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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第二章 誓った言葉を胸に抱いて
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庭付きツリーハウス

◇ ツナギ


 俺の朝は早――――くもなく遅くもなく。


 『魔の森』の丁度中央付近に座すのが、俺たちの家だ。グレンのところの大樹よりは遥かに低いが、横幅や枝の太さでは負けず劣らず。そんな樹をくり貫いたツリーハウスの一室で、俺は目覚める。


「ク、アァァァー」


 大きなあくびと共に血が全身を駆け巡り脈打つのを感じる。素足で下りる、木の床の冷たくも柔らかい感触が心地よい。

 ドアを開け、自分の部屋を出た先には、まだ記憶に新しい我が家の新たな間取りが広がっている……


(やっぱ慣れない……)


 吹き抜けとなったダイニングルームと、明るい朝の日差しが俺を迎える。バルコニーを彷彿とさせる廊下から下を覗くと、テーブルを囲むソフィアたちの姿が……


(すっげー違和感)


 ここはツリーハウスと言ったが、本質は樹に擬態した城のようなものだ。金属で補強された外枠(樹表)はそこらの樹よりもよっぽど頑丈で、ブロックのように分けられた部屋を自由に組み換えることもできる……主にエルムが。つまり、間取りなどはその時の気分次第だ。

 エルムには植物みたいな知り合いがいるらしく、植物とはどういうものなのか、俺たちよりも教養があるらしい……ちょっと何言ってるか分からない。


「あ、おはよー!」


 こちらに気付いた眼下のルーンが手を振ってきたので俺も手を振り返す。

 まあ、この広い家は俺とじいちゃんとモフと……だいたい家にいないエルムとオーパーク(・・・・・)は省いて、三人では持て余しぎみだったのだ。だから広い部屋はなかった(奥にあった)のだが、賑やかになったのならそれに合わせて広いスペースを作ればいい。これはちょっと極端な改造だけど。

 リュウゴに言わせれば、「和から洋に進化した!現代建築を取り入れた!」


「おはよう、ちゃんと眠れたの?」


「うーん……まあずっと寝てたようなものだけどね」


 廊下の突き当たりにある螺旋階段を下りながら、俺はソフィアに返事する。

 俺が長い眠り目覚めてから翌日、起き抜けのエルムとのケンカはまだ記憶に新しい昨日の出来事だ。昨日の傷がまだ痛む……


「あっ」


「?どうかした?」


「いや、なんでもない」


 忘れていた。俺は手を後ろにやり、手袋(グローブ)を着ける。ペンダントはこういう時に便利だ。取り敢えず詰め込んでおけば忘れ物を無くせる。


「ご飯出来てるよー。食べる?」


「食べる」


 空いている席に座りながら、モフに食事を取る意を伝えた。……なんで椅子が10個くらいあるんだろう。気にしたら負けな気がする。


「おい……クソバカはまだか」


「さあー」


 エルムへと生返事をしながら、俺は背後を流し見る。俺の目だけは、幸せそうな寝顔をさらすリュウゴの姿を捉える。

 そう言えばケンカの原因は何だったのだろう。エルムに聞くのも新たな火種になるだけだな。どうせリュウゴが悪い。


「フアァ……ァフ」


 俺がうとうとしながら待つ間に、モフは朝食を運んで来てくれる。フサフサとした毛を汚すのを防ぐためかモフはエプロンを着けているが、そのせいで異様さがかえって浮き彫りになる。


「はいどうぞっ」


 パン、サラダ、スープ……。この国での一般的な食事が目の前に提供される。どれも美味しそうだ。


「んじゃまっ――――」


 リュウゴの分も先に食べておこう。


「いただきます」






「ん……おなかいっぱい……」


 そう呟いたのはルーンだ。俺の真似をして朝食を食べ過ぎたようだ。そもそも俺は普段から二人分の食事を必要とする。何故かと問われると二人居るからとしか答えようがないが、とにかく常人の二倍食べるというわけだ。


「あいつが『王都』に帰って来るまでまだ数日ある。行くぞ」


「ゲッ……」


 エルムの催促にソフィアが不満の声を漏らす。これから何をするのかはなんとなく分かるが、昨日の俺が帰って来た時の状況を想像してもらいたい。……俺は嫌だなぁ……


「ん?そのあいつって誰?」


 ふと気になった。たしかローゼンとゴリの襲撃の件で、エルムは一度『王都』へと話を聞きに行ったはずだが……。曖昧な記憶だが、有識者とか言っていた気がする。


「……」


 エルムの目が俺を正面から射貫く。俺もそれから目を逸らさないし、その理由もない。


「お前にもいずれ話が来る」


 オーケーわかった面倒ごとだな。今回のソフィアの護衛と似たような気配を感じる。


「その時までに、それ(・・)を何とかしておけ」


「んん?」


 やっぱり少し違うかもしれない。これはなんとなくの勘なのだが。


「おい、やんねーのか?」


「くっ、卑怯な……断れないのを分かっておいて……」


 ソフィアは弱味でも握られたのかな?俺は別に、強くなることに積極的であるのは悪いことではないと思っているが、それはモチベーションが続く限りだ。無理矢理やらされているのなら止めるが、ソフィアのこれは自分の意思だ。だったら俺は何も言わない。


「ほら、ツナギ?一緒にどう?」


「その手には乗らねーぞ」


 自分が不利益を被るのならお前も、と道連れを企むことは人間として仕方の無いことなのだろうか。

 だが残念だったなソフィア。そのいった手招きには慣れてるんだよ。クズ(リュウゴ)ならもっと上手く狡猾に誘う。あれは本当に気付いたら逃げ場ないからなぁ……


「ルーンちゃん……はダメよね」


 よかった。理性はまだある。道連れに出来るなら誰でもいいバカ(リュウゴ)とは大違いだ。


「がんばれー」


 ルーンがソフィアを励ます。


「うん……いってきます!」


 ソフィアが一言残し、先に外へと出たエルムを追う。何か悲壮な覚悟を決めたようだ。毎日これやってたのかなぁ……


『はい、逝ってらっしゃ~い』


 パタンと扉が閉まる音と同時に、悪魔が目覚める。


「起きたのかよ」


『ずっと起きてたぜぇ~。……エルムはもう行ったな』


 リュウゴはエルムがいなくなるタイミングを見計らってから声をかけてきた。昨日の昨日で気まずかったのだろうか。いや、こいつにそんな情緒があるはずもない。


「そもそもお前何やったんだよ」


『え~……何も?』



◇リュウゴ回想


「よぉエルム。暇だしちょっと殺し合いしようぜ?」


「正気か?」


「たりめーだろ」


「いや、悪かったな。お前も十分常識の埒外の生物だ。……認知が」


「やんのかゴラァ!」


「で、んなどうでもいいことより……本音は?」


「感覚を忘れない内にやり合っておきたい。めっちゃいい感じだったんだよな。あの時」


「このイカれ野郎が」


「ヒェッヒェッ」


「やんねーぞ」


「あと体の調子も確かめてえなぁ。思いっきり動いてよぉ」


「勝手にやってろ。ジジイとやれ」


「じゃあその気にさせてやるよ……!」


「あぁ?」


「半年前、オーパークからの贈り物。オルミアンから海を越えて届いたものは……向こうのお菓子だ」


「……何だそれは……!」


「美味かったぜぇ~てめえのハッピバースデェー!」


「上等だよてめえェ!ぶち殺してやらァ!!」


「やって見せろよ!このシスコンがァァ!!」


「死ねやァァァーーー!!」


「ギャァーーーッハッハッハァ!!」



◇回想終わり



『うん、動機は特になしだなぁ』


「原因は?」


 俺が聞き返した時、丁度轟音が響いた。きっとその殺し合い(ケンカ)もこんな風に周囲を破壊し尽くす災害であったことだろう。


『ほれ、久しぶりに帰ったんだ。いろいろやることもあんだろ?ルーンも一緒に来るかぁ?』


「う……でもおじいちゃんが……」


『んなもんさぼっちまえよ』


「じゃあ……」


「知らねーぞ?」


 ルーンはじいちゃんと何か約束をしているらしいが、どうやらそれを放り出すつもりらしい。内容によっては後が怖いなぁ……


『言い訳なんぞいくらでも湧いてくる。俺に任せろ』


 その根拠はいったいどこから来るのだろう。

 俺はモフに何か反論を出すように首を傾ける。


「大丈夫!今日は昼までいないって!」


『最高だぜ!じゃあ足止めは頼んだ!』


「オッケー」


 ああ駄目だ。こいつらはそうだった。リュウゴの悪ノリにモフも乗っかる。やっぱり俺の味方はグレンだけだな!


「ねえねえ、まず何するの?」


「……そうだなぁ」


 ええいもうどうにでもなれ!


「んじゃまずは――――」

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