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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第二章 誓った言葉を胸に抱いて
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よく考えたら思いっきり寄り道していくって話


◇ ツナギ


 あぁ、よく寝た。昨日は疲れたからかぐっすり眠れた――――取り敢えずリュウゴは許さん。


『そうイラつくなよ』


「アドバイスより先に行動で示してくんねぇかなぁ?」


『やなこった~』


 バカの上にクズとは救いようがない。こんな奴はさっさと地獄にでも落ちれば良いのに。


 俺の足元には魔物の死体が一つ転がっている。大きな鳥みたいな奴だった。


「むー……昨日からツナギが全部やっちゃう!」


「うんそりゃまぁ……危ないし?」


『知ってるか?大いなる力と責任は比例しないんだぜ?サボれよ』


「どの口で言ってんのよ」


 昨日から、魔物と遭遇すればまず殲滅。危険は対応出来る奴が遠ざければいい。魔物は話は通じないし人を襲うこともあるため、俺は普段から定期的に間引いている。修行の相手をしてもらったり、食卓に並んでもらったり。

 『魔の森』は、生きているのかと見紛うほどに速く、死体を土に還す。だから、今向かって来るのなら申し訳ないが木々の肥やしになってもらうしかない。


「ボクもカッコいいとこ見せたいのにぃ~」


 ルーンがごねる。ここはまだ(・・・・・)『魔の森』の中でも比較的環境がマシな場所だ。『魔の森』ではどこにでも言えることだが、ここは魔物の数が多い位しか特筆すべきことがない。

 ……上澄みの方はまさに人外魔境と化しているからなぁ。それぞれが自分色に整地した環境でもてなしてくれる。最高(最悪)だよ。


『じゃあツナギィ。次だけ手ェ出すなよ』


「やったー!」


「危ないじゃん」


『ソフィアも付ければいいじゃん。おまけで』


「……ハァ、分かったわよ。ずっと守られっぱなしじゃ悪いものね」


 ……まぁそこまで言うなら。


「りょーかい」


 足元の魔物は、もう地面に沈んでいた。


「……来るぞ」


 グレンがそう呟く。その声を聞き、俺も敵の気配を捉えた。

 そして俺たちは影に覆われる。


「ィィィィァーーー!!」


 大きな蝶―――――いや、蛾だ。本体が5mほど、羽を伸ばせば20mにも及ぶかもしれない。


「おいリュウゴ?」


『クジ運すげぇなぁ……』


 さて、『魔の森』は群雄割拠とは言えある程度の縄張り(魔境)があるというのは前述の通り。例えば、(トラ)(オオカミ)(サル)(クマ)烏賊(イカ)(イシコロ)などなど………。そして、()。流石に(ヌシ)ではないが、その配下がここまで来るのは想定外。


「あれ?これやべえ?」


 蛾は、『魔の森』でも西の方に縄張りを持っている。今居るこことはそれなりの距離が離れているはずだ。


「よお~っし!」


「おい?」


 蛾を前にして、ルーンが駆け出す。こちら――――と言うよりソフィアに目線だけ向け、跳んだ。


「フフフッ」


「あぁもう……無茶しちゃ駄目よ、ルーンちゃん」


 ルーンは、宙に現れた透明な()を蹴った。





◇ ソフィア


 大丈夫。実戦――――戦いとなっても、私は落ち着いている。


「【空への道程(インジケイト)】」


 まずは、空へと跳んだルーンちゃんの足場を創る。小さな【聖域】を複数展開し、物を透過しないように設定。あの大きな蛾を中心として、球に沿うように設置する。


「ニヒヒッ」


 ルーンちゃんが【空への道程(足場)】の一つを、溜めて、蹴った。ものすごいスピードで蛾へと突っ込む。

 ただ、蛾も黙ってばかりではない。羽を震わせ、鱗粉を撒き散らす。


「させないわ。【不侵の羽衣(プリムスローブ)】」


「ィァ――――」


 今度の【聖域】は、鱗粉意外の物を透過する――――逆に言えば、鱗粉は壁に阻まれるということ。

 私はこれを使って、できるだけ遠くまで鱗粉を押し返す。


「見れば分かる毒々しいものを、ルーンちゃんに近付けさせるわけないでしょ?」


『ほーすげぇー、でもイキんのは大概にしとけよー。後で痛くなるぞ~』


「お前が言うのか?それを」


 ツナギとリュウゴの会話は無視。ただでさえ許容量ギリギリで【聖域】を展開しているのだ。集中しなければならない。

 複数同時展開――――これくらいはしなければ師匠(エルムさん)からは耐えられない……うっ、嫌なこと思い出した。


「あの人はさらに瞬時の切り替えも要求するし……あんたは全然トロいわね!」


『だからイキりすぎるなって~』


 リュウゴは無視!





◇ルーン


 みるみる内に近付いてくる。大きな蛾の、狙うのは胴体。


「せぇ~のッ!」


 ボクは両手に持った短剣二つを交差させた状態から振り抜く。


「かたっ!」


 手応えはあまりない。カツンと音がして、後ろを振り向くと少し傷付いた蛾の脚があった。


「フフッ」


 怒っているのがこっちにも伝わってくる。小さな人間がぁー!って。でもごめんね。


「もう一回!」


 ボクはソフィ姉が用意してくれた足場に着地する。

 ここにはソフィ姉も、ツナギもリューゴ兄ちゃんもグレンくんもいる。だから、失敗しても死ぬわけじゃない。


「でも失敗する気なんてないけどね!」


『そうだルーン、それでいい。失敗を恐れるな。尻拭いはしてやる。……ツナギが』


「お前もう黙れ」


『ちょいまっ』


 なんだか下が騒がしいけど気にしなくていいよね。空って気持ちいい!


「フゥー……」


 おじいちゃんが言ってた。相手の攻撃を受け止めると言っても、どうしても穴があるって。相手がなにもせず待っているだけなら(好き)に剣を差し込めるって。


「ハッ」


 吐いた息を吸い戻し、トンと足場を蹴る。


 ねぇ、君はどこに()を置きたい?

 そこ?

 じゃあボクはこっちにするね。


月兎(げっと)!」


 ボクの剣が二つとも、蛾の胴体を切り裂く。


(『カンッペキ読んでたなぁ、今の』)


「じいちゃんが教えたんだっけ?」


(『そーそー』)


「もっかい!」


 ボクが落ちる先には、また別の足場がある。ボクはそれを踏みしめ、もう一度。もう一度、もう一度。


(『お前あのピンボールできる?』)


「いや……どうだろ」


(『【叛逆】無しじゃギリ……ってところか』)


 羽がズタズタになって、蛾が地面に落ちる。ボクはソフィ姉の【聖域】に掴まってその様子を見ていた。


「……あっ、ルーン!止め(トドメ)!」


「えっ?」


 ツナギがこっちに向かって叫んでいる。でも、少し遅かった。


「――――キャャャャャ!!!」


 蛾が叫ぶ。ボクたちは耳をふさいだ。


「うるさっ……何これ?」


「あぁー……」


『クソ蝶は仲間を呼んだ!・・・やったぜクソゲーの始まりだぁ!』





◇ リュウゴ


 『魔の森』の蛾。名称なんてどうせ人間が勝手に呼んでるだけだろうし、忘れたからどうでもいい。たしか『災蝶』とかそんな感じ。

 俺たちの前で無様をさらしているのは、ソイツの配下だ。主が居て、配下が居る。種としてのコミュニティが出来上がっているのなら当然、数もそれなりには多い。猿どもには及ばんが。


 さて、そんな奴らが今からここに攻めて来ますよ、ってのが現在の状況だ。

 正直このまま逃げても差し支えないのだが、怒りの矛先がどこに向かうかが不透明だ。


『そもそも仕掛けて来たのはそっちだろうが、カチコんでやりてぇのはこっちじゃクソ蝶ども』


 まあとにかく、奴らが暴れたら鱗粉が撒き散らされる。ソフィアが真っ先にシャットアウトしたのは正解だ。

 もしこれを人が吸い込めば死、そして疫病へと続くだろう。風が吹けば周囲へと広がる。()は海をも越えるんだよ。


『ハァ……てめえがやるしかねぇぞ?ツナギ』


 後手ではあるがエルムが対応するだろうからぶっちゃけ俺はどうでもいいが、ツナギは逃げない。

 ちょっと面白いことになってきた。


「ゲッ……何あれ」


 さっきと同じ蛾が目算およそ20匹、こちらに向かって来る。もうすぐにこちらへ辿り着くだろう。しかし残念でした。


『羽虫が炎に勝てるわきゃねぇだろうが』


 俺はツナギと、グレンは見やる。


「我のを使え」


「……いいのか?」


「あぁ」


「……ありがとう。グレン」


 チッ、バーカ。グレンが炎上し、ツナギはそれに剣を近付ける。


「【エンチャント:紅炎――――」


 ツナギが炎を纏った剣を傾ける。狙いは、羽虫()ども。


「――――プラスウィンド】」


 そして、振り抜く。

 炎を伴う風は敵を焼き尽くし、炭すらも遺さず、吹き抜けた。風がどこまででも綿毛()を運ぶのならば、炎はそれらを全て伝い、取りこぼしなどあり得ないだろう。


 これでアフターケアも万全だな。そこら辺の爆発(花火)は粉塵爆発だろう。どうせ。知らんけど。


「――――フゥ」


 ツナギは、じっとりと汗をかいていた。

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