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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第二章 誓った言葉を胸に抱いて
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我、お前たちを慮る者なり(笑)


◇ リュウゴ


『あぁダリィ』


「……お前は何もしてないだろ」


 剣を鞘に収めながら、ツナギが俺に苦言を呈する。失礼な、俺だって何もやってないなんてことは……応援は大事だよ。


「全部燃えたの?」


「あぁ、そのようだな」


 目を凝らして空を眺めるルーンに、グレンが返事をした。


 哀れなちょうちょはまたしても退けられた。もっかい御礼参りに行こうかなぁ。遠いしめんどくさいな、今度近くを通ったらあのクソ蝶ボコそう。


『さぁ~て、他のが寄って来ない内にとっとと進むぞぉ』


 俺は元来、インドア派だ。キャンプもたまにならいいが、やはりベッドでゆっくり昼まで寝たい。『魔の森』を抜ければ宿くらいはすぐに見つかる。今日中には抜けたいな。


『もうめんどくせぇからさ~ぁ、敵には近い奴が対処するってことで。こっから』


「またさっきみたいなのが……」


『うるせぇ!てめえがいちいち止まるからだろうが。時間とエンカ数は比例すんだよ』


 ツナギの意見はあえて否定。今の内に実戦(・・)の経験を積ませておく。ソフィアとルーンの動きは悪くなかった。ここでも十分通用する。それに、万が一死なれたらさすがの俺も罪悪感を覚える。


「リューゴ兄ちゃん、方向はこっちで合ってる?」


『あー……おー……うん、直進ならそうだな』


「じゃあ先行くね~!」


「あっ」


 獣道にルーンが飛び込む。足が速い。背中がどんどん遠ざかっていく。岩などの障害物は、あって無いような様子で軽く飛び越える。


「一人じゃ危ないわよ!」


 それにソフィアも続く。足元の草は不自然に分かれている。よく見ると透明な膜のようなものがある。随分と器用なことが出来るようになったものだ。


『ツナギィ、停滞者こそが弱者だぜ?本能みてぇなモンだよ、成長(あれ)は』


 ジジイとエルムのことだ。ちゃんと殺気をぶつけているに違いない。実際に、殺すつもりで。しかし拙いながらもそれに立ち向かい、乗り越えた。十分称賛に値する。


「……言いたいことは……分かる」


『じゃあなおさら下らねぇよ。せっかくの保護者同伴(・・・・・)なんだぜ?』


 俺は思慮なんざとっくにドブに捨てているのに。


『あ、焼き鳥ぃ。GO』


「……」


 何か言いたげだったが、言わなければ伝わるものも伝わらない。よって焼き鳥の不満は却下。働け保護者その2。

 奴はソフィアとルーンを追う。


『俺の命くらい、勝手に賭けていいんだぜ?』


「……覚えとく」


 分かってねぇ顔だな、これは。クソ真面目なバカ息子が。いっぺんくたばれ。


『ハァ……じゃ出来ることやれ。朕は安眠を所望じゃ。今日中にここ抜けろ』


 それはそれとして容赦はしない。俺は俺が楽しければそれでいいのだもの(マル)






『おー案外すぐ着いたなぁ』


 『魔の森』とその外との境目に明確な基準はない。ともあれ、林の部分は抜けた。今、俺たちの目の前には平原が広がっている。


「ハァ……ハァ……」


 ルーンが荒い息をする。ほぼずっと走りっぱなしだったのだ。ソフィアは少し遅れているのでまだ森の中。グレンが付いているので心配はないだろう。もうすぐここに追い付くし。


 道中、猿の群れにカチコんだり、狙撃してくる石ころをかち割って来たり。今回は直進したが、いちいち避けて進んだ方が時間はともかく労力は使わなかっただろう。まだ陽は高い。


「ハッ……ハッ、やっと追い付いたぁ……!」


 息を切らし、汗を滴らせながらソフィアが追い付く。振り向くと、その後ろにグレンもいることが分かる。


「じゃ、あと小一時間ほど進んだら村があるからさ。先に休憩していく?」


「する~」


「……する」


『だらしね~ぇ』


 ソフィアが俺を睨む。と言っても、その姿は見えないのでペンダントを睨んだのだが。

 失礼だな。俺は今回、終始傍観者に徹していた。つまり、何もしていないのだ。どこに恨むような要素がある。

 え?何もしてないのがいけない?そんなバカなことがあるはずがない!


「ハッ、あんたたち、ハッ、身軽すぎんのよ、ハァッあの猿みたいに」


『失敬な。あんな一般通行猿(有象無象)どもと一緒にすんな!』


「……?……」


 ソフィアはその場に寝転がって息を整えようとしている。今のこいつにはあれらでも荷が重いかもしれないが、所詮は雑兵だ。せめて本体くらいに例えてもらわねば。いや、奴ら(ゲイオウ)に関しては本体などとの言い方は適切ではないか。


「まあ休んでなよ。さすがにここまで来るような奴はいな……」


 ツナギが剣を抜き、自分のこめかみ付近に添える。カンッと乾いた音が鳴り、弾かれた石ころが草原に転がる。


「……ハァ、ちょっとかち割ってくる」


『んの野郎こんなとこまで生息してんのかよ』


 辺り一面は草原、しかし、所々に岩が見られる。恐らく狙撃されたであろう方角を見ながら、ツナギはため息をついた。


「フゥ……」


 ソフィアは壁を張った。いちいち警戒するよりも、多少の体力を使ってでも精神の休息が欲しいという魂胆だろう。ルーンも同時に守るように広く展開されている。


 ソフィアの壁は任意の物または者を遮断する。それ即ち対象外であるツナギは素通り出来るということだ。

 あまり時間をかけるつもりもない。ツナギは僅かな時間で距離を詰め、剣を振り下ろす。


「おっ、硬い」


『当たりだぁ!』


 ツナギも本気というわけではないだろうが、この眼前の(石ころ)は剣を受け止めた。それなりの強度を誇る。

 つまり、おめでたいことにこいつは優秀な素材としての余生、そしていずれ来る転生への切符を手に入れたのだ。よかったね、君はオーパークへの手土産だ。平和への礎になってくれ。


「【エンチャント:ウィンド】」


 一度は通らなかった刃も、さらに強く、速く、鋭くしていけば、いずれは必ず届く。俺は脳筋も好きだぜ。


「フゥッ」


 もはや小さな石礫(いしつぶて)など障害足り得ないし、自慢の強度は真正面から捩じ伏せる。先ほど斬りつけたのと寸分違わぬ所に、剣は吸い込まれた。


 風はツナギの得意分野だ。丁度いい(エルム)がいたからだろうが、本人も気に入っている。一番得意は炎なのだが、メンタルフルボッコで使いたくないらしい。ハハハ下らねえ。


道徳(どーとく)なんてクソだしなぁ~……さて、上納金はこれで足りるかなぁ』


「祈るしかないよ。首と胴体が繋がってるように」


 ギロチンで首を落としに来るような家族なんていらない。当然のごとく毒を飲ませようとする人とは関わりたくない。


 ツナギは、元々無機質だがさらに生命を感じられなくなった石ころをペンダントに入れる。


『そろそろ重くねぇ?』


「まだ大丈夫。所詮(イシコロ)だからね」


『鉄入れると露骨に重くなんだよなぁ~』


 鉄―――及び金属。これらをペンダントに入れると、ある一定ラインを越えたらバグる。

 例として剣で言うと、10本まではなんともないが、11本目からはその重さがそっくりそのままペンダントに加算される。よって首が痛くなるし肩も凝る。

 他の物ではこうはならない。微量の加重はあるものの、精々多くて数g程度。そもそもが巨大ならこの例に当てはまらない場合もあるが、俺たちはわざわざベッドを持ち歩かない。

 同じ鉱石で何が違うのかは知らないが、是非ともさっさと修正して鉄の大量密輸を可能にして欲しいものだ。


『おーいお前らァ、早く来いよー!』


「まだ一分も経ってないぃ……」


 いい歳して情けないものだ。元気が有り余っているような年代だろうお前(ソフィア)は。

 それに比べてルーンはちょっと人並み外れている。動きの節々から最適化されきった挙動を感じる。ジジイ由来のものと似てはいるし実際そうなのだが、根底にあるものはまた別だ。アレだな、体は覚えているというやつだ。どんな生活してたんだか。


『クッハハ』


 俺は基本、過去は振り返らない。取り敢えず今見るべきは、未来だ。難しく拗れるような話は後回しにしよう。楽しいことだけ考えていよう。


 俺は今日、ベッドで熟睡する!


『そのためにも、お前らには是非とも俺を運んでもらわねば』


「じゃあ代われ。自分の足で歩け」


 お前は勘違いをしている、ツナギ。俺とお前は一心同体、一蓮托生。俺はお前でお前は俺。まどろっこしい言い方になったが、つまりカウントは合算だ。

 (リュウゴ)が歩こうがツナギが歩こうが、端から見れば「ツナギ・レイ」という人物の歩みである。親孝行は強制的にさせればいい。要するに言いたいことは――――


『ハハハ()なこった』

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