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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第一章 繋ぎ紡ぐは継承の証
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燃える炎の恩返し


 マーク村では、緊張が高まっていた。ホート村がゴブリンの群れに襲われたのだ。


 『魔の森』の魔物は、滅多なことでは森の外へ出ない。しかし、その滅多なことが起こったのである。


 その知らせは、今日の昼過ぎにもたらされた。ちょうどツナギたちが出発したすぐ後のことだ。

 曰く、夜突然襲ってきた。村を覆い尽くす程の数だった。聖騎士団数名が村に残って足止めをし、そのおかげで自分たちは逃げられたのだ、と。いくら聖騎士団とはいえ、あまりにも多勢に無勢。万が一のため、村人を逃がしたのだ、と。

 この知らせは『聖都』にも届いているだろう。聖騎士団の援軍が来るまでは、自分たちがこの村を守らなければならない。それが、マーク村の自警団の決意であった。


 そんな中、村の警備をしていたスピルクたちが異変に気付く。異様に静かなのだ。虫が鳴く音すらも聞こえない。いつもならこの時期の夜には無数の虫が鳴く。それがないのだ。


 村人たちは、いつでも逃げることができるように準備している。だが、その逃げるための時間を稼ぐのは、スピルクたち自警団と、この村に派遣された騎士団の役目なのだ。

 マークの村では、緊張が高まっていく……


「キキッ」「キッキキ」「キキキキキキキキ」「「「キキキキキキキキキキキキキキキキ」」」


 それは、まるで哀れな犠牲者たちを嘲笑うかのようだった。


「クッ……来たぞ!鐘をならせ!ゴブリンだ!!」


 夜の静寂を掻き分けるように、緊急を伝える鐘の音とゴブリンたちの鳴き声が響きわたる。







 それを聞いたイルの心境は、今にも泣き出しそうだった。


 イルは利口な子だ。村の同年代、それどころか年上の子どもたちと比べても。それでも、まだたった6歳の女の子なのだ。そして、利口すぎるが故に自分の父親がどうなってしまうのかの最悪を理解できてしまった。


「ママ……パパがっ!!」


 目に涙を浮かべながら必死に母親に訴える。パパと一緒に逃げよう?、と。


「大丈夫よ、パパも後から逃げてくるから」


 そうは言うも、そうなる確証などない。エマの声もまた、震えているのだ。


「イヤ……、神様……ベラ様……」






「ハァ、ハァ……別に俺は神様でもベラ様でもないけど……もう大丈夫だよ」


 イルの頭に、ポンと手がのせられる。その手は確かに少年のものであるはずだが、とても大きく感じる。

 イルが振り返ると、そこには汗だくのツナギの姿があった。


「ヅナギざんっ!!」


「もう大丈夫……、あぁぁぁぁ~よかったぁ~間に合ったぁ~」


『おい、ツナギ。安心してる暇はないぞ。まだ何も終わっちゃいない』


「わかってるよ」


 大粒の涙を目に浮かべるイルとそれを支えるエマを尻目に、ツナギは前を向く。

 そう、村の外にはまだゴブリンの群れがいるのだ。何も解決したわけではない。


「この人たちに手を出そうとしたんだ。容赦はしない。」


 そう言うとツナギは腰に掛けた剣を右手で引き抜く。そして剣身に左手が触れ、


「【エンチャント:フレイム】」


 ツナギがそう呟くと、剣が燃え上がった。炎に燃え、夜を照らすその剣はまるで希望の光のようだ。


『村の外にゴブリン多数。屋根の上でも通ってけ』


「ああ」


 その場で跳躍したツナギが村の建物の屋根へと降りる。そのまま次の建物へ、屋根をつたって進んでいく。炎が残す軌跡は美しい。


 そしてツナギは、スピルクたちの下へと駆けて行った。







「くそ、数が多いっ!」


「やれるか?」


 村の外では、ゴブリンの群れと自警団、騎士団とのにらみ合いが続いていた。だがその膠着状態も、今にも破れそうだ。

 騎士団の数名が前に出て、自警団の面々も弓矢を引き絞る。自らの家族を守るために。


「キィィィィィィィッ!!!」


 一匹のゴブリンが号令を掛けた。自警団の緊張が高まる。

 スピルクも、すぐにでも矢を放てるように心構えをし……



 膠着の境に、炎が落ちてきた。

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