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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第一章 繋ぎ紡ぐは継承の証
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憂鬱な旅路、終着


 朝食を食べ終えたツナギは、スピルクにつれられて村を歩く。村全体が浮かれつつも警戒しているのは、『聖誕祭』が近いことと、ここ最近の魔物の活性化が大きく関わっているのだろう。


 魔物の活性化、それは確かにあることだ。『魔の森』を抜けて来たツナギには、それが痛いほど分かる。滅多なことでは森の外へ出ない魔物たちであるが、現在進行形で異常事態が起こっているのだ。

 魔物の襲撃。ないとは言い切れない。


「ハハッ、そんなに心配そうな顔はしなくていいよ。『聖都』の騎士団が駆けつけてくれてるんだから」


 不安そうなツナギに気が付いたのか、スピルクが大丈夫だと言う。聞けば、一週間ほど前にはもう変化が見られたため、報告、及び救援要請を出したらしい。

 村にも自警団がいるにはいるが、騎士団に頼った方が確実なのだ。


(それなら心配はないか……)


 『聖都』の騎士団、『聖騎士団』の権限を持っているのは『聖託』だ。今代の『聖託』は食えない人物だと聞く。ならば、さっさと編成してもう各村へと騎士団を送っているのだろう、というのがツナギの考えだ。ちらほらと鎧を着た人の姿も見える。


「ほら、着いたよ」


 そうこうしている内に二人は目的地に着いた。そこには、『マーク商会』と書かれた看板を掲げる、ひときわ大きな建物があった。ちなみに、マークというのはこの村の名前だ。


「お~い、おっちゃんいるか~!!」


「むむ、なんだスピルクか」


 店の外からスピルクが呼び掛けると、中からガタイのでかい男が出てきた。


「どうした?俺はもうすぐ行かなきゃならんのだが……」


 どうやら目の前の男こそが、スピルクの言っていた『おっちゃん』らしい。名前はグロウという。たしかにいかにも、といった風である。タンクトップ姿の筋肉マッチョな中年は、本当に商人なのか疑いたくなること間違いなしだ。


「それがさ、こいつも『聖都』に行くんだって。どうせなら一緒に連れて行ってくれよ」


「ああ、昨日の夜中に来たという小僧か。……まあいいぞ。ただし、働いてもらうからな」


「分かった。護衛でも荷運びでも何でもするよ」


 交渉成立だ。


 それからは商材を馬車に詰め込んだり、道程の確認をしたりとしている内に、直ぐに出発の時間になった。


「それじゃあ、お世話になりました。……本当に何も要らないんですか?」


 ツナギが問うのは、スピルクたち家族に対してだ。こんなに良くしてくれたのに、本当に何も要らないのか、と。答えはもちろんYESだ。そういう人たちなのだ。


「では、また帰りに寄りますね。イルちゃんにはなにかお土産でも」


「楽しみにしてますね!ツナギさん!」


 微笑ましい約束をした後、ツナギは馬車へと乗り込む。

 いざ、『聖都』へと。







『で、ここどこ?』


 リュウゴが起きた。ずいぶんと遅い目覚めだ。もう日は落ちているというのに。まる一日中眠っていたのだ。


 現在位置はトーン村手前。マーク村からは四つほど離れた村だ。道中トラブルはなく、今現在まで快適な旅を送れている。


 予定程は進めていないが、日数にはまだ余裕がある。それほど焦る必要はないのだ。


 いつの間にか道程の三分の一ほど進んでいたことを受けてリュウゴは、『マンガとかを一話読み飛ばした感覚だな……』と、言っていた。


 何はともあれ、『聖誕祭』まであと3日。諸事情で一日前には着いておきたい、というのがツナギとリュウゴの希望だ。






 が、そんなものは知ったことかと運命様はおっしゃっている。







トーン村は、ざわついていた。ピリピリしている、と言った方がいいだろうか。馬車を引きながら村へと入ったツナギたちは、その異様さに違和感を覚える。


「なにかあったんですか?」


 こういうところを見ると、見た目は厳つくても彼はやはり商人だと思う。情報収集は欠かさない、という姿勢だ。


「それがなぁ、ホート村がゴブリンに襲われたんだとよ」


「なんだと!?」


 ホート村は『魔の森』からかなり近い。そしてそれは、マーク村も例外ではない。


「い、いつだ!?」


「ついさっきわかったことだ」


 グロウの動揺は計り知れない。彼は情に厚い。次は自分の村かも知れない。そんな予感がして、不安に押し潰されそうだ。


 そんな中ツナギは、


「なあ、リュウゴ。世の中ってのは悪いことばかりだな。……いいか(・・・)?」


『フッ、好きにしろよ。世話になったんだろ?』


「ありがとう」


覚悟を決めていた。


「おっちゃん、俺は戻るぜ」


「ッ――――ツー坊……」


「おい、あんた。騎士団の派遣状況とか分かるか?」


「あ……あぁ。通信魔道具でとっくに連絡はいってるはずだ……。確か村に数人いるんじゃなかったか?」


「よし……じゃあおっちゃんは村に戻る時は騎士団と一緒に」


 ツナギは次々と確認をし、現状の整理をする。村が襲われるかもしれない、『聖誕祭』に遅れるかもしれない。どちらかを選ぶのなら、ツナギは迷わず前者のために動く。


「じゃあ、もう行くぞ」


『あぁ』


「……ツー坊、どうして……」


 グロウがツナギに問う。


「あんないい人たちを死なせるわけにはいかないよ。それに……」


 ツナギが想うのは、マーク村の人々。どこの馬の骨ともわからない自分に寝床を提供してくれた家族のことだ。


「護衛でも荷運びでも何でもするって言ったしね。村の護衛だ」


 そう言い残すと、ツナギはついさっき来た道を戻った。その背中はどんどん小さくなるも、大きく見えるのはグロウの気のせいだろうか。


 ツナギは夜道をひた走る。月明かりだけが、彼を照らしていた。

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