プロローグ:幽らめく足取り
第二章、はーじまーるよー
◇
コツコツと、裏路地に靴音が響く。ボロ布を纏った『鬼』が、手に持つ刀を翻す。
「ハァー……」
「ま……待て……!やめろ!」
『鬼』の目の前には尻餅をつく男の姿がある。その様は見て分かるように命乞いをしている。
「か、金ならあるんだ!いくらでもくれてやる!だから……っ!」
「その金は、人を貶めて稼いだものだろう」
『鬼』が怒気を強める。
「お前も、俺が殺してきた奴らの同類だ」
「ヒィッ!」
上擦った男の悲鳴が路地に反響する。
そもそも、金に靡くような人物がボロ布を纏い、ヨレヨレの服と靴に身を通すだろうか。顔には怨嗟の念が刻まれている。
「死ね」
端的なその言葉は、しかしそれだけで完結する。『鬼』の誓った言葉がその誓い通りに完遂され、一歩――――気の遠くなるような先にある目的へと、一歩だけ進んだ。
ゴロリと地面に落ちた男の首と泣き別れになった体は、その内誰かが処分するだろう。そんなこの国の有り方を『鬼』は憎む。
「チッ」
刀に付いた血を払いながら、『鬼』は小さく舌打ちする。その刀もボロボロだ。柄にはささくれた紐が巻き付けられ、鍔は割れている。しかし刃の切れ味には一切の陰りがない。俗に言う、妖刀である。
「マノガスト……の、端の方だったな。西の端……」
刀を鞘に収めながら呟く。次の目的地と、次なる一歩を進むために。
「そこに、お前はいるのか?テレス」
目を瞑った『鬼』が呼ぶものは、もはや思い出の中の残骸だ。まだ平和だった、全てがぶち壊される前の――――
少しだけ、寄り道を。諦めることなどできないから。可能性があるなら、『鬼』はそれを拾い上げる。
「……どのみち全部殺す。ゴミも――――邪魔する奴も」
その足取りは、ふらふら、ふらふらと。
第二章 誓った言葉を胸に抱いて




