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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第二章 誓った言葉を胸に抱いて
77/89

詫びの菓子折りはお好きな物をお好きなだけどうぞ


◇ リュウゴ


「そ……も…信じられ…い」


「リュー……ちゃんが……の?」


「……然よ、あいつこそが諸悪の……よ!」


 ざわざわと街の雑踏が耳に入る。ふわふわとした宙を漂う感覚と共に、脳に直接ブチこまれるクソうるさい雑踏に目を覚ます。雑草どもめが。

 活気があるのはいいことだ。ありすぎるのも困りものだが。


『あ……?』


 周囲に目をやると、人、人、人。人々の波をツナギの肩が掻き分けて進んで行く。街道の両端には露店がいくつも連なっており、それぞれ店主が大きな声で客を呼び込んでいる。


 ミロラムドの景色じゃない。

 あそこにもこういった場所は当然ある。ただ、ここまで見境無く熱気があるわけではない。ミロラムドはもうちょっとおしとやかだ。クソうるさいこことは違う。


『あーはいはい読めたぜ』


 ここは、『商業都市群』ハムスだ。






『おかしいな、全く記憶がない。何か知ってるか?ツナギ』


「奇遇だなバカ。俺も同じだよ」


 覗きに失敗して帰って来た所までは覚えているのだが、その後の記憶がない。


「あら、起きたの?随分と寝坊助さんね」


 ソフィアも会話に入ってくる。……ソフィア……?何かを忘れている気がする。それと、悪寒も感じる。


「なあ、顎痛いんだけど何か知らね?」


『知らない』


 あーそういえば最後、顎をカチ割られたんだったっけ?【叛逆】して受け流そうとしたけど結局押し切られたのだ。ギリギリ認識できただけだけど、多分刀の峰側だ。


『まぁでも、記憶の混濁くらいよくあることだろ。な、ツナギ?』


「それもそうだな!」


「『ハハハハハ」』


 話の分かる息子を持って俺は幸せ者だよ。俺の業はお前が背負ってくれ。


「んなわけねぇだろ!お前何やった!!」


『やだなぁツナギ君。俺が悪党みてえじゃねえか』


「お前……まさか行ったのか?起きてからソフィアがよそよそしいんだよ……」


『俺を何だと思ってる。未遂だ(やってない)


 声を抑えて俺を責めるツナギに対し、俺は事実を告げる。ウソつきは嫌われるよ。


「リューゴ兄ちゃん、ちゃんとソフィ姉にごめんなさいしないと……」


「ふふふ、いいのよルーンちゃん。ちゃんとやっつけたから。……ね?」


 圧がすごい。俺は……敗けたのか……?


『おいツナギ、財布の紐を外せ。荷物持ちもするんだ……』


「んぁ?」


 プライドなんて捨てて早く怒りを収めて頂くよう働いた方がいい。俺とツナギは一心同体、お前も強制参加だ相棒よ。


『さあソフィア。せっかくハムスまで来たんだ。ショッピングを楽しもうぜ!奢ってやるよ!』


 金ならいくらでもある。持つべきものは優秀な友(きょうはんしゃ)なんだよね。


「そ。じゃあ、お言葉に甘えようかしら。難しいことは考えずに楽しませてもらうわ」


『エルムから嫌なとこ学びやがって……』


「なんか言った?」


『いえ、何も』


 相手に軽い煽りを入れつつ、顔でその後の行動を強要するように威圧する。やり口にエルムの面影を感じる。こんな子じゃなかったはずなんだけどなぁ……。着実に不良の道を歩んでいるように感じる。


「……俺、何か悪いことしたか?」


「ドンマイ、ツナギ」


 ルーンの手の中には丸くなったグレンがいる。その様子からは相変わらずボール適性の高さが伺える。そういえばコイツもソフィアに協力してたような……。後で蹴るか。


「それじゃ行くわよー。ルーンちゃんも好きなもの買ってくれるって」


「えっ!?ホント!?やったー!」


「何でもはちょっと……」


『さて……50、いや60万弱で足りるか……』


 現在ペンダントの中に入っている硬貨は、ゴールド金貨が5枚、ゴールド銀貨が8枚。あとは細かいゴールド硬貨が数枚と、ペネー硬貨がほんの気持ち程度。

 この国には通貨が二つあるとは以前言ったが、ゴールドとペネー、俺たちはこの内ゴールドしかまともに持っていない。まあ用意するツテの影響だが、ハムスではもはやゴールドの使えない店などないと言っても過言ではない。よって問題はなし。

 そも、金が無くなれば足すだけだから。






「ルーンちゃん!今度はこっちの服着てみて!」


 ダボっとした大きめサイズの服を手に持つソフィアは、現在着せ替え人形となっているルーンに再度詰め寄る。

 ここは服屋である。ソフィアはよりにもよって高級店を選びやがったのだがさてどうしてくれようでもルーンにいい服を着せようというその心意気は立派だねよって許す。


「ハハ……安心してください。ちゃんと買いますから。さすがに全部じゃないですけど」


「いえいえ~。それはありがたいです。」


 かれこれ20着ほどの試着が終わり、その横にはズラっと服が並べられている。ツナギはさっきから俺たちの対応をしてくれている店員に声をかけた。営業スマイルがまぶしいね。


「あっ、これいいね!動きやすい!」


 ルーンは腕を上下させながら感想を述べた。多分ファッションとかにあまり興味がないのだろう。記憶を失ってから血生臭い場面に出くわすことが多かったのか、戦闘時に服が自分の邪魔をしないことしか判断基準がないのだろう。


『おいツナギ、出番だ。行け!』


「はいはい……」


 俺がツナギに指示したのは、ルーンに似合う小物の調達だ。不本意な買い物を楽しむコツは、こっちはこっちで勝手に楽しむこと。今回の場合は、ルーンのコーディネートだ。


「ルーン、これ着けてみて」


 ツナギはルーンにメガネと帽子を渡す。

 ここは服屋と言ったが、大抵の物は全て揃う。だからソフィアが着せ替えている間にいろいろ物色して来たのだ。


「ん」


 まるメガネは頬の半分程までかかっており、その奥の大きな緑色の瞳を知的に見せる。

 帽子はハットタイプ。つばの先は軽く巻かれ、服と合わせて柔らかな印象を与える。


「かわいぃ~、あんたもやるじゃない!」


『いやいや、ソフィアもなかなか……』


 まず大前提として、この店の商品は基本大人向けだ。だから子供のルーンのサイズを探そうとすると、無いわけではないが必然的に数は少なくなる。

 ソフィアはそこを逆手に取る。こいつが選んできたものの大半は、ルーンには少し大きめの服。手が少し隠れる程の袖や、股下まで届く裾など、ゆったりとした服がメインだ。俺もそれが似合うと思う。

 下はショートパンツ。健康的な足が覗いている。


『んー……やっぱ帽子は要らねぇかなぁ……ごちゃごちゃするし』


 俺は、ルーンのかぶった帽子をツナギに取らせる。メガネがあるならこれ以上の飛び道具はかえって邪魔になる恐れがある。伊達メガネっていいよね。


「リューゴ兄ちゃん、これ邪魔~」


『かけとけよ。そっちの方がオシャレだ』


「そうよルーンちゃん!すみません、これ買います!」


「かしこまりました。では、他にご購入の品物もこちらにお願いします」


「はーい。あっ、ねぇツナギ。私もここの服着て行こうと思うんだけど、これとこれどっちがいいと思う?」


『うわ出たよ』


 どっちがいいと思う?という質問は、もはや有名な爆弾だ。


「え?別にどっちでもいいんじゃないかな?ソフィアの好きな方で」


 はい、これが落第生の回答です。その中でも一番のハズレを引き当てやがりました。


「う~んでもねぇ……やっぱこっちもいいかな……?」


 このように三択目が出てきた時点でさっさとこの話題を切ることに心血を注ぐべきです。直感で一番無難な物を選べば、ひとまずそれは安定択です。初心者はまずはそれを目指しましょう。


『その右手に持ってるやつがいい。ハムス(ここ)じゃ派手なのより一見地味な方が溶け込める。わかったら聖都の(その)マントは脱いでろ』


「う~ん、そう?」


『おい、お前も勧めろ……!』


「え?ああ。俺もいいと思うよ」


「よし!じゃあそうするわ」


 周りの人間を味方につけるのも忘れずに。二人分の意見で以て、優柔不断な相手に択を押し付けましょう。

 右と左でどちらを選ぶのか予め決めておいた方がいい。5秒くらい悩む様を見せておけば、さらに安全性は増すだろう。


 俺はデートに来た覚えは無い。断じて無い。付き合ってられるか。


「ツナギーこれも買ってぇー」


 ルーンが指差すのは、マネキンが身に付けるバッグだ。と言っても、肩掛けのポーチみたいなものだが。異世界だから向こうと同じ毛糸じゃないのだろうが、似たようなものだろう。


「バッグなんて何に使うんだ?荷物は俺が持つし」


 そうだ。俺たちにはペンダントがある。多少は自分で持ってもいいだろうが、ルーンの指差すものは、それにしては少し大きい。


「ボクがグレン君を入れて運ぶよ!」


「よし買おう!」


『即決だぁ!』


 そういうことなら是非買ってやろうじゃないか。いやなに、子供の自主性は重視するべきだよ、うん。


「これとこれとこれと……あとこれもお願いします。ルーンちゃんの着てるのと、私もこの服着てきますね。お金はアイツが払うので!」


『アイツが払うので!って……嫌なお姫様だこと』


 ソフィアは早速俺たちが(適当に)選んだ服を着るために試着室へと向かった。異世界(こっち)の服にはタグがないし、割りと融通も利く。だから会計前の商品を我が物顔で身に付けているのだ。まぁ、後で絶対に買えよ、という暗黙の了解はあるのだが。


「ではこちら袋にお詰めしますね」


「お願いします。あ、支払いはゴールドで。領収書も」


「かしこまりました」


 さて、ここは高級店。いくらになるやら……


 ソフィア、上下3着とつば広帽。

 ルーン、上4着、下2着。後はメガネとバッグ。

 合計253900(ゴールド)だとさ。


 ……おかしいな?所持金が半分位吹き飛んだぞ?

 つーかバッグ12万っておかしいだろ。ブランドものか?いや、服だけでも十分高いよ?それがゴロゴロ並んでるとか……高級店怖ぇぇ~。僻地の森に引きこもってる田舎者には刺激が強すぎるよママ~。


 まぁ、金は勝手に増えるんだけどね。今も。






 その後もソフィアは財布に情け容赦なく金を使う。あいつの金銭感覚バグってんじゃないのか?そういえばソフィアにまともな買い物の経験があるとも思えない。


『こんなクッション買ってどうするつもりなんだよ』


「え?そりゃあ……部屋に置いとくのよ」


「衝動買いはやめた方がいいよ。うちにもリュウゴのガラクタが散乱してるから」


『万を一発ドカンとぶちこむのに比べりゃかわいいもんだろ』


 ソフィアは両手で抱える程の大きなクッションに顔を埋めている。機嫌が直ったのなら手痛い出費を支払った甲斐があったというものだ。まぁ、後でトリアスには請求書が届けられるのだが。


 ベンチに座ったまま、ツナギはソフィアからクッションを受け取りペンダントの中に入れる。他にもさっき買った服やら帽子やら手袋やらネックレスやらお菓子やら何やら色々な物が新しく入っているが、加重はそこまで大きくないようだ。


「リューゴ兄ちゃ~んおなかすいた~」


 ふと広場の時計を見ると、もう13時を回っている。俺は気付けばハムス(ここ)にいたので道程は知らないが、朝の内にミロラムドを出発したはずだ。せっかく直った機嫌を損ねたくないので蒸し返さないが、ずっと歩きっぱなしで疲れ、腹も減ったのだろう。


「飯……インドロのとこ?」


『そうしたいが……金が足りるか分からん』


 60万弱ほどあった残金も、はや残り3万。ゴールドは日本円換算でおよそ1(ゴールド):1円だ。なぜかと言うと俺が分かりやすいから。


『食べ歩きしようぜ。銀行行きながら。今度はあの時計の方角だ』


「はーい」


「そうだな、無くなったから貰いに行かないとな」


 『商業都市群』と言うくらいなのだから、ここハムスはとにかく大規模だ。今いるのはトラルという地区。高級繁華街だ。桁が一つ文字化けしているよ。


「私も楽しかったわ」


『そうかそうか。じゃあ飯は自粛してくれるか?』


「嫌よ。何か言った?」


『いいえ滅相も御座いません』


 なけなしの金すらも搾り取るつもりか。取り立て屋向いてるよ、お前。怖いから言わないけど。


「何か……いいな、こういうの」


「ツナギーソフィ姉ー!はやくー!」


 少し離れた時計台の下では、ルーンがこちらに向かって手を振る。肩からかけたバッグにはグレンが丸く収まっている。


「はーい。今行くわー!」


 ツナギの呟きはルーンの声とかぶったのでソフィアには聞こえない。だが、俺にはしっかりと聞こえた。


『友達と遊ぶのは久々か?』


「うん、そうだね」


『楽しいだろ?こっちの方が』


「うん……うん」


 ツナギはベンチから立ち上がり、二人の後を追いかける。

 ツナギは一人で背負い込みすぎるからなあ……。二人いるんだから俺を頼ればいいのに。……いや、俺の性格かなぁ。今さら直そうとはしないけど。


『お~い待~てよ~』


 まぁ、成るように成るだろ。

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