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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第一章 繋ぎ紡ぐは継承の証
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憂鬱な旅路、休憩


「だあぁぁぁぁぁぁ!!キリがねえ!!」


 森の中であまり可愛くない悲鳴をあげながら逃げているのは、ツナギだ。後方にはゴブリンの群れ。


 なぜこうなったのか簡単に説明すると、無理やり突破しようとしたところを見つかった、といったところだ。これではさすがに簡単すぎるのでもう少しだけ補足すると、二人が見つけたのは進行方向を塞ぐゴブリンの集落。それが横に大きく広がっており、迂回するのも面倒だと強行を試みたのだ。

 日はすっかり落ちてしまっているも、ツナギとリュウゴが出発してからまだ1日も経っていない。だが、度重なる魔物の襲撃、襲撃、襲撃で、ツナギは気が立っていた。そして、リュウゴにある提案をする。


「おい、リュウゴ。もうこのまま走って森を抜けるぞ!やっぱり今日中に森を抜ける!」


『ん~?RTAコース?』


「それはもう二度とやらん!!!」


 RTAコース――――それはツナギの黒歴史の一つだ。RTA、すなわちリアルタイムアタック。つまるところ最速クリアだ。

 やることは単純。常に交代しながら(・・・・・・)全力で走り、馬車が出るのなら乗せてもらい、邪魔するものをなぎ倒す暇もなく駆け抜け、障害物を無視してほとんど直線距離を進む。当時『聖都』に着いた時にはまだ辺りが明るかった。

 それから数日は眠り続け、起きた時には空腹と筋肉痛と羞恥心に悶えたのはいい(悪い)記憶だ。どうしてリュウゴの口車に乗ってしまったのか、ツナギは過去の自分を呪う。あんなに疲れる思いは二度と御免なのだ。


 ゴブリンの群れはしっかり谷に落としておきました。






 夜もすっかり深まり、ようやく森を抜けたツナギは村を探していた。できれば野宿はしたくないという思いからだ。

 フラフラと幽鬼のような足取りで進むツナギは、遠くに灯りを見つけた。ようやく自分も休めると思いつつも、先に寝ているリュウゴのあん畜生のことは許していないのだ。あとで絶対にシメルと呟くも、いったい何度泣き寝入りしたことか。


 ブツブツとリュウゴへの呪詛を原動力としながら、ツナギはようやく村の前へたどり着いた。

 村ではかなりの人数が見張りにあたっていた。最近の魔物の活性化及び凶暴化への対策だろうか。とは言え、それはツナギにとってあまり関係はない。とにかくさっさと寝たいのだ。


 どうやら見張りの一人がツナギに気付いたようだ。続けて門番が問いを投げ掛ける。


「おい!止まれ!何者だ!」


「あ、宿開いてますか?なんなら馬小屋でもいいんですが」


 めちゃくちゃ同情された。






 翌日、村の騒がしさに目を覚ましたツナギは一瞬ここがどこかわからなかったが、直ぐに昨夜の親切な門番の家であることを思い出した。

 まだ多少の疲れはあるものの、ゆっくり休めたというのは、精神的に健全なのだ。まだ寝ているリュウゴはいっぺんくたばれ、と思う。


 ツナギがベッドから起き出したとほぼ同時に部屋のドアが開いて小さな女の子が入って来た。


「あ、起きたの?おはよう!」


 この子は、あの門番の娘だろうか。昨夜、娘が一人いるという話を聞いた覚えがある。そういえば名前を聞くのを忘れていたな、ということを思い出し、ツナギはまず自己紹介から始めることにした。


「おはよう。君のお父さんには助けられたよ。俺の名前はツナギだ。君は?」


「イルです!今パパを呼んできますね!」


「いや、自分から行くよ。ありがとう」


「わかりました!ついてきてください!」


 ずいぶんと元気で、利口な子だと思う。見た目から推測するとまだ5、6歳といったところだろうか。どこかのバカ(リュウゴ)よりはよっぽど大人だ。いや、バカが子供すぎるだけなのかも知れないが。


 イルの先導で、ツナギは家の中を歩いていく。質素ながらもきれいに掃除された家だ。親がいいのだろうか。こういう家で育つと、将来賢い子になるのかも知れない。


「パパ、ツナギさんが起きましたよ!」


 ツナギが案内されたのはダイニングルームだ。テーブルでは昨夜の門番とその奥さんらしき人が朝食をとっていた。こちらに気付いた門番は娘の顔を見て一瞬顔をほころばせるも、直ぐにツナギの方へと向き直った。


「おはよう、昨夜はよく眠れたかい?」


「はい、おかげさまで。本当にありがとうございました。」


「いいんだよ。困った時はお互い様だ」


 ツナギは一家と共に朝食をいただくことになった。門番の名前はスピルクという。奥さんはエマだ。この家族はどうやら底なしの善人らしい。何かあったら「困った時はお互い様」で片付けてしまえるほどに。


「それじゃあツナギ君は『魔の森』を抜けて来たのかい!?」


「はい、そうです」


「じゃあじゃあ、冒険のお話!聞かせてください!」


「うーん……子どもには少し血なまぐさすぎるかな……」


「ほら、イル。またお口に付いてるわよ」


「むー……」


 愉快な会話だ。つい昨日まで森で魔物たちと夜通しで追いかけっこしていたのが嘘のようだ。


 会話の中に『魔の森』という単語が出てきたが、これはツナギたちの住んでいる森、ベンマトル大森林の一般的な呼び方だ。ここに住まう魔物はとても凶暴で、『旅人の墓場』とも言われることもある。もっとも、幼い頃から住んでいるツナギにとってはもはや庭同然なのだが。


「『聖都』へ行くんです。『聖誕祭』に参加しに」


「そうか……だったら早い方がいい。おっちゃんが今日の昼には村を出るって言ってたよ」


「おっちゃん……?」


「『聖都』行きの馬車だよ。おっちゃんは商売人なんだ」


「ではお言葉に甘えて」


 今日の昼に馬車が出る。最悪徒歩を想定していたツナギにとって、その知らせは実にありがたいものだった。

 一時はどうなることかと思ったが、無事に着けそうだ。


 森ではずっと逃げ回っていたのでまともな食事をとれていなかったツナギは、噛み締めるように朝食を食べた。


 バカ(リュウゴ)はまだ起きない。

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