庭(国土二割)付きツリーハウス(群)
◇ ルーン
三人共倒れちゃった。紅い炎や白い奔流が入り乱れ、ツナギとリューゴ兄ちゃんとグレンくんが包まれる。そして、気絶した。
「……」
おじいちゃんはたしか「簡単に意識を手放すのは二流じゃ!」って言ってた気がする。この様子を見たら怒り出しそうだ。
「……しょうがないなぁ」
ボクはツナギの体を背負い、グレンくんを口に咥えて立ち上がる。すぐに戻ることになってしまったけど、モフのところまではそこまで遠くない。それくらいなら運んで行ける。
「んしょっ」
ツナギを抱え直し、ボクは歩き出す。途中ふらつきながらも、一歩一歩確実に進んで行く。
……重いなぁ
◇
「ただいまー」
「あれ?おかえりー」
すぐに帰って来たボクを、モフが不思議そうに迎える。大きな扉を開けて、家の中に入った。
「二人は?」
「外」
コップに手渡された水を飲みながらモフの質問に答える。
「なんで?」
「寝てるよ。ケンカして倒れちゃった」
「え~……」
「ツナギとグレンくんは庭に置いてきたよ。でも家のすぐ側だから大丈夫だと思う」
「そんな悪い子たちはそれでいいよ」
じゃあよかった。芝生も柔らかいから寝心地は良さそう。ボクも後で一緒に寝ようかな?
◇
「あぁ~疲れた~怖かった~」
あれからしばらくぼーっとして、ソフィ姉が帰って来た。もうすぐお昼ご飯だ。
「今日一回も音しなかったね」
「フッフッフ、そうでしょ!ノーミスよ!」
ソフィ姉は「エルムの魔術を【聖域】を使って受け止める」という特訓をしている。詳しいことは知らないけど、失敗すると魔術が地面に当たって大きな音がする。だから離れていてもその音を聞くことがあるけど、今日はそれがなかった。
「今の私は、最強よ!」
「じゃあもっと激しいのやるかボケナス」
「丁重にお断りします」
後を続いて家に帰って来たエルムの提案を、ソフィ姉は間髪いれずに断った。
「そうだルーンちゃん。さっきそこで寝てたあいつらは何なの?」
「バカ共の成れの果てだ」
エルムが吐き捨てるようにそう言った。多分見てたのだと思う。リューゴ兄ちゃんにすごく怒っていたから。
「じゃあ俺ァもう行くぞ」
「うん、早くいってらっしゃい」
モフの料理をつまみ食いしながら、エルムがそう言った。ソフィ姉は早く行ってほしいみたい。
「予定が早まった?」
「違ぇよ。今はもう十分だ」
「ふーん……ふぅーん」
「うぜぇ」
モフがエルムに怒られてる。大きな杖で頭をコツンと叩かれた。
「ふいー疲れた疲れた」
何の前触れも無く、家の扉が開かれた。おじいちゃんはいつもこんな感じだ。気配が全然読めない。
「チッ、クソが」
その手には、首根っこを掴まれたリューゴ兄ちゃんの姿がある。もう昼だからそれなりに時間は経っている。だから目が覚めたのだろう。
「フンッ」
リューゴ兄ちゃん目掛けてエルムが杖を振り下ろした。思いっきり。
「ハッハーザコめ!んなのに当たるかよ!」
「《フレクトル》」
「ッ!」
攻撃を飛び上がってかわしたリューゴ兄ちゃんの背後、家の壁から魔術が放たれる。あれは多分、単純な構造をしている砲撃だ。
「バカなんじゃないの!?」
このままでは反対側の壁に当たってしまっていたであろう魔術を、ソフィ姉が【聖域】で受け止める。だから家は傷付かない。ここ最近の修行の成果だ。
「クッハッハハハァ!」
リューゴ兄ちゃんは当然のように避けている。両足を天井に着き、こちらを見下ろしている。
「やんのかぁ!」
「バカが」
「やめい」
おじいちゃんが一瞬だけ剣を抜いたかと思えば、次の瞬間にはリューゴ兄ちゃんが床に縫い付けられていた。体の周りには小さな刃がある。
「カフッ」
「ケンカするなら外でやれ。家が壊れては敵わん」
リューゴ兄ちゃんは静かだ。なぜなら、また気絶している。でも今回はとても浅い。
「どうするのじゃ?」
「んッンン……もう何もかもコイツが悪いんじゃないか?」
立ち上がったのは、ツナギだ。おじいちゃんはリューゴ兄ちゃんを一瞬だけ気絶させた。そしてその隙にツナギが体の主導権を取ったのだ。ツナギは戻れるタイミングを見計らってたから。
『にゃぁっ!』
意識を取り戻したリューゴ兄ちゃんが悔しそうな声を上げる。全部自分が悪いのに。
「あ"ぁー、俺はもう行く。コイツの面も見たくねぇし声も聞きたくねぇ」
『あぁ?逃げんのか?』
「戦いの場にすら立てねぇ奴が何をほざいても、それは負け犬の遠吠えと何ら変わりねぇ。……有り難い偉人の言葉だ」
ひどい嫌われようだ。エルムは今度こそ、扉をくぐって外へと出る。そして振り向いて、
「じゃあな負け犬」
『んだとゴルァ!』
「うわぁ……」
見るに堪えないし、聞くに堪えない。ツナギは耳を塞いでいるし、ソフィ姉も同じだ。おじいちゃんはまた剣の柄に手をかけている。
「斬られたいか?」
『いえ、結構です』
一瞬で静かになった。今度は気絶はいらなかったようだ。しつけってこういうことなんだなぁ……
『じゃあクソ野郎は死んだと仮定して……おいジジイ、てめえどこ行ってたんだよ』
「シュルロード」
『うっわ帝国かよ……何やらかされたの?』
なんで何事も無かったかのように振る舞えるのだろう。いや、なんとなく考えていることは分かるんだけど……
「なに、いつもの所用じゃよ」
(?なんだろ)
おじいちゃんが一瞬だけボクを見た。最近はこういう視線もすぐに感じ取れるようになってきた。これも修行の成果かな?
『ふーんつまんねー』
「お前、もう黙れ」
『あちょまッ』
プツンと音がして、それ以降リューゴ兄ちゃんの声はしなくなった。小さなノイズなら聞こえるけど、それを声として聞き取るにはもっと集中しなければならない。
『――――』
「あぁ静寂っていいよねぇ……こんなに自然に囲まれてるんだもの」
「……ああ、そうだな!」
最初は眉間に皺を寄せていたツナギだけど、途中か
ら吹っ切れたようにスッキリした顔になった。……すごい、何も聞いてない!
「……愚者という言葉は奴の為にあると聞いても我は驚かん」
「あ」
いつの間にか家の中に居たグレンくんがボクの頭の上に止まった。ボクはそれを両手で触る。
『――――』
みんな無視してるなぁ……
(じゃあボクも聞くのやーめよっと)




