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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第二章 誓った言葉を胸に抱いて
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イケメンイカれダメ女


◇ リュウゴ


 オーパークは他者を気遣わない。そういったところはエルムと同じだ。

 円盤での空中飛行を終え、俺たちはオーパークの家へとたどり着く。発射の方法が手荒いのなら、停止もそうであると推して知るべきだ。ソフィアなんかグロッキーで結局一言も話さなかった。


「ハァ……ハァ……うわッ!」


 オーパークが円盤を杖に戻し、空中に放り出される俺たちを流体金属で包む。一瞬だけ見えた直下は、オーパークの家の屋根だ。そのままふわふわと降下を始める。


「ウッ……もう二度と嫌……」


 屋根へと降りたソフィアの第一声はそれだ。絶叫系のアトラクションは苦手なのかもしれない。いいことを知った。


「さぁてようこそ!おかえり!歓迎するよ」


 家の屋根が変形する。家に隠し扉なんてあれば実にロマン溢れるが、残念ながらこれはギミックではない。オーパークがリアルタイムで組み替えているだけだ。

 屋根が沈み、だんだんと家の内装が見えてくる。可もなく不可もなく、ザ・普通の家だ。面白味も何もない。


『相変わらずクソつまんねぇフツーの家ぇ』


「黙りなさい。お姉ちゃんは怒りました」


「痛ぇ!」


 オーパークが飛ばした鉄球がツナギの額に命中する。デコピンのように指で弾いたが、威力は強い。ツナギの額から血が流れ出る。


「俺じゃねぇだろ……!」


「私からすれば一緒だよ」


 物分かりのいい奴は好きだ。ツナギにはぜひこのまま全ての罪を背負ってもらいたい。オーパークはため息をつく。


「さぁてさてさて、いっぱいお話しようじゃないか。二人の面白い話を聞きたいな?」


 ダイニングテーブルに腰かけたオーパークが、頬杖を突きながら話しかけてくる。狭い家だ。ツナギは近くのソファに腰かけた。


「どこでも適当に座っていいよ」


「お……お邪魔します」


 この家には、やけにこういったソファが多い。ダイニングテーブルとは別の、リビングテーブルを囲むように並んでいる。"友人"とやらが家に来るのだろう。


「あぁ、そうだ。お茶でも淹れてくるよ」


 鼻歌を歌いながら、オーパークがキッチンへ向かう。さすがのオーパークでもお茶を淹れるくらいは出来るだろう。それにしても怖いくらいの上機嫌だ。


「……」


 静寂が場を支配する。それも仕方ないだろう。部外者が一人いるのだ。もっとも、完全な部外者ではないだろうが。友達の知り合いくらいの認識だ。


「……テメエらは何だ」


『お前が誰だよ』


 ベルの質問に、もっともな返事をする。「お前は誰だ」という返事だ。この場で俺が知らない人物はベルだけなのだ。まずはお前が誠意を見せろ。


「エイフォールは何をしてる」


『それがテメエの名前かよ』


 駄目だな。話が通じない。え?俺が先に質問に答えろと?嫌だよそれは。気に食わん。


「ルーンちゃん、この人知ってるの?」


「う~ん……知ってるような……知らないような……?」


『気は遣わんでいいぞ~』


 小さくて元気なルーンと、この小汚なくて根暗そうなベルが知り合いだとは思えない。


「なぁベル、どうやらルーンは記憶を失くしてる。お前は……ルーンを知ってるのか?」


 俺の細かな牽制を両断し、ツナギが本質に触れる問いかけをする。実のところ、俺もソフィアも聞きたいのはそれ(・・)だ。固唾を飲んで返答を待つ。


「……。――――……。」


 ベルは俺たちを見渡す。値踏みするような目だ。何度か口をパクパクさせながら、言葉を探している。


「……知らん」


『嘘つけボロ雑巾っ!』


 テメエさんざん匂わせといてそれはないだろう。猿でも分かる嘘だ。俺たちがそんなにザルだと思われているのなら心外だ。いっぺん表出ろ。


「楽しそうな話なら私も混ぜてよ」


 どうやらオーパークは、友達同士で楽しくやってるところに姉が入り込んで来て気まずくなるアレを知らないようだ。俺は前世でさんざん苦渋を舐めさせられてきた。クソ姉貴の顔がちらつく。


 オーパークがカップに入ったお茶をテーブルに並べる。ツナギはそれを手伝い、ルーンを見ていたベルのカップと自分のカップをさりげなく入れ換える。俺はあえて見なかったことにしようじゃないか。


『これ何茶?』


「紅茶だよ。高い奴」


『なら飲めんことはないか』


 よく見ればカップの中の紅茶の量すらバラバラだ。人によって多かったり少なかったり、決してプロ意識からの量の変化ではなくただの不器用だろう。こと生活面に目を向ければ、オーパークの技術レベルは著しく低下する。


「これはもらっていいのか?」


「どうぞお好きに」


 ベルがカップの中の紅茶を一気に飲み干す。あ~あ知らねぇ。俺は何も見なかったもんね。


「何だ白湯か」


「味は?」


「知るか」


「ん……匂いも味も薄い……」


 なるほど、色だけが濃い、と。ソフィアの評価なら当てにしてもいいだろう。お家事情でこういうのをたくさん飲んでいるだろうし。


「で、エイフォールはテメエらに何も言ってねぇのか?あいつがそんなバカやるとは――――」


 ゴンッ、とベルがテーブルにうつ向きに倒れる。こめかみから落下し、口から泡を吹いている。

 ツナギは眉間に皺を寄せ、天を仰ぐ。


「オーパークさんや。あれは何?」


「あれ?いつの間に」


「あれは、何だ。答えろ」


 突如として倒れたベルを見て、紅茶に手を着けたソフィアが恐怖する。ルーンは初めから飲んでいなかった。


「う~んエイフォール……どこかで聞いた気が……」


「おい待て今何を入れたァ~!?」


 考え事をするオーパークが懐から小さな杖を取り出し、その杖からツナギのカップに一滴の雫を落とす。十中八九、毒であろう。


「多分ソフィ姉のには入ってないと思うよ?ベルにぃとツナギのだけ」


 ルーンはソフィアに耳打ちする。おそらくその通りであろうが、万一のためソフィアはカップを置いた。飲んでいるのは半分ほどだろうか。


「大丈夫、ちょっと苦しんで朝まで眠るだけだよ」


「大丈夫じゃねーよ!ベルとかうなされてんじゃねぇか!」


「……ぅ」


 ツナギは、痙攣しながらうめき声を出すベルを指差す。オーパークは命までは取らないが、苦しめることはする。ベルをこの状況に貶めたのは他でもないツナギなのだが、どういうわけか心配している。白々しいな。


「ツナギが一本、だったよね?」


 オーパークの言う一本とは、折った(無くした)剣の本数だ。ツナギが無くした剣が、一本。ヴァルに食べられたやつだ。

 戦闘中に剣が折れることは多々ある。使い手の技量が高ければ折られなかった、なんて場合もあるが、たらればを語ってもどうしようもない。その事にはオーパークも理解はある。別に折られてもいい、と。

 ただし、それとこれとは話は別。剣を折れば罰がある。折ったら手首を切り落とすと言って、本当にやる奴だ。脅しを実行に移す奴があるか。確か次は首を切り落とすと……


『待てツナギ、俺が飲む』


「よしリュウゴ、そんなに飲みたいなら任せ――――いや、これは俺の一本分だ。お前に任せるなんて出来ない!」


『おま……楽な方に逃げるなァーッ!』


 ツナギがカップを飲み干す。それはもう、イッキだ。とはいえすぐには死なない。一言残す暇はあるだろう。


「どっちもバカ……」


「ルーンちゃんはあんな大人たちみたいになっちゃダメよ。絶対に」


 ツナギがカップをテーブルの上に置く。


「あ、そうだツナギ。どっちでもいいから手出して」


「……はい」


 ツナギはオーパークからの要求に従う。指を切られることに怯えているのか、指先は丸まっている。


 ドンッ


 破裂音がする。それと同時に火薬の匂い。ゲームで何度も聞いてきた、銃声だ。鉛弾がツナギの手のひらを貫き、小さな穴を開ける。


()ぃ――――ッ!?」


 弾丸はテーブルにめり込み、オーパークが新たな模様として組み込む。咄嗟に立ち上がったツナギだったが、面会時間が終わってしまった。ベル同様口から泡を吹き、頭からテーブルに落ちる。

 ガシャンと音をたててカップが割れるが、オーパークによってすぐさま直される。


「ひっ……」


『言いたいことはたくさんあるけど何も言えねえ……。取り敢えず血は止めろよ』


 毒盛った上で銃撃かぁ……。代わらなくて正解だったかもなぁ……。俺は断頭かぁ……。


『これより酷いのが俺を待ってるの?』


「安全装置は明け方着くよ」


『ひぇっ……』


 ソフィアはドン引きしている。真正面からの殴り合いなら、俺たちはそれなりに出来る方だと思っているが、このように完全な盤外戦術の類いではあっさりやられることもある。意識外からの攻撃とはそれなりに対処が難しいものなのだ。


「ところで、これはお気に召してもらえたかな?」


 ツナギの左手に包帯を巻きながら、オーパークはテーブルの上に置いた銃について俺に語りかける。リボルバー式の拳銃だ。


『おー出来たんだな。ちょっと弾倉(マガジン)回してみろよ』


「魔術を一切使わない完品か。なかなか面白かったよ。おかげで細かな細工に造詣が得られた」


 前回オーパークに会った際に、銃を作ってくれと依頼したのだ。設計図だけ渡して後は全て丸投げだ。それでもオーパークは形にしてきた。さすがだ。加工の手間はそれほどないだろうから、仕組みの理解が全てと言っても過言ではない。

 6連リボルバーなのに深い意味はない。ただ弾倉を回すという動作にロマンを感じただけだ。


「あんた何とも思わないの……?」


『ん?まぁやられたのは俺だけど俺じゃないし』


「ほら、いつまでもテーブルに突っ伏したままじゃ寝心地は悪いからさ、横にしてあげなよ」


「はーい」


 オーパークがツナギを、ルーンとソフィアがベルをそれぞれソファの上に寝かせる。ルーンはどうやらベルが気になるようだ。身に付けているものから何か探れるものはないかとまさぐり、特にめぼしいものがないことを確認すると自分の座っていた場所に戻る。

 俺はあくまで比喩だが、ツナギの顔の上に座った。


「あれ?これ……」


 オーパークが、壁に立て掛けられたベルの刀を見て疑問符をあげる。本人の服装同様ボロい刀だ。柄はささくれ、鍔なんて割れている。鞘にもいくつもの傷が見られる。


『ベルは『黒鬼』って呼んでたぞ?なんか特別っぽい?』


「『黒鬼』……あっ」


『何か知って……あっ』


 オーパークと少しやり取りして、俺も違和感の招待に気付く。どこかで聞いたことがある銘だと思ったわけだ。


『ジジイ案件?』


「いやぁ……黙っておいてあげよう。彼には関係ないからね」


 ニヤニヤと口元を歪ませながら、オーパークはそう告げる。せめて厄介オタク(ジジイ)の耳に入らんことを……。一段落したら貶めようっと。


「あっ、刀と言えば……オーパークさん。カミラさんって知り合いですか?」


「カミラ?彼女がどうかしたのかい?」


「ミロラムドでちょっと縁があって……」


 ソフィアが俺の知らない人物の話をする。ミロラムドで刀と言えば、あの人斬りくらいしか頭に浮かんで来ない。人に向かって「斬らせろ」なんて言って来るあのイカれた女だ。


「エルムさんと知り合いっぽかったし、オーパークさんも知ってるのかな?って。お世話になったし、お世話(・・・)してもらったし」


 そのお世話(・・・)は介錯という意味なのでは?なぜだろう、顎が痛くなってきた。あのラストアタックの原理今でも分かんねぇんだよなぁ。人一人が急に目の前に現れて……魔法かな?


「ふーん……まぁカミラは適当に遊んでやれば大人しくなるよ。構ってほしいだけだから」


『ペットか何かか?』


「あの人すっごく強かったもんね!全然一本も取れなかったよ!」


「あれでも騎士団の隊長だからね。腕は手放しに褒められる」


『ほう。あれが戦うしか能がないと言われる今代の隊長たちを彩る一人か』


 マノガストでの横の繋がりのようなものだろう。オーパークは体裁上騎士団の所属だが、拘束はされていない。そういう隊があるのだ。エルムも一応そこにぶちこまれている。


『ガジャミとかリサとかその辺ブラブラしてんの?安全装置(アシュ)が来るならリサはいるんだろ?』


「本当に図々しいね。年上を敬う気はある?」


「人によるに決まってんだろ。今んとこ俺が尊敬するのは百合(ユリ)さんだけだ」


 百合さんは俺の人生の師だ。前世では本当に世話になった。俺にオタクのなんたるかを教えてくれた恩師だ。百合さんと出会わなければ俺は荒んだままだっただろう。あのゲームショップが恋しいなぁ……。


「ねぇリューゴ兄ちゃん、ドラゴってなんなの?」


PN(プレイヤーネーム)だよ。どこぞの害悪王さんだ』


 実に単純な名前だが、ドラゴ・トリックスは俺がゲームでよく使ったプレイヤーネームだ。オンラインをルールの範囲内で荒らしまくって『害悪王』なんていう二つ名を付けられた。ストレスの発散に丁度いいんだよ。これも百合さんから教わったことだ。


「じゃあなんであの人たちに怒られてたの?」


『それはだなぁ……。最初から話した方が分かりやすいな。コネとネームバリューで出来てるブランドがここの経済にカチコミ仕掛けた話聞きたい?』


「ジュールさんのとこでも言ってたけど何なの?それ」


「フッ、よかろう。話してしんぜよう」


「うっさい」


 語らねばなるまい。俺たちとこの街(ハムス)との因縁を。そして抜け道を利用しまくれるこの国の悪習を――――


「ハァ……やれやれ」




 次回、過去編

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