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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第二章 誓った言葉を胸に抱いて
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地獄行き直行同伴者有り


◇ ツナギ


「第一回!天野家家族旅行会議を執り行います!」


『うるさい』


「ちょっと黙ってて」


「ハハハ」


「黙れてめえら!俺ァもう飽きた!どっか遊びに行きたーい!」


 駄々をこねるのは、現在体の主導権を握っているリュウゴだ。


「さて、どこにカチコミに行く?」


「それは本当に旅行なの?」


 リュウゴは頭がおかしいというのが俺たちの共通認識だ。たとえ短期間でも接していれば、それは(おの)ずとバレる。


「戦場へのデートは古来からのプロポーズだぜ?粋なもんじゃねえか」


「ボクは嫌だなぁ……」


 常識の範囲内である感性ではリュウゴについていけない。そんな中、奴の言わんとしていることが分かる俺はおかしいのだろうか。


「つーかソフィア、お前どうすんだよ?」


「え?」


「え?じゃねえ。俺たちはお前の護衛なんだよ、建前は」


 そういえばそんな話だった気がする。ローゼンに暗殺されかけ、一人じゃ危険だからと俺たちに白羽の矢が立った。その裏で渦巻く大人どもの思惑は知らん。


「あー……そうだったわね」


 今は別の目的を持っているのか、ソフィアもそれを忘れていたようだ。具体的な今後の展望はない。


「つーわけで……清く正しく投票で決めよう」


 リュウゴは首にかけたペンダントから地図を取り出す。それを俺たちが囲むテーブルの上に広げた。それと一緒に取り出した、小さな駒のようなものを大陸から外れた海の上に置いた。


「ツナギ、分かってるな?」


 そう言ってリュウゴは腰の剣をポンポンと軽く叩く。いつも愛用している剣はロイデバン戦で折られ、崩され、溶けた。だから今は別の剣を出している。いったいどういうこ……と……


『任せろ』


 俺は親指を立ててリュウゴに向ける。意図は伝わった。あそこを選ばなければいい。その上で、リュウゴと意見を被せる。これはそこまで難しいことではない。


「ボクは?」


「あー……何も知らねえんだっけ?じゃあ残念棄権だな!」


 重要なのは、これ見よがしに置いた駒。地図には載っていないからこその措置だが、俺にはこれだけで伝わる。


「ちょっそれって二対一……」


「行くぜ!せーのッ」


 それは、地続きの領土を持たない。特定の場所にない。


「蒼穹!」


『蒼穹!』


「くっ……ハムス……」


 俺とリュウゴは駒を、ソフィアはマノガスト西端をそれぞれ指で指した。


 『アルドラーグ』という国がある。通称『蒼穹』。その国は大空に浮かぶ、空飛ぶ島だ。一応、国交等は結んでいるらしいが滅多に俗世に現れない。

 『蒼穹神』と呼ばれる神様を信仰するいわゆる宗教国家で、絶対的な秩序を以て統治されているらしい。

 ……とは言ったが、今どこにあるかなど分からない。つまりリュウゴは「当ての無い旅でもしようぜ」と言いたいのだ。俺たちの壮大な旅路が、今始ま……


「ハムス」


「オーパークのとこ~」


「なん……」


 『商業都市群』へとさらに追加の二票が入る。下手人はじいちゃんとモフだ。


『商業都市群 ハムス』、それは一つの街の名ではない。貿易やら流通やらの関係で発達した町街の総称だ。主にマノガスト西端の臨海部に位置する。海を越えた先にあるオルミアンとの交易が盛んだ。

 多種多様な文化が入り乱れ、地域によってその様相はガラリと変わる。武具防具が売られる所もあれば、レストラン街すらも。この『商業都市群』の存在が、マノガストが世界で最も栄えている国の一つと言われる由縁である。


()(さん)……ズルだろうがてめえら!」


「二対一で確実に仕留めに行こうとしてたのは誰かなぁ~」


「失礼な!俺がそんな事するわけないじゃないか!」


「誰もリューゴ兄ちゃんのことは言ってないよ」


「うるせぇ!嵌め殺しはだいたい環境に入るんだよ!引っ掛かる奴が悪い!」


「嘘でしょ開き直った!?」


『うわぁバカがいる』


「真正面からひっくり返されて、何か申し開きはあるかの?」


「そりゃぁ不意打ちだろうがよ」


 リュウゴが言い負かされる分には一向に構わないが、このままでは俺もハムスへ行くことになってしまう。それは望むところではない。


『来い!グレーン!』


 三対三ならまだ望みはある。俺の味方、グレンならばこの状況を五分に持っていける。俺は助けを呼んだ。


 ――――しかし助けは来なかった。


『くそっ』


「おいルーン。お前はどうしたい?」


 ならば浮動票を引き入れる、とリュウゴがルーンに話しかける。ニッコニコの笑顔だ。


「うーん、こっち!」


 ルーンが指し示したのは――――ハムスだ。


「即決かよクソッタレ!」


 まずい、非常にまずい。このままでは殺されてしまう。


「お前ら……俺にアイアンメイデンやらギロチンやらを食らえと申すか?」


「そりゃあ……ごめん、否定出来なかった」


「あ"ぁ"ー遠回しに死ねと言われた気分~」


『死を――――受け入れるしか無いのか……?』


 ハムスに行くとは必然的に、そこにいるオーパークと合う可能性があるということだ。

 そして、あの剣を作ったのはオーパークである。後は分かるな?俺たちは殺されるということだ。


「なぁジジイ、ちょっと俺たちの代わりに……」


「自分で行かんか。この老骨を酷使させるつもりか?」


「そう言ったんだよ伝わらなかったか?」


「……はぁ」


 ため息をついてじいちゃんが腰を下ろす。相手をする気はないらしい。ただ、無視はする。


「ツナギ」


 俺は名を呼ばれる。


「何も(つるぎ)だけが、力ではないぞ」


 随分と優しい顔で語りかけるじいちゃんの、俺は目を見る。


「護ることも、少しは念頭に入れるといい」


 俺はソフィアとルーンを護るために付いて行くのだから、はじめから目的はそれだ。再確認させようと言うのか?


「了解した。我が見ておこう」


「てめえ遅ぇんだよねぎまァ……」


 グレンが窓枠に脚をかけ、じいちゃんにそう言う。


『ん?お前も付いて来るのか?』


「あぁ」


 何があったのだろうか。グレンはあまり祠を離れようとしない。少しの間なら『聖都』に行った時のように付いて来ることもあるが、今回は長期間だ。いや、寧ろ無期限の永久に帰って来れないパターンかもしれない。


「まーオーパークも命までは取らないんじゃない?」


「過程に死があるんだがそれは?」


 結果的に生きていたとしてもその過程で死を経験するのならば、それは十分に恐怖の対象足り得る。即死と言ってもコンマ数秒の誤差切り捨てなんだよ。


「ハムスってそんな怖いとこだっけ?昔一回だけ行ったことあるけど……」


「俺たち心温まるファミリーがいれば、どこだって地獄に変わるんだよ。街中での突発的な乱闘には注意を払え」


「そもそも始めないで」


 出来れば争いとは無縁の生活をしたいと思う今日この頃。……まぁ、それも無理な話か。


「ねーねー、そこ行って何するの?」


 ルーンが問う。


「お前は俺たちの剣を直してもらってこい。任せたぞ」


「うん」


「自分で行きなよ~」


 行ったら対価があるからなぁ……。相応の痛みを覚悟せねばならない。そんなのはごめんだ。誰が好き好んで地雷を踏み抜くのだろうか。


『ソフィアは何でそこに行きたいんだ?』


「そりゃあもちろん、ショッピングよ!」


「うわぁ出たよ」


 ハムスに行けば基本何でも揃うという。適当に歩くだけで一日潰せるほどだ。高いのから安いのまで品揃え豊富。まぁ楽しい所だろう。


「……金はトリアスから預かった(勝手に借りる)からいいけどさぁ……ハァ、荷物持ちかぁ」


 リュウゴがぼやく。だがコイツは文句を言いながらもやることはやる――――時もある。全部放り出す時もあるが、今回はそれをしなかった。なんだかんだで面倒見は良い――――時もある。これが特例なだけだな、やっぱり。


「あー……あ"ー……あー……ンー……」


 地図を見て唸りながら、リュウゴが何事かを考える。リュウゴは単純で大まかなことを考える時、声を出す癖がある。深くは考えていないが、有用ではある。


「よぅし……」


 顔を上げたリュウゴがソフィアとルーンとグレンを一瞥し――――


「明日家出るぞぉー」

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