。夜景でも見て落ち着こう。後は帰るだけだし。
『おっとツナギィ。これで終わりと思うなよぉ?』
「何を企んでんだ。どーせろくでもねぇことだろ」
『違ぇよ口調が強くなってんぞ』
それは嫌だ!あんなのにはなりたくない!僕は優しい心の持ち主なんだ!
『反抗期っぽいが……まぁいい。花火はでけぇ方が盛り上がるもんなぁ。数も多い方がいい』
「……やりたいことはわかった。けど何やるの」
たしかに僕も、ジュールさんとかシトロとか、あと多分ユーへインとかにハメられたのは気に食わない。ガジャミが話の通じる人だったから良かったものの、エルムならウッキウキでブタ箱にぶちこんで来る。そう考えたら運が良かったなぁ。
『監督責任だ!市長ンとこ行くぞ!』




