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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第二章 誓った言葉を胸に抱いて
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インベーダー(17+10)とオプションパーツ(10)

 時系列は『聖都』で黒歴史作ってからだいたい1ヶ月後くらいです。


◇ ツナギ


 『魔の森』の外には魔物はいない。

 僕がまず最初に驚いたのは、それだった。


 実際には完全なゼロではないそうだけど、いない、という認識で大丈夫だそうだ。おかげで旅は快適だった。足は棒のように疲れているけど。


『ほーほぉ。上から見下ろす大都市は絶景だねぇ』


 リュウゴが僕の後ろで、『商業都市群』ハムスを見下ろして声をあげる。僕もリュウゴも、こんなに感動するような大きな街を見るのは初めてだ。そもそも、『聖都』ベラ以外の街は知らない。


「それじゃもうあとちょっと……オーパークいるかな?」


『さぁ?知るか』


 今回の旅の目的――――それは、オーパークに剣を作ってもらうこと。

 『聖都』での『聖誕祭』が終わり、僕たちは家に帰った。……なぜか内容は覚えていない。本当になぜだろう。でも、猛烈にもう行きたくないという感情は覚えている。なぜだろう。


「う~ん……落ちる?」


『ショートカットだな、任せろ』


 僕はリュウゴと体を入れ換える。

 見下ろした遥か下――――そこにハムスの街はある。僕たちは今、崖の上に立っているのだ。


「ハッハッ……ハハハッ!」


 そんな崖から、リュウゴが笑いながら飛び降りた。別に投身自殺じゃない。リュウゴはそんなものとは一切の無縁だ。


 風を一身に受け、両手を広げて落ちて行く。子供の小さな軽い体が、ヒラリヒラリと宙を舞う。


「【アーンチ――――」


 地面が近付いて来た。このままでは、僕の体は地面のシミになってしまうだろう。


「――――イナーシャ】」


 地面にぶつかるギリギリ、スレスレでリュウゴが止まる。空中にピタリと留まったのだ。周囲には波紋が広がっていく。


「さぁーて……あとほんのちょっとだな」


 上から見下ろすのとは違って、横から見たハムスはとてもとても大きかった。いくつもの建物が重なり、その中でも一際大きなものがその屋根を見せる。ほのかに香る磯の匂いは、海が近いことを知らせる。


 初めての(・・・・)大きな街。

 僕にとって初めての(・・・・)ワクワクだった。






「人が多い……」


 こんなにも多くの人を見るのは初めてだ。ここに来る途中に遠くから見た(ゲイオウ)の群れみたいだ。ウジャウジャいる。


『おっ!面白そうなのがあるぜ。あれ買おう!』


「ダーメ」


 リュウゴの視線の先にあるのは、『空気を出す枝』だ。何でも、水の中でも呼吸ができるとかできないとか。いかにもリュウゴが興味を示しそうなものだ。


「じいちゃんからもらったお金は大事に使わないと」


『ケッ、端金がよ』


 もらったお金は少しだけ。何か美味しいものでも食べなさい、と言われた。無駄遣いする余裕はない。


 人が多いから、僕は道の端っこを歩いている。手に持っているのはこの街の地図だ。(ほし)の印が付いている所が目的地――――オーパークの家だ。


『つーかよー、地図はまず現在地が分からねぇと意味ねぇだろうが。ここどこだよ』


 リュウゴがぼやく。

 多分、今いる場所は東側――――地図の右側のどこかだろうとは分かるのだが、細かな位置は分からない。早く目印になりそうな大きな建物でも見つけないと。


「おっと」


 地図を広げて歩く僕は、前が見えない。それどころか、横の視野も狭くなっていた。

 露店の棚に当たってしまった。


「あっ」


 棚から壺が落ちる。いくつか揺らされ、その中の一つが地面に落ちたのだ。ゴツンという音がする。


「ご、ごめんなさい……っ!」


 落ちたのは壺だ。もしかすると割れてしまったかもしれない。


「いやいやいいんだよ……」


 僕は広げていた地図をペンダントに押し込み、壺を抱え上げる。思ったより軽かった。よく見るとヒビが入っている。


「ごめんなさい……お金は払います」


『ちょっと当たっただけで落ちるのは端から当たり屋……いや当たられ屋……』


 リュウゴの言葉は僕の耳には届かない。


「お金はいらないよ。何ならタダであげよう」


「いいんですか!?」


『なるほど利がないと見て徳を積みにきたか。もらったら走って逃げろ』


「やったー」


 じいちゃんへのお土産にしようっと。ちょっと割れてるけど。僕は壺をペンダントの中に入れる。


「おじさんありがとー!」


「いやいや全然。ところでそのペンダントは……あれ?どこ行った?」


 僕は走り出した。なぜかは知らないけどリュウゴがそう言うから。人混みに入り、街の中央を目指す。


 オイロという地区の時計台を目指そう。ここからでも頭がチラチラ見えている。オーパークの家は多分その近くだ。







『こっから見下ろすのもいいもんだなぁ~』


 オイロの時計台――――というか展望台からの街の景色を見て、リュウゴが呟く。人を見下ろし見下しバカにするのが好きな奴だ。取り敢えず放っておけば問題はない。


「う~ん……」


 僕は地図を広げて唸っている。方角が分からないからだ。


「海があっちだから……」


 遠くには海が見えるけど、湾と言えるのか分からないほど大きい。海岸がU字に広がっているかのような規模感だ。


「こう……?向こうかな」


 地図を傾けて、僕は左側に体を向ける。多分こっちで合ってるはずだ。


「リュウゴ!」


『へいへい』


 僕は地図をたたみながらリュウゴを呼ぶ。いちいち階段を降りるのは面倒臭い。リュウゴに一気に落ちて(おりて)もらおう。


仮面(かーめーん)仮面(かーめーん)


 リュウゴはペンダントの中を探る。言葉から、仮面を探しているようだ。

 確かに、顔がバレるのは僕も望んでいない。それは『聖都』で痛いほど身に染みた。


「ありゃ?ない?」


 リュウゴが取り出したのは、割れた仮面だ。魔物の骨で作ったものだ。つい最近作ったものだが、壊れている。


「しゃーねえ。これ被るか」


 リュウゴはペンダントから壺を取り出す。さっきタダでもらった壺だ。


「フン!」


『あっ!?何やってんだよ!』


「前が見えねぇだろ」


 もともと壺にはヒビが入っていたが、リュウゴはさらに損傷を広げる。指で穴を開けて視界を確保したのだ。

 リュウゴは壺の中に頭を入れ、脱げないように手で押さえる。


「ほっ」


 そして時計台から飛び降りた。落下地点は路地裏である。あまり目立つことはしたくないが、すぐに離脱すれば問題はないだろう。






「えぇ……?」


 小さな子供が時計台から飛び降りた。自分には出来ないが、世の中には魔術で物事を解決するような人間が何人もいることは知っている。だから、無理に騒ぎ立てない。


 時計台のベンチに座り、本を片手に考え事をしていたジュール・ミラハンド当時15歳は立ち上がる。さっきから独り言を呟く少年が気になってはいたのだ。

 壺を被って飛び降りる子供など、少なくともジュールは過去一度も見たことがない。


 手すりに近寄り下を覗き込むも、すでに子供の姿はない。


「面白い子もいるじゃあないの」


 ジュールは階段を使って時計台を降りる。自分には、こんな高所から飛び降りて無事で済む手段はない。

 ただし、飛び降りる勇気自体は――――


「たまにはブラブラするのも悪くないかもね」





◇ ツナギ


 頭に被った壺はさっさと脱いだ。

 もし街中で壺を被った変人と出会えば、すぐに逃げることをおすすめする。壺を被らなくても変人なリュウゴはこの際無視だ。


 建物に日の光が遮られて薄暗い路地裏から出たリュウゴは、現在無駄遣いをしている。


「おっ、お兄さん。これちょっとまけてくんない?姉ちゃんから買って来いって言われててさぁ」


「洞窟に潜るって言ってた兄ちゃんに、これプレゼントしたいなぁ……」


「馬が嫌いって知り合いにちょっと嫌がらせを……」


「コレ美ん味いねぇ!も一個タダでちょうだいよ!……え~……。じゃあ半額!」


 よくもまぁペラペラとウソをつけるものだ。僕にはその軽薄さは出せない。心が痛むからだ。


『……悪い奴』


「巧い、と言えよ。少ない支出に見合わぬ戦果だろう?」


『詐欺って犯罪じゃ?』


「うん、おもいっきりアウトだな」


『じゃあもうするなよ!』


「ハッハッハッバレなきゃいいんだよ」


 ああ言えばこう言う。僕は多分一生口ではリュウゴに勝てないだろう。


 オーパークの家を目指して、僕たちはハムスの街の大通りを歩く。道の中央では馬車が通り、それを避けるように通行人も進む。

 馬車が通行人に近付かれないのは、そういう魔道具を使っているからだ。一定の距離内には近寄れないようになっている。昔エルムがその魔道具の理論を話してくれたことがあったけど忘れた。


「おっ服屋かぁ……何かいいものあるかなぁ?」


『お金が失くなるぞ!』


「オーパークに借りよう。あいつどうせ金持ちだろ」


 僕の忠告を無視して、リュウゴは店の中に入る。カランコロンとベルを鳴らして扉が開かれた。店に入る直前、店の名前と『ミラハンド商会』と書かれた看板が目に写った。


「ふーん……服以外もあるんだな……まぁファッションでひとまとめか」


 店内には多数のマネキンがあり、それらが服を着せられている。顔はのっぺらぼうだ。

 僕の目に、ふと値札が留まる。


『たっっか!』


 小数点の上に数字がある。多分、このマネキンの着ている服一式でこの値段なのだろうがそれでも手が出せるものではない。


「6.2300ペネー……えーと……ん~……30万ぐらい?」


 リュウゴの頭の中の計算は何が何やら知らないが、到底払えるはずもない。ここは高級店だった。


「なぁそこのお姉さん。ここって他人名義で買い物出来る?」


「はぁ?」


「宛名オーパークで後日金を請求してねっていう」


「何のことか分かりませんが他の者に話を通してください。そもそも私は接客はしません」


「えー?じゃあ何で店の制服着てんだよ」


「義務なので」


「ふーん……。この服タダでちょうだい!もうすぐ姉ちゃんの誕生日なんだっ!」


「帰れ。お前に私の服を買う資格はない」


 リュウゴがメガネをかけた女の人を困らせている。

 オーパークの誕生日が近いことは事実なのだが、そのためのプレゼントを本人に金を払わせようとするのはいかがなものか。もうここまで来ると呆れてくる。


 店内での注目も集まって来た。奥から体の大きな男の人が出て来ようとしたが、今のリュウゴの体が子供だったのが幸いしたのだろう。顔だけ出して引っ込んだ。


 カランコロンと、店の扉が開く。


「やぁシトロ、何か揉めているの?」


「ジュールさん」


 店に入って来たのは、青いスーツを着た人物だった。どこか優しさと幼さを感じさせる。ジュールと呼ばれた男の人は、手に本を持っている。


「あれ?君は……」


「あ?どっかで会ったか?――――あぁ、時計台か」


 リュウゴは記憶を探り、その人とどこで会ったかを思い出す。確かにそう言えば、時計台には誰かいた。しかしあまり気にする必要はないだろうと忘れていたのだ。


「まぁいいや。コレ、タダでちょーだい」


「フフ、駄目だよ。商売が立ち行かなくなるもの」


『ホントにごめんなさい。コイツには後でよく言って聞かせます』


「テメエは俺の保護者かよ」


 常に見張っておかなければならないなら、僕が保護者でもいいかもしれない。リュウゴはとても手がかかる。


「それで?」


「私には分かりかねます。他人名義で買い物したい、と」


「……?いや、なるほど。こちらで取り立てろという訳ね」


「さぁ?」


「それじゃあ、彼の相手は私がするよ。ご苦労様」


「まぁ、はい、どうも」


 どうやら向こうでも話がまとまったようだ。


「君、なかなか面白いね」


「うっせぇな、ガキ」


「お店の外に出ようか。お客様の邪魔になるのよ」


 ジュールさんがリュウゴを店の外に出るよう促す。僕でもこんな奴には店の中にいてほしくないと感じるので、激しく同意する。リュウゴ、さっさと出ろ。


「その代わりと言ってはなんだけど、一緒にランチでもどうかな?」


「いいぜ。テメエの全奢りな!」




 ツナギは記憶処理してるので黒歴史の記憶が曖昧です。何か嫌なことがあった、くらいの認識。

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