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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第二章 誓った言葉を胸に抱いて
86/89

イマイチ乗り切れない原因は理想が高すぎたから


◇ リュウゴ


 コンピューター(ゲーム)を作ろう!


「なるほど書庫か」


 王都へ向かい、最初にコンピューターを説明した際の返答だ。全員が全員その返事だった。

 何でも、望んだ本が手元まで来る、という図書館があるらしい。海を跨いだ先にはそんな場所がある。


 今から作る物はまさしくソレであるので俺はそれ以上の説明を放棄した。


………………

………


 結論から言うと(ゲームは)実現不可能であった。あと1年くらい理論を突き詰めていけば完成したかもしれないが、どうやらそんな暇はないらしい。


『クソッタレ』


 俺たちの目の前には、幾重にも重なった魔法陣が立体的に構築されている。その規模は巨大だ。大きな屋敷の天井をぶち抜いてようやく収まるほどに。


 キュインキュインと音を立てて歯車のように回ったり止まったりしている魔法陣を見上げながら、俺は愚痴をこぼす。

 周りの歓喜とは裏腹に。


「よぉぉ~し!完成だっ!」


「オル書庫めぇッ!」


「やっと……寝れる……!」


「ハハハハハハハ!」


 床にはこの国の叡智たちが横たわっている。名実共に世界最高峰の魔術師(研究職)たちだ。

 無限とも思われるデバッグにぬるぽし続け、つい先ほど多重情報蓄積魔法陣(インフォメーション)を完成させたのだ。38日を要した。


 多重情報蓄積魔法陣の機能は、

 1.情報の登録、

 2.情報の検索、

 3.情報の出力。


 これだけ。これ以上は無理だった。


 100とかの魔法陣を重ね合わせて情報を登録、それを一つずつずらしていって個人を区別する。で、これが何10セットもあるらしい。

 受け入れ可能な口座の数が総人口とか余裕で越えてるんじゃなかろうか。


 液晶画面なんてない。紙にインクで印刷して出力する。光に色を付けて色々出来そうだったが、完成形が倍くらいの大きさになるのでかなり早い段階で却下された。


 ただまぁ、大が何個付いてもいいくらいの大成功である。


 ……そんなのどうでもいいからゲームしたい。






 俺が関わった開発は多重情報蓄積魔法陣(ソレ)ともう一つ。


 硬貨(おかね)を作ろう!


 こっちに関してもアイデアだけ出して残りは専門家に任せた。


「もう『ゴールド』とかでいいんじゃない?」


「そっちは細かく決まってないからね」


 世界中の通貨の為替を調べたところ、恐ろしいくらいに価値の変動がなかったのだ。

 じゃあもう難しいことは全部放棄して『円』を導入したい。計算が楽だし、何より直感的に値段が分かる。

 で、その意見をオーパークに伝えてそれが通った。


 硬貨には100万ゴールドとかふざけた価値の物を作ったりしたが、俺のような庶民には関係ないだろう。

 それ以下には10万、1万、1000、500、100、10、1、だ。全て硬貨である。

 5000とか50とか5とかはいらないが、500円玉の存在感は無視できない。安心感が段違いだ。


「やっぱ象徴っつーか紋章みたいなのはいるよなぁ」


「分かりやすい適当なものでいいよ」


「じゃ、そこの植物で」


 真ん中に一本茎が通り、そこから葉が左右に別れて生えている。枝は面倒臭いから除外する。


「番号は入れんの?」


『それよりもさ、根っこが全部違ってたら面白くない?』


「それ採用!実現しろよオーパーク」


 後は筆記体で『Gold Bank』と入れれば良し。デザインはこんなものでいいだろう。

 硬貨の下1/3を『根っこ』とし、それを読み取るセンサーみたいなものを作ればいい。


 新通貨の製造に費やす費用は莫大だ。この費やした分だけペネーからゴールドになる。

 実際はもっとややこしいが、給金・報奨などもゴールドで支払われ、費やされたペネーはしばらく封印するらしい。折を見て世に出していくそうだ。


「あ、そーだ。高いのはレア鉱石使えよ?」


「通貨でなくとも価値を付けるってことだね」


「そーそー。下の方は鉄とか銅とかでいいから」


 金を湯水の如く使う必要もあるので、単価が高い物を原料としても問題ない。他の国からも予算を頂いているのでありがたく使わせてもらおう。


 後はフルオートだ。錬金術様々だね。


 ……ボードゲームでいいから何かやろうぜ。






 およそ一ヶ月前―――ホーマリオンとの会談の直後、ジュールは頭の中でシミュレーションをしながら帰路につく。


「ただいま帰りました」


 ハルベルクへの支援。

 ホーマリオンとそれについて議論し合ったのは、ジュールにとってかなりの負担だった。脳が疲れていたからだ。

 銀行の説明のために徹夜して資料を作った。今はホーマリオンがゆっくりと目を通していることだろう。


 玄関から目に入った使用人(メイド)に軽く挨拶をする。母に教えられたことだ。

 「人にやさしくしなさい」、と。至極当然のことだが、人間の腹の内は分からないものだ。ジュール自身も己の二面性に悩むこともあった。


 世の中には表と表を無理やりくっつけた、文字通り人格が二つあるような者もいるのだが。


 ジュールは屋敷の廊下を歩く。

 この屋敷はミラハンド家の所有物であるが、他にも住んでいる者がいる。使用人や従業員だ。

 そもそも、たった二人(・・)で住むにはあまりにも巨大なのだ。そんな無駄を見過ごすようでは商人はやってられない。


 ジュールはノックをせずに扉を開けた。

 ガチャリと。


「うわビクッてなったァァア!!」


「うるっさいよ。ユーへイン」


 両耳を抑えたジュールが、部屋の中に居た人物に顔をしかめて苦言を呈する。ユーへインのその大きな声が、静かな屋敷中に響いたことだろう。


 机の上に並べられていたペネー硬貨が床に散乱した。今もなお音を立てている。


「何すか!?」


 ユーへイン・サザメ。ミラハンド商会に所属している従業員だ。

 能力の高さから重用され、主に商品の発注や管理、顧客リストの整理などを任されている。書類仕事だ。

 ジュールとは一歳違いの年上で、ユーへインがミラハンド商会に来てから3年来の友人である。


「何だも何も、ここは私の執務室(へや)よ?遠慮はいらないでしょ」


「誰のせいで寝れてないと!?誰を手伝ったせいでしょうか!?あなたですよねッ!」


 ホーマリオンへの提出資料。それの作成を手伝ったのは他でもない、ユーへインだ。


 おかげで徹夜明けの昼下がりまで―――ジュールがホーマリオンとの会談を行っている間、ユーへインは短い眠りについていた。

 目が覚めてウトウトしているところにガチャリと誰かが入って来たなら、誰しも驚くだろう。普段真面目に仕事をしている者なら特に。


「で?どーだったんすか?」


「これから忙しくなるよ」


「ハァ……地獄の果てまでついてってやらぁ」


 一度話に乗っかった以上、途中で降りることはしないとユーへインは考える。


「まずは父様が帰ってからだね。夜までゆっくりしてていいよ」


「うーっす」


 軽い返事をして、ユーへインはソファに横になる。ジュールもまた、目を閉じる。

 嵐の前の静けさに身を投げ出して―――


………………………

………………

………


「―――!」


「―――」


 屋敷が騒がしい。

 目を覚ましたジュールは周囲を見渡し、部屋がもうすっかり暗くなっていることに気付く。夜だ。


 つまり、帰ってきたのだ。


「ジュールッ!」


「うひゃあっ!」


 部屋の扉が乱暴に勢いよく開かれる。

 またの突然の侵入者に声を上げたのはユーへインだ。眠りからの覚醒を強制される。


「おかえりなさい、父様」


 デップリと太った眼前の男、ザック・ミラハンド―――ジュールの実の父である。


「どういうつもりだッ!?」


「まずは落ち着いてください。話ができない」


 ザックは、ついさっきまで食事会に参加していた。主催者はホーマリオンだ。

 食事会とは言ってもそれは名ばかり、ハルベルク関連での何らかの要請が行われるだろうというのは予想がついた。ザックの他にも、この街の市長や他の有力な商人たちもその場にいた。

 そして蓋を開けてみれば、そこにあったのは実に良くできた策であった。ジュールとホーマリオンは前々から(・・・・)通じていたのだろう。「彼とはつい先ほどまで話していた」と言っていた。


 もはや他国での出来事ではないですよね?我が国の聖騎士団の隊長も死にました。それでもアレ(・・)を討伐できたのは、その場にいた者たちが力を合わせたからです。

 大勢の死者が出て、街が跡形もなく破壊され、ハルベルクの民は打ちのめされている。

 え?まさかこの場に薄情者はいませんよね??


 多少損をしてでも反対なんて出来るはずがない。そもそも、数字だけを見れば将来的にプラスではあるのだ。

 「権力を手放したくないから協力できません。それって体のいい管理ですよね」などと言う者は、一人もいなかった。


 そして―――


「父様、私はミラハンド商会(ここ)を継ぎませんよ」


 ホーマリオン・マノガストは当然として、その復興支援(プロジェクト)の代表者こそが、ジュール・ミラハンドであった。


「認めると思っているのか……!」


「どうせ周囲に同調して肯定的な言葉を発したのでしょう?」


 ジュールは、己の利益にそこまで頓着していない。商人としては失格である。そもそも、明確な生きる目的を持っていない。自己の利益の追求に魅力を感じていないのだ。


「私は私でやるべきことがあります。暫くは干渉しないでください」


 口調こそ丁寧だが、言葉に込められた意志は強い。そんな様子を見てザックは、ジュールにその母親―――自身の妻の姿を重ねる。


 道具の癖に、事あるごとに自分に意見してきたあの女だ。規模拡大のために取り込もうとし、家の者に喜んで差し出された哀れな娘だ。

 もう7,8年経っただろうか。病気で死んだ。

 ジュールはあいつの、嫌な所ばかり受け継いでいるようだ。


「チッ……もういい!」


 ジュールは返事をせずに口角を上げる。

 言質は取った。好きにさせてもらう。


 大きな足音を立てて、ザックが出ていく。今日明日明後日はずっと機嫌が悪いだろう。メイドには本当に申し訳ない。


「やっぱ嫌いだなぁ……」


 思わず口に出てしまう。

 あの人は本気で、国の犬なんかになって何が楽しいのかと思っているのだ。自分の後を継げ。そうすれば今後も安泰だ、などと考えているのだろう。


「ユーへイン、やっぱり、父様を失脚させることにするよ」


「……なんでそれを俺に言うんすか?」


「これから苦楽を共にする仲間じゃないか。遥か先の楽しみのために、しばらく地獄のような忙しさが待ってるよ」


「引き抜かれるのやめようかな……」





◇ リュウゴ


「こんにちはー」


 ジュールと初めて会った時から2ヶ月ほど経った。

 別に俺が居なくても大人たちが何とでもするので一旦家に帰っていたのだ。そこからもう一度、ハムスに来た。


 飽きて帰ったとは口が裂けても言えない。


 本拠地はハムスのオイロ地区にある。ジュールの別荘だそうだ。

 建物の改装と同時にその周辺も都市開発した。いったいいくら使ったのやら。


 『ゴールドバンク』の建物の中は、うじゃうじゃと人間でごった返している。叫ぶのとはまた別の五月蝿さが充満する。

 そんな喧騒の脇を抜け、ツナギは関係者専用の奥の通路へと向かう。当然、奇異の目で見られた。ツナギはまだまだ10歳のクソガキなのだ。


「じゃま」


 歩幅の小さいツナギの後ろから、苛ついた声がかけられる。ほんの数週間前までいつものように聞いていた声だ。何故か銀行内でかち合うことが多かったのだ。


「あ、ごめんシトロ」


「さんをつけろ。舐めてんのか」


 後ろにいるのは、銀行員のシトロだ。……銀行員というのは間違いかもしれないが。とにかく関係者ではある。


「え~別にいいじゃ~ん」


 俺ならばともかく、ツナギがこんなにも砕けた態度を取っているのにはそれなりに理由がある。

 特にお役所仕事が出来るわけではないシトロだが、ジュールの友人らしい。


 ジュールが裏でいろいろな事をこそこそやってるのはなんとなく把握しているが、恐らく実家からの引き抜き工作の一貫なのだろう。親子仲は良好ではないらしい。見てたらわかる。


 兎にも角にも、シトロは仕事は出来ないが強い。物理的に。一回軽くあしらわれたことがある。

 ボディーガード的な存在だそうだが、四六時中襲撃されることなんてそうないだろう。暇だから子守りに宛がわれたのだ。

 あと服が好きらしい。


「ジュールさんいるの?」


「知らん」


 機嫌を損ねたようだが、シトロはいつもこんな感じなので気にしない。伊達メガネをかけたからといって知的に見えるわけではないのだ。


「あら?ツナギ君?」


 進行方向の廊下の左右に並ぶ扉の一つが開けられる。出てくるのは、つい先ほどまで式典に参加していたジュールだ。後ろにはユーへインもいる。


 丁度今日、『ゴールドバンク』は開始したのだ。

 後半から飽きて、俺は家に帰っていたのだが。


「あ、そうそう。今度会ったら言おうと思ってた」


 2週間振り位だろうか。何か用事があったのならジュールには申し訳ない。一切の後悔もないが。


「君たちはこういうのの方が好きなんでしょ?」


 ジュールが瞳を怪しく輝かせる。その光り方はよく知っているとも。野望だろう。


「ちょっと義賊やってきてくれない?」


「義賊……?」


 ツナギは困惑している。ツナギだけではない。俺以外は意図を読み解くのに時間を要した。


『よ~し。誰を貶め地獄の底に叩きつけるので?』


 これだよこれ。こういう行為(ムーブ)だよ。人の不幸の上で成り立つものこそが最高の娯楽なんだよ。

 カビが生えて薄汚れた自分勝手な正義で人をぶん殴るのってとっても気持ちいいな!


 人生がなぜクソゲーって言われてるのかわからせるの気持ちいいなっ!

 まごうことなき純正のクソ野郎(ピュア)

 ※良い子は真似しないでね

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