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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第一章 繋ぎ紡ぐは継承の証
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エピローグ:ここにいるために

ルーン(とおまけでアーサーとモフ)のエピローグです。


◇ ルーン


「ハァ……ハァ……」


 辺りを緑に覆われた森の中で、ボクは地面と背中を合わせて倒れていた。


「あり……がと……ごじゃ……ました……」


 体力を消耗したボクは、荒い息を吐くのと同時に言葉を口にした。自分の心臓の音と、体中が疲労からの悲鳴を上げる音がよく聞こえる。


 そんなボクが両手に持っているのは、木製の短剣。そして倒れ込んだボクを上から見下ろすのは、おじいちゃん――――アーサーさんだ。


「よく頑張ったのう……今日はもうあがりなさい」


「ハァ……フゥ……うぃ」


 上がった息はまだ収まらない。まともな声にならない返事をしたボクは、目を閉じて背中で接する地面の大きさを感じていた。

 そうしている内に、遠くから近づいてくる足音が聞こえてきた。これは……モフだ。


「よっ……ととと」


 体をバネのようにして起き上がらせるも、足にきてる。ブルブルと震える足に悩まされながらもなんとか立ち上がったボクはモフがやって来る方向を向いて待つ。


「やぁやぁお疲れ、ルーンちゃん」


「モ~~フ~~!」


「おっと」


 飛び付くように突進したボクは、そのままモフに抱き上げられる。どこからどこまでが頭かはパッと見では分からないが、顔があるからそうであろう場所目掛けてジャンプした。


「フガフガ……離れて、ほら、お水飲んで。倒れられちゃ困るよ」


「わかった~」


 モフから手渡された水筒を片手に、ボクはその体をよじ登る。肩車のように座り、足を組んで体を固定したボクを尻目に、おじいちゃんが口を開く。


「そんなに元気ならまだやるか?」


「いえ、結構です」


 冗談じゃない。さすがにこれ以上は出来そうにない。体は限界だ。

 ボクは腕でバツをつくり、それをおじいちゃんに突きつける。


「……まぁ疲れてるのは本当(ホント)だよ。あと……」


 そう言いながら、ボクは自分が目覚めた時のことを思い出す。


 夢を見ていたかは覚えていない。それでも、目が覚めた時、ものすごくすんなりと出た言葉がある。


「『強くなりたい』っていうのも本当(ホント)


 どうしてこの結論に至っていたのか、その答えをボクは知っている。


「だってボクは……」



ドゴォォォーーーン!!


 ボクの言葉を遮って、遠くと言えば遠く――――でも森全体として見るととても近くで爆発音がした。少しして、モフがその原因を口にする。


「あ、そうそう。エルムが今朝起きたんだった」


 今の時刻は昼過ぎ。そろそろお腹も空いてきた頃合いだ。


「それでソフィアちゃんも特訓始めたらしいよ~」


「大丈夫?ソフィ姉死んでない?」


「エルムにだってちゃんと分別はあるよ……多分」


 明らかに地形を変えてそうな轟音を聞きながらモフと会話する。時折空が明るく光り、轟音が響く様は、まるでこの世の終わりのようだ。


 ところでこの世の終わりと言えば、ボクは真っ先にロイデバンが思い浮かぶ。記憶を無くしてからの僅かな人生経験において一番怖かったことと言えば、ツナギとリューゴ兄ちゃんが殺されそうになったことだろう。

 リノに裏切られたと感じた時は、心の奥底にある自分でもよく分からない部分がざわついた。対してあの時は、なぜ怖くて、それでもなぜ駆け出したのか、その答えが分かる。


 "ボク"がそこにいたからだ。以前のボクに影響されてではなく、今の"ボク"がその時やりたい――――やりたかったことをやった。


 あの時は怖くてたまらなかったが、今はその事を思い返してみても恐怖に支配されるということはない。むしろロイデバンに尊敬の念を向けてすらいる。それは、おじいちゃんに対しても同様に。


 だから起きてすぐに、ちょうど側にいたおじいちゃんに『強くなりたい』と言った。頭痛のこととか、自身が伴う痛みのことは頭から抜け落ちていた。いや、それらを踏まえてもなお、強くなりたかった。


 だってボクは……


「ここにいたいから」


「?」


 ボクの小さな呟きはモフには届かなかったようだ。首をかしげるモフの頭にもたれ掛かって体重を預ける。


「フフ♪」


 交差させた腕の上に顔を乗せ、ボクは口元をにやけさせる。


「ルーンや」


「ん?なぁにおじいちゃ……」


 目の前に木剣があった。そこから(・・・・)、それを投擲したという素振りを僅かに見せるも自然と立ったままのおじいちゃんの姿をイメージする(・・・・・・)。物の持つ情報が、直接ボクの視覚として認識される。


「ぐぇ」


 体を仰け反らせたボクは手に持ったままだった水筒を前に突き出す。その時に足でモフの首を絞めてしまっていたようだ。モフが苦しそうな声を上げる。

 それでもボクはお構い無しに動く。じゃないとボクが額を割られる!


「ぐぅ」


 くるくると回転して風を切りながら迫ってくる木剣の軌道上に、金属でできた水筒をねじ込む。一番硬いところがちょうど接触部になるように。


 少し鈍めの金属が響く音がして、右手に衝撃が伝わる。ひしゃげた水筒に対して、折れるどころかへこみの一つもついていない木剣は技術の賜物だろうか。投げたのに技術もくそもないかもしれないが、そう思ってしまうほどにすごいのがおじいちゃんだ。


「おっとっと」


「ッ――――あっぶなー」


 さすがはモフだね。無理な体勢にも関わらず倒れなかった。


「フム、油断が無くてよろしい」


「う~んそうだね~……リュウゴなら多分当たってたね。普段は油断と慢心を体現してるし」


「でもリューゴ兄ちゃんは強いけど……あぁだから普段って言ったんだ」


 それなら納得だ。なんというか、真面目な時の方が珍しいくらいだし。


「いやぁ~惜しい子を亡くしたね~」


「いやまだ死んでないでしょ」


 ツナギもリューゴ兄ちゃんも、もう二日も眠ったままだ。それでもご飯を食べさせると飲み込むし、寝返りも打っている。たまに顔色が悪いけど。


「さて、わしは用事があるからの。先に戻っておいてくれ」


「はーい」


 そういえばお腹が空いたな。今日のご飯は何だろう。






 森の中の日が届かない場所。そこに、アーサー・レイ・マノガストの姿があった。と言っても、やましいことをしているわけではない。

 静かなここでは、土を踏む音と時折聞こえる爆発音がよく響く。


 そんな所を歩いていたアーサーの前に、一匹の鳥が舞い降りてきた。その鳥――――正確には精霊であるそれがアーサーが掲げた指の先にとまり、消えた。

 精霊と言っても、これにはグレンのような知性はない。一瞬だけ淡く輝き、その後に一通の手紙を残して消えたのだ。

 アーサーはその手紙を開き、読む。


    私の娘を頼みます


    息子に会ったら息子もお願いします  

                      』


 簡潔なその文章は書き殴られたような筆跡で、これを書いた人物によほど余裕がなかったことも読み取れる。

 この手紙の本題は娘を頼むという一文。息子のくだりに追伸とつける暇すらなかったのだろう。宛名も差出人の名前もない。


「――――エイフォールめ……」


 それでも、アーサーはこの手紙を書いた人物の名を呟いた。


「いったい幾つ重なれば気が済むんだ……」


 一連の騒動と、それを裏で手を引く人物が何人いるか、表舞台に巻き込まれた者が何人いるか。


「歴史の動きが……また加速する、か」


 その呟きは、森の中に消えてなくなった。

 ルーンの一人称がボクになったのはだいたいモフのせい。三日くらいでいわゆる『自己の形成』というものをしたんですよこいつは。


 性格は割とドライが入っている。リュウゴと同じくらいに自分を客観的に見ることもできる。ただしそれでもまだ子供。

 弱肉強食が身に染みている(・・・・・・・)

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