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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第二章 誓った言葉を胸に抱いて
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庭(国土二割)付きツリーハウス(群)


◇ ルーン


 三人共倒れちゃった。紅い炎や白い奔流が入り乱れ、ツナギとリューゴ兄ちゃんとグレンくんが包まれる。そして、気絶した。


「……」


 おじいちゃんはたしか「簡単に意識を手放すのは二流じゃ!」って言ってた気がする。この様子を見たら怒り出しそうだ。


「……しょうがないなぁ」


 ボクはツナギの体を背負い、グレンくんを口に咥えて立ち上がる。すぐに戻ることになってしまったけど、モフのところまではそこまで遠くない。それくらいなら運んで行ける。


「んしょっ」


 ツナギを抱え直し、ボクは歩き出す。途中ふらつきながらも、一歩一歩確実に進んで行く。


 ……重いなぁ






「ただいまー」


「あれ?おかえりー」


 すぐに帰って来たボクを、モフが不思議そうに迎える。大きな扉を開けて、家の中に入った。


「二人は?」


「外」


 コップに手渡された水を飲みながらモフの質問に答える。


「なんで?」


「寝てるよ。ケンカして倒れちゃった」


「え~……」


「ツナギとグレンくんは庭に置いてきたよ。でも家のすぐ側だから大丈夫だと思う」


「そんな悪い子たちはそれでいいよ」


 じゃあよかった。芝生も柔らかいから寝心地は良さそう。ボクも後で一緒に寝ようかな?






「あぁ~疲れた~怖かった~」


 あれからしばらくぼーっとして、ソフィ姉が帰って来た。もうすぐお昼ご飯だ。


「今日一回も音しなかったね」


「フッフッフ、そうでしょ!ノーミスよ!」


 ソフィ姉は「エルムの魔術を【聖域】を使って受け止める」という特訓をしている。詳しいことは知らないけど、失敗すると魔術が地面に当たって大きな音がする。だから離れていてもその音を聞くことがあるけど、今日はそれがなかった。


「今の私は、最強よ!」


「じゃあもっと激しいのやるかボケナス」


丁重(てーちょー)にお断りします」


 後を続いて家に帰って来たエルムの提案を、ソフィ姉は間髪いれずに断った。


「そうだルーンちゃん。さっきそこで寝てたあいつらは何なの?」


「バカ共の成れの果てだ」


 エルムが吐き捨てるようにそう言った。多分見てたのだと思う。リューゴ兄ちゃんにすごく怒っていたから。


「じゃあ俺ァもう行くぞ」


「うん、早くいってらっしゃい」


 モフの料理をつまみ食いしながら、エルムがそう言った。ソフィ姉は早く行ってほしいみたい。


「予定が早まった?」


「違ぇよ。今はもう十分だ」


「ふーん……ふぅーん」


「うぜぇ」


 モフがエルムに怒られてる。大きな杖で頭をコツンと叩かれた。


「ふいー疲れた疲れた」


 何の前触れも無く、家の扉が開かれた。おじいちゃんはいつもこんな感じだ。気配が全然読めない。


「チッ、クソが」


 その手には、首根っこを掴まれたリューゴ兄ちゃんの姿がある。もう昼だからそれなりに時間は経っている。だから目が覚めたのだろう。


「フンッ」


 リューゴ兄ちゃん目掛けてエルムが杖を振り下ろした。思いっきり。


「ハッハーザコめ!んなのに当たるかよ!」


「《フレクトル》」


「ッ!」


 攻撃を飛び上がってかわしたリューゴ兄ちゃんの背後、家の壁から魔術が放たれる。あれは多分、単純な構造をしている砲撃だ。


「バカなんじゃないの!?」


 このままでは反対側の壁に当たってしまっていたであろう魔術を、ソフィ姉が【聖域】で受け止める。だから家は傷付かない。ここ最近の修行の成果だ。


「クッハッハハハァ!」


 リューゴ兄ちゃんは当然のように避けている。両足を天井に着き、こちらを見下ろしている。


「やんのかぁ!」


「バカが」


「やめい」


 おじいちゃんが一瞬だけ剣を抜いたかと思えば、次の瞬間にはリューゴ兄ちゃんが床に縫い付けられていた。体の周りには小さな(花びら)がある。


「カフッ」


「ケンカするなら外でやれ。家が壊れては敵わん」


 リューゴ兄ちゃんは静かだ。なぜなら、また気絶している。でも今回はとても浅い。


「どうするのじゃ?」


「んッンン……もう何もかもコイツ(リュウゴ)が悪いんじゃないか?」


 立ち上がったのは、ツナギだ。おじいちゃんはリューゴ兄ちゃんを一瞬だけ気絶させた。そしてその隙にツナギが体の主導権を取ったのだ。ツナギは戻れるタイミングを見計らってたから。


『にゃぁっ!』


 意識を取り戻したリューゴ兄ちゃんが悔しそうな声を上げる。全部自分が悪いのに。


「あ"ぁー、俺はもう行く。コイツの面も見たくねぇし声も聞きたくねぇ」


『あぁ?逃げんのか?』


「戦いの場にすら立てねぇ奴が何をほざいても、それは負け犬の遠吠えと何ら変わりねぇ。……有り難い偉人の言葉だ」


 ひどい嫌われようだ。エルムは今度こそ、扉をくぐって外へと出る。そして振り向いて、


「じゃあな負け犬(ザコ)


『んだとゴルァ!』


「うわぁ……」


 見るに堪えないし、聞くに堪えない。ツナギは耳を塞いでいるし、ソフィ姉も同じだ。おじいちゃんはまた剣の柄に手をかけている。


「斬られたいか?」


『いえ、結構です』


 一瞬で静かになった。今度は気絶(痛み)はいらなかったようだ。しつけってこういうことなんだなぁ……


『じゃあクソ野郎は死んだと仮定して……おいジジイ、てめえどこ行ってたんだよ』


「シュルロード」


『うっわ帝国(蠱毒)かよ……何やらかされたの?』


 なんで何事も無かったかのように振る舞えるのだろう。いや、なんとなく考えていることは分かるんだけど……


「なに、いつもの所用じゃよ」


(?なんだろ)


 おじいちゃんが一瞬だけボクを見た。最近はこういう視線もすぐに感じ取れるようになってきた。これも修行の成果かな?


『ふーんつまんねー』


「お前、もう黙れ」


『あちょまッ』


 プツンと音がして、それ以降リューゴ兄ちゃんの声はしなくなった。小さなノイズなら聞こえるけど、それを声として聞き取るにはもっと集中しなければならない。


『――――』


「あぁ静寂っていいよねぇ……こんなに自然に囲まれてるんだもの」


「……ああ、そうだな!」


 最初は眉間に皺を寄せていたツナギだけど、途中か

ら吹っ切れたようにスッキリした顔になった。……すごい、何も聞いてない!


「……愚者(バカ)という言葉は奴の為にあると聞いても我は驚かん」


「あ」


 いつの間にか家の中に居たグレンくんがボクの頭の上に止まった。ボクはそれを両手で触る。


『――――』


 みんな無視してるなぁ……


(じゃあボクも聞くのやーめよっと)

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