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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第一章 繋ぎ紡ぐは継承の証
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エピローグ:暗躍者たち


「ひぃぃぃ!」


 今日も今日とて森の中で爆音が響く。その原因はエルムであり、さらに原因を遡るのならばソフィアこそが根元だ。


「こんのおぉ!」


 一般的な魔術師が時間をかけて放つような魔術をほぼノータイムで繰り出し続けるエルムの猛攻に、【聖域】を展開したソフィアが悲鳴を上げながら対処する。その動作は未だ拙いものだが、熟練度は確実に上がってきている。


 あれから、一週間。戦いの傷は癒え、しかし心に刻まれた衝撃は今も体を蝕む。



 しかし心の傷など一笑に付すような輩が轟音轟く爆心地付近で安眠出来るはずもなく――――


「ゴルァァ!!朝っぱらからうるっせぇぞ!!」


 リュウゴが、起きた。





◇ リュウゴ


 どうやら俺は一週間近く眠ったままだったらしい。それにしては未だひきつった体と、何故か空いていない腹に違和感を覚える。

 いや、単純な体の疲れは覚悟していたものなのだが、この胃もたれは知らない。いったい何故このようなことになっているのだろうか。


「おっはっ、よ~う!」


「ぐぇ」


 勢いよく扉を開けたルーンが俺に向かって飛び付いて来た。俺は開けた窓際にいたので、その勢いのまま2階の窓から落ちる。落下し着地の瞬間に【叛逆(リセット)】したが、ルーンの体はその影響を受けない。結果として、被害を最小限に抑えたもののボロボロの体に追撃が入った。

 世のお父さんたちはこういった我が子の無邪気さに振り回されているんだなぁ。俺はツナギとこういったふれあいができなかったから新鮮だなぁ。


「あ、やっと起きたんだね。もうすぐ夕方だけど」


 我が家の中からモフが出てきた。指摘された言葉について思考を巡らせれば、なるほど確かに太陽が傾いている。


「もーすっごく心配したんだよ?」


「はいはい……」


 俺の上に乗ったままのルーンが声をかけてくる。こんなに活発な子だったっけ?どうも俺の記憶の中のルーンと微妙に違いが生じている。といっても、俺が触れ合った時間は二日ほどなのだが。


 さて、あの憎きロイデバンとの戦いから早一週間。肉体的な傷はほとんど完治している。治っていないところといえば、ちらほらと見られる火傷の痕だろう。その中でも掌が最もひどい。焼け爛れた皮膚はとても子供に見せるようなものではないだろう。

 俺は立ち上がり、両手をズボンのポケットに突っ込んだ。後で手袋探さないとな。


「オラオラ俺の快気祝いだ。命に感謝して喜び喘ぎ咽び泣け」


 ま、命があるだけまだマシだ。ツナギもどうせすぐ起きてくるだろ。






 コツコツと、荘厳さを感じさせる長い大理石で出来た廊下を歩く人物がいる。豪奢な装飾と共にしなやかな肢体が蝋燭の灯りに照らされ、堂々とした胸が揺れる。

 やがてその女性は一つの扉の前で立ち止まり、その一室に入る。


「結果は?俺の負けか?」


 入るやいなや投げ掛けられた端的なその言葉は言葉が足りないなんてものではないが、長い付き合いをしていれば意図は読み解ける。


「また賭け事ですか?今度は誰と?ゼペン」


 女性の口から紡がれた言葉は、とても女性らしいものとは言えない。若い男性のものだ。その女性――――否、ローゼンは、己の姿の眩惑を解く。


「ノワールと。丁度一日前に奴が勝ち誇った顔で出て行った時から嫌な予感はしていたが……失敗か?」


「ええ、思わぬ邪魔が入ったもので。……いえ、だからこそあそこまで手薄だったと言うべきでしょうか」


 ローゼンと相対するのは、ゆったりとした羽織を羽織った男だ。鍛え抜かれた肉体はその人物の有り様を表している。肘をつくテーブルには限り無く球体に近いダイスが転がっている。

 向かい合うローゼンとゼペンは、彼らの計画が失敗に終わったにも関わらず気にした様子はない。ソフィアルーク・クランドはまだ生きたままなのだ。――――今絶賛死にかけているなどとは知るよしもない。


「そうかぁ……潰れたなぁ。残念だ」


「?」


「いや、お前は気にしなくてもいい」


「曖昧ですが分かりますよ。ゴリさんの件でしょう?」


「まあそうなんだが……随分と帰りが遅かったじゃないか」


 この二人は、言わば悪友である。公な立場のあるゼペンと犯罪者であるローゼンでは、一見交じり得ない。だが、現実はそうではない。


「途中砂漠を渡る際に『自由奔放(フリーダム)』とかち合いましてねぇ。何故か(・・・)目の敵にされ、命からがら逃げて来ました。全力で」


「ククッ、お前が全力か?」


「なかなか逃がしてくれないもので。おかげさまでボロボロですよ」


 そう言ってローゼンは取り繕わない自身の姿を見せる。旅装束が所々破れ、顔は砂を被っている。


「ホント、犯罪者とは怖いものですねぇ」






「久しぶりに訪ねてくれたからもてなすけど、本来君はここにいてはいけないんだよ?」


「つれないなぁ、トリアスさん」


「ここ最近は忙しくて私も疲れているんだよ」


 場所は変わり、『聖都』。『聖託』トリアスの執務室にて、二人の男が談笑する。もうすっかり夜も更けているので、声は抑え気味だ。

 トリアスは紅茶を用意する。


「で、何故ここに?」


「近くを寄ったからさぁ。どうせなら挨拶を、と。ソフィアにも一目会いたいし」


「残念ながらソフィアはいないよ。王子様とこの街を出て行ったからね」


「そーか、あいつももうそんな年か」


「言っておくけど違うよ?冗談だよ?」


 必死な様子で訂正をするトリアスを思考の端に留めながら、青年は紅茶に手をつける。特徴的な模様が刻まれたローブと、顔を斜めに横切る痣が印象に残る。背は少し低い。そんな青年が唐突に口を開く。


「僕、結婚したんだ」


「ン……へぇ?」


 平静を装うトリアスであるが、内心は驚愕に包まれている。手に取ったカップを取り落としそうになったほどだ。


「だから一度報告しようかと思ったけど、彼女、夜は眠っているんだ。ここ最近ずっと追いかけっこしてたしね。また今度来るよ」


「そうか……それはおめでとう。相変わらず自由だね」


 思うことが何もないわけではないが、トリアスは青年へと祝福を送る。これ以上の言葉は必要ない。一人で立派に成長した、忘れ形見の片割れへは。


「ところで、追いかけっこって何してたんだい?」


 故に、トリアスは話題を変える。


「ああ、砂漠でちょっとね。何故か(・・・)逃がしてはいけない気がしたんだ。結局一週間ほど経って根負けしたけどね」


「君が逃がしたのかい?」


「うん、手強かったよ。『百相』は」


「ン……」


「どうかした?」


 トリアスが言葉に詰まるのも無理はない。何故なら、その人物にソフィアの命が狙われたのは記憶に新しい。一生忘れることはないだろう。


「いやぁ……その場で殺してくれればよかったのに」


「何か手を出されたのかな?」


「ソフィアに、少し、ね」


「ふーん……」


 「少し」ではないことは、青年もすぐに分かった。だからこそ、あの時本能に従って『百相(ローゼン)』を潰さなかったことをほんの少しだけ後悔する。


「そもそも、君がこちらに居てくれればいろいろと助かるのだけど……」


「誤魔化すなよ。僕は『自由』だ」


 会話が途絶える。思いやりとプライドがぶつかった結果だ。しかし、両者とも決して険悪なわけではない。


「非情な勇気がないから、成り行きに任せたのかな?」


「さぁね」


 トリアスは自嘲を含むように薄く笑っていた。






「さて……」


 またまた場所は変わり、ここは『魔の森』。夜はもうすぐ明ける。


「よお、ジジイ。全部話してもらおうか」


 夜明けの方角を見つめるアーサーに、リュウゴが声をかける。


「てめぇらも居るんだろぉ?出てこいよ。黒幕候補サマの話を聞いていこうぜぇ?」


 リュウゴが促したのは、自分の背後に居る人物たちだ。内一人は人ではなく鳥なのだが。

 ガサガサと草を踏み分ける音がする。


「オラ、ツナギが起きてこねぇ内にさっさと吐け」


「まぁ聞いてはおきたいことだな」


 リュウゴにエルムが賛成する。黒幕とまではいかなくても裏事情には詳しいだろうアーサーに話を聞きたいのは同じだ。どれだけ仲が悪かろうが目的が同じならこの二人は手を組む。ロイデバンとの戦いでそれを証明している。


「てめえも被告人だぜ、焼き鳥ぃ?」


 バサバサと聞こえる翼の音は、それに対する言い訳を表さない。


「我は……」


「あー良い良い。唆したのはてめえだな、ジジイ」


 グレンの言葉を遮ってリュウゴがアーサーを問い詰める。リュウゴが自分の頭の中で思い描いているストーリーと、現実との剥離はそうない。今述べたことも真実に近い。故にアーサーは否定しない。


「……ツナギは、利用するのは気が引けるな」


 ポツリと呟く。


「わしのこの余生は、ロイデバンを止めるためにある。そのために使えるものは全て使う――――つもりじゃったんじゃがなぁ……」


「あーあー(ほだ)されちゃったわけね。クソつまんねぇ」


 アーサーの独白を、リュウゴは一笑に付す。思いやりはいらない。丁寧に取り繕った言葉で会話するぐらいなら、殴り合いの方がよっぽど生産的だ。


「どいつもこいつも中途半端な……」


 エルムはアーサーの在りかたを友と重ねる。引き金は引くが、困難を乗り越えるかは当人に任せる。その無責任さが葛藤の産物であることは知っているが、それはそうとして「バカだな」と思う。


「てめえらの企みはそれだけか?」


「ああ、『紅炎』をツナギに継承させる。受け入れなければそれでよかったが……」


「あいつが断るはずがねぇだろ。そのおかげで俺は地獄を見てきたわけだ。まぁいい体験だったよ、クソッタレども」


 熱で焼き尽くされる体験は何度も味わいたいものではない。リュウゴにとっては精神的なバフになり得るが、無い方が良いに決まっている。


野郎(ロイデバン)とは別件なんだな?」


「そうじゃな」


 今回の事件はいくつもの偶然が重なった結果、状況が複雑化した。

 『紅炎』の継承。

 ロイデバン及びリノ、ジーンの襲撃。

 そして、ルーン。


 ゴブリンの群れやソフィア暗殺未遂なども同時期に起こった事件だ。


「ま、ギスギスはこのくらいにしようぜ。文句ならツナギが言えばいい。知らないに越したことはねぇけどな」


 リュウゴが話を切り上げる。これ以上の討論は無駄だと悟ったのだ。


「我は、何があってもツナギの味方であると誓おう」


「へえ、おっかしいなぁ~?俺と立場は同じはずなんだが?」


 グレンの言葉に嘘はない。しかし他人を煽ることが大好きなリュウゴの口が再度回り出す。


「おい、ジジイ」


「……」


 エルムに声をかけられたアーサーは続く言葉を待つ。


「しばらく出る。ガキ共も好きにしていいだろ?」


「伝えるのはやめておけ」


 エルムは、ツナギが乗り越えられる(・・・・・・・)ことを確信している。だからこそ、その後の舞台を用意する。ただし、アーサーは「一年後」を伝えるのはやめるように言った。


「ん」


 リュウゴが、アーサーの視線に気付く。


「べー」


 返事は、突き出した舌と共に向けられた、立てられた中指であった。

 エピローグ(舞台裏的なやつ)です。あと一つで一章は終わりだよ。

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