直行便切符売り場はここですか?
◇ リュウゴ
少し地理の話をしよう。テーマは『マノガスト聖王国』。
世界でも有数の領土を持つ国であり、国力そのものもまた上位。クソエルムをはじめとした人材も豊富である。
そんなマノガストの特色は大きく分けて三つ。
一つ目は、『聖都 ベラ』を中心とした人身掌握。国のほぼ中央に位置し、象徴のような扱いをされている。英雄譚の成れの果て。
二つ目は、マノガスト東端の鉱物産業。東方に浮かぶ『マルゲスト』という島から素材を持ってきて本土で加工するらしい。オーパークの管理下。
そして三つ目、『商業都市群 ハムス』。上記とは正反対のマノガスト西端に広がる町街の総称。大きな湾を囲むように配置され、なんかもういろいろすごい。『王都』はここと実質的な一体化をしている。
まあこんなものだろう。後は『ベンマトル森林地帯』とか言う国土のおよそ二割を占める魔境があるが、そこの住民として言わせてもらえば全然無視してもらって構わない。ちょっと狂暴な動物さんが多いだけだよ☆
……さて俺たちは今、そんな楽しいピクニックコースを歩いている。
◇
「ルートとしては『魔の森』を南西に進んで抜ける」
これは道程を決める際の会話だ。
『魔の森』はマノガスト南部に広くその勢力を伸ばす。通常は立ち入り禁止区域なのだが、スポーンがここなので突っ切るのはもうどうしようもない。と言うかそもそも俺ん家の庭なので抵抗は毛ほどもないのだが。
「『聖都』を経由するのも考えたが2秒でやめた」
「……うん、私も家に顔出してからってのは嫌」
そんな『魔の森』から北に位置するのが、『聖都』である。そこから列車で直行するというルートも考えたが、2秒で否決。
この世界では、新幹線という過程をとばしてリニアを実装している。日本ならいざ知らず、まあ単純に俺は信用していない。低空飛行する弾道ミサイルに乗り込めと言われて「Yes」と答えるような奴はきっと未来人だ。現代社会を生きていてその結論にはまず至らないだろう。
「だからこっちから行く」
『……』
俺は地図の茶色の部分を指でなぞる。緑に塗り潰された僅か下。この世界地図で見ると小指程もないが、確実にここに根付く人々もいる。だいたいは小さな村だ。
「後は西に歩いて行くだけだ。ゆっくり景色を見ながら寄り道でもしてこうぜぇ」
俺は効率厨であると同時にロマン至上主義者でもある。時と場合によってコロコロ変わるが、今回は後者を選ぶ。……あー楽しみだなー。
「なに考えてるの?」
「ヒャヒャヒャ、俺ァもうちょいチャート詰める。明日家出るからお前らもさっさと準備しとけよ~」
さあ、交渉道具は何を持って行こうか。あそこは飛び道具無しで突っ込んでどうにかなる場所じゃない。人を使うことに慣れていなければ物量で攻められる。こちらの味方をさせるに足る理由は必要不可欠なのだ。
――――さて、ソフィアとルーン。それぞれクソ野郎とジジイの下で修行した。故に心配はしていないが、ぶつけるには少し心許ない。
(あ"ー荷物持ちに加えて子守りが3倍かぁ……)
やだなーおれはへいわしゅぎしゃなのになー
(焼き鳥に強制労働させよーっと)
◇
道程の『魔の森』の部分はもう半分を過ぎた。日は暮れ、俺たちは火を囲む。明日はまともなベッドで寝られそうだ。そうありたいな、だって見張りは俺だから。
「起きねぇのかぁ?ほうら放り込むぞぉ~」
今日の晩飯は焼き鳥だ。いや、晩飯と言うよりは夜食だな。俺は動かない焼き鳥の片方の脚を持ち、火の上に吊るす。
「フェッフェッェエ!アッッツ!」
一瞬だけ意識が焼き切れるような感覚を味わい、俺は手を離す。そうだった、コイツにはカウンターがあるんだった。
「……」
グレンは何も言うことはないというような目でこちらを羽ばたきながら見下ろしている。そして視線を反らした。ルーンの眠るテントの中へと入って行く。
「やーいロリコーォォオッッツ!!」
またやられた。クソが。てめえがロリコンなのは事実だろうがよ。俺に当たるな。
「何やってんのよ……」
その様子を見て、俺と共に火を囲むソフィアが呆れた顔をする。
ちなみにツナギはもう寝た。丸一日厄介払いさせたのはさすがに疲れたようだ。だからまあ、夜の番くらいは代わってやろう。
「……じゃ、もういいぜ?聞きてぇことあんなら聞けよ」
俺はコーヒーを淹れながらソフィアを促す。コーヒーとは言ったが、これはもどきだ。味は似ているが、カフェインの有無など知らん。さらに、たまにクソ不味い豆が紛れている。今回は大丈夫だったようだ。
俺は自分で豆を挽くことにこだわって――――
「じゃあ……」
「チッ、回想に割り込むなよ」
「いいって言ったのはそっちでしょ……!」
おお怖い。
「……ねぇ、あんたたち私に付き合ってる暇あるの?」
「ほう、暇とな?」
いいね。これ強キャラっぽい。俺はマグカップを傾けながらソフィアの話を聞く。
「……」
「あーはいはい筋肉ダルマのことね」
そうだな。多対一でかかってフルボッコにされたのだ。まだあの高みには届かなかった。
「ザコは己の弱さを鑑みながら何が足りないか、出来ることはねぇか考えろ――――っと。さすがソフィアルークサマは言うことが違うなあぁ徳がお高いからかなぁぁ!」
「そうっじゃ、なくて!」
「ふーん」
乗って来なかったな。育ったのは能力だけでは無く、煽り耐性もだったか。つまんねぇ。
「ま、次のロイデバンとのエンカはいつになるか分かんねぇ。アイツはレアエネミーだからな」
(そっか……一年後のことは知らないみたい。よかった)
……何か隠してんなぁ。ソフィアの表情が少し強張った。言いたくないことがあると見た。そもそも今さら今後の展望を聞いてくる時点で胡散臭い。もう出発しているというのに。
まあいい。カマかけるのもめんどくせぇ。
「それより今はツナギが心配だ。何でもねぇように見えるがぁ……メンタルベキベキだろうなぁ」
◇ ソフィア
「え?」
「だからぁ……頭ん中ドッロドロのグッチャグチャになってるっつってんだよ」
リュウゴが衝撃の事実を告げる。いや、薄々は気付いていた。少しだけ、ツナギの元気がないように見えたから。
「だからテメエに付いて行くんだが……お前らは良い意味での枷だよ」
「……何でそれを話したの?」
「あ?別に俺は好感度とか気にしねぇから」
確かに、私は今さらそんなことでリュウゴを恨みはしない。暗に「利用するぜ」と言われても。そもそも、評価は元から最低なのだから。
「あいつは夢や目標は何ですか~って聞かれたら、ロイデバンをぶち殺しま~すって答えるような奴だ。ガキが暗い感情持ちやがって」
あぁ、駄目だ。多分私が何をしても、ツナギはいつか必ずロイデバンに辿り着いてしまう、そんな気がする。私の干渉出来る領域じゃない。
「まぁいつ決壊してもおかしくねぇわけだ。本当ならぬるま湯にでも浸けてふやかしときたいんだが……将来的に死ぬだろうなぁ。環境が許してくれねぇよ」
ツナギを取り巻く人物を考えると、その結論に至るのはさほど難しいことじゃない。今の状況――――私の護衛もその影響を受けている。
「クソ乱数を回避し続けるのは現実的じゃあない。そこでだ、提案がある」
私は、断らない。
「同盟組もうぜ!」
「……どこからどこまでがあなたの思惑通りなの?」
「全部アドリブ。俺ァライブ感で生きてんだよ」
それもあながち否定出来ない。リュウゴは計画は立てるが、それが不要になったのなら即座に切り捨て、別の解決策を模索するだろう。そうやって積み重なって来た結果が、この状況なのかもしれない。
「俺ァ情はあるが人道はない。ツナギと俺と、お前も地獄に来いよ」
ツナギは私の恩人だ。命を救ってくれた人だ。
そんな人のために何か出来ることがあるのなら、私は喜んで協力する。リュウゴの掌の上というのが少し癪だけど。
「分かったわよ!組んでやるわよ!同盟!」
「ニィ――――そう言うと思ったぜぇ」
一年後、ロイデバンはまた来る。そして今度こそは、途中で帰ってくれるようなことはないだろう。
私は、そんなところからツナギを遠ざけたい。危険は私が全て排除して、安らげる居場所を作ってあげたい。
でも、私はまだまだ弱い。
ものすごいジレンマだ。理想と、そこに辿り着くための手段がぐちゃぐちゃになった未来を選ばなければならない。目の前の、悪魔によって。
(ちょぉっと手荒なリハビリになるかもなぁ)
きっと一筋縄ではいかない。それでも、
「あんたが何を企んでいても、私が全部守ってやるわ」
「おぉ頼もしい。その言葉覚えとくぜぇ」
私は、拳を胸の前で握った。




