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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第一章 繋ぎ紡ぐは継承の証
58/89

紅蓮の業火よ、世界を彩れ

 あとがきに書いたら余韻をぶち壊すことになるからここに書いておくぜ!

 次回決着と言ったな。あれは嘘だ。

 今話に収まりきらなかったぜ。だから、今言う。


 次回、決着。


済(2022.10.26)


◇ リュウゴ


 ロイデバンの放った黒武器、それを迎撃すること早二十本ほど。大半は避け、どうしても当たってしまうものだけを叩き落としているのだ。


 そんな状況に、転機が訪れる。


「ッ!」


 上空からの圧力が俺たちを押さえつける。膝をつき、地面に縫い止められたか、または重力が増したか、はたまたそれら以外か。俺は思考を巡らせる。


 手足が磁石のように地面に引き寄せられるわけでもない。重力に【叛逆】してもさほど影響はない。

 そしてそもそも、これはロイデバンの攻撃ではない。これは――――


『エルムか!?』


「あんのクソガキャア……!」


 地面に這いつくばりながら怨念を込めてエルムに怒りをぶつける。


 直後、今度は上昇気流により空高く舞い上げられた。これから起こることは何となく分かる。だからこそ、空気抵抗には【叛逆】しないでおく。

 それと同時に、おそらくグレンが引き起こしたであろう、『紅炎』の出力が上がった。灰色の空を紅く染め上げ、熱気がここまで届いている。


「んなことより……」


 俺たちは現在空中にいる。しかしそれも永遠ではない。いずれ落下してしまうだろう。

 視界の端ではちらほらと碧色の風が見える。それが俺たちを上空に運び、黒武器を一ヵ所に集めている。黒武器に関しては、その碧色の風が一部を砕き、もしくは黒武器同士がぶつかり合い、対消滅している。


『グレン……エルム……』


 眼下ではエルムがロイデバンに向けて魔術を放ち、その後、グレンが『紅炎』を放った。しかしロイデバンがそれを割り、『紅炎』はあいつらの周囲を円周状に囲む。それでもなお、『紅炎』は高く燃えていた。


「ツナギィ……あれに突っ込む覚悟はいいか?」


 俺はツナギにそう告げる。眼前には炎の壁。そう形容するしかない状況が、そこにあった。


『ああ。一瞬だけ見えた。でも……まだあいつは死なない』


 そう、ロイデバンがこの程度で死んでくれるはずがない。故に、最後の切り札として、俺たちもあそこに向かう。


「【アンチグラビティ】」


 足元には、おあつらえ向きの足場がある。どうかこの上を渡ってくださいと言わんばかりの、風と黒武器による足場だ。もっとも、それももう長くは持たない。今この瞬間にも、足場は一つ一つ消えて行く。

 俺はボロボロとなった刀を放り捨て、にやける。


「いい仕事するじゃねぇか」


 俺はそれらの上を飛び移りながら移動する。エルムに余裕がなくなったからか、ブレて揺れる足場をしっかりと蹴って、俺は前ヘ進む。

 足場が動く点は不満だが、まあ許容範囲内だ。それなりにはいい接待だ。


 無重力状態での移動――――特に飛び移りのコツは、直線的な軌道で、そして速く。だから炎の壁へと到達するのに時間はそうかからない。


「ハッ……行け」


 このまま俺が炎の壁に突っ込むと丸焼けになってしまうだろう。いや、中々にファンタジーな炎なので大丈夫かもしれないが。

 ……多分大丈夫だけど怖いものは怖い。故に、ツナギと代わる。


 俺が最後の足場を踏み込んだのと同時に、ツナギもまた、己の役割を果たすべく動き出す。


「【エンチャント】ォ!!」


 誰かが、トンと背中を押してくれた気がした。






 どういうわけか、『紅炎』の熱さをツナギは感じないらしい。あと、明らかに触れているのに体が燃えることはない。

 そしてこれは、俺が表に出ている(・・・・・・・・)時にも有効だ(・・・・・・)


 結論として、

 ツナギ、燃えない。

 体、燃えない。

 (リュウゴ)、熱さは感じる。


 ツナギ自身にも許容量はありそうだが、俺だけが明白なデメリットを背負わされている。と言っても、精神的苦痛なだけだ。多分異物だからだろう。魂が二つとか神サマは想定していない。

 つまり――――


(死ぬほどクソ痛えだけだ。死ぬわけじゃない)


 つまり、そういうことだ。

 俺はツナギの枷にはならない。なってはならない。


 今この瞬間も、体の温度は上がり続けているのだろう。ツナギが『紅炎』を使うと熱がこもる。

 そして、俺が再び表に出た時にはそれらをモロに食らうのだろう。周囲で燃えている『紅炎』を文字通り肌で感じて。



 だが俺は、それに関して「嫌だなぁ」とは思うが、躊躇うことはない。


 だってそんな思考は、狂気の中に埋もれてしまうだろうから。


 俺の中には優先事項がある。第一に、俺の『行動原理』。そのためならば、俺は俺の犠牲を厭わない。



 こんなこと、ツナギには言えないなぁ……

 あいつ絶対躊躇うから。





◇ ツナギ


「【エンチャント】ォ!!」


 炎の壁を突き抜け、俺たちはその中へと入る。右手の剣はグレンの展開した『紅炎』に触れ、それを剣身に纏う。みるみる内に紅く染まる刃がその熱に耐えきれなくなるまでそう時間はかからないだろう。


「ヌウゥゥッ!!」


 グレンがさらに『紅炎』の出力を上げる。周囲の温度がまた一段と増す。



 ただ、刃に炎を乗せるだけでは駄目だ。この周囲に広がる炎全て(・・)を、内包させる。


 折れた剣を天に掲げ、グレンの『紅炎』を剣に込める。モノクロの空を照らしていた紅がなくなり、されど希望が失われたわけではない。


「アアアァァァーーー!!」


 上空からロイデバンを見下ろす俺は、落下の勢いそのままに強襲する。紅く燃える剣を構えて。剣の軌跡が紅く紅く炎上している。

 俺の炎(・・・)は、まだ燃やしていない。


「クッハッハッ!!来い!!」


 ロイデバンが血を吐きながら俺を迎え撃とうとする。それを察したエルムも動く。


 ロイデバンに刺さったままの風の刃から致命傷を作り出そうとするも失敗。体内で妨害される。


「邪魔をするな『無限』っ!」


「そうかい、そう言われるとグチャグチャにしたくなる……!」


 ロイデバンが俺たちに向けた黒武器――――触れたものを破壊する結界が幾つも、フラフラのエルムに迫る。さらに背後からは槍のように突き出してきたそれらが。

 もはや逃げ場はないほどの密度だが、それを横目で見ていた俺はさして気にしない。

 なぜなら――――


「【掌握】……《碧風》……」


 エルムは強い。

 遠くてうまく聞き取れなかったが、何か魔術を唱えたのだろう。


「ッ!」


 直後、ロイデバンの体にさらに傷が刻まれる。碧の風が吹き抜け、俺の背後に回って背中を押してくれる。

 エルムの周りには寸前で止まった黒い結界があり、それが端から崩れ落ちて行く。



 そして俺も、もうロイデバンの目の前だ。


「【エンチャント――――」


 渾身の一撃で以て、ロイデバンを屠る。

 俺は自身の『紅炎』も燃やしながら縦に一閃を振り切る。

 グレンの『紅炎』もさらに燃え上がり、剣は表面が熔けてきた。それでもなお、俺は止まらない。


 それを左腕で受け止めたロイデバンから血が吹き出る。骨を切断するまでは行かずとも、肉を斬るのには十分であったようだ。吹き出た血は『紅炎』の熱ですぐに蒸発した。


 だが、これでもまだ足りない。


「――――:紅炎――――」


「【補完世界――――深層】」


 俺がエルムを風で比較的安全に着地したと同時に、モノクロの世界はそのまま、その中でも黒の割合が強くなる。そして、ロイデバンと俺の間に壁が出現し、俺の行く手を阻む。


 邪魔だ。

 邪魔だ。

 邪魔するな。


 邪魔なら、斬り伏せればいい。


「――――”業火(ごうか)”】!!」


 俺は自身の『紅炎』の熱をさらに上げる。

 燃える剣を今度は横に振るう。その軌跡には大気すら焼き尽くす『紅炎』と、熔けた剣の雫が残る。


 そしてロイデバンの【結界】に正面からぶつかり――――


『さあ、行くぞ……【残滓(レミナント)】!』


 ここからが本番だ。



 剣が【結界】にぶつかった瞬間、『紅炎』と【残滓(レミナント)】が、それぞれコマ送りのように爆増する。


 俺たちはお互いに全力で以て、剣を振るう。


「カッフッ……ヒャッ」


 渇いた笑いが口から出る。断続的に味わう熱という名の痛みによって意識が刈り取られそうになる。覚悟してはいても、実際に味わうのはやはり違うな。



 音は聞こえなかった。目の前のことだけに集中していたからかもしれない。


 とにかく、俺は『紅炎』の出力をさらに上げる。一度限界まで上げてから、後で制御をし直せばいい。実際、ロイデバンへの初撃はそうやって繰り出した。


 踏み込んだ足からは悲鳴が聞こえる。体の限界も近い。無理矢理に運動能力を上げたのだ。その反動が返ってくる。

 どのみち、決着は近い。



「『ガアァァァァァァァァーーー!!」』


 俺たちは、叫ぶ。

 最初は片手で振るった剣だったが、左手でもしっかり握り、全ての力を斬ることだけに集中させる。


 そして――――結界にヒビが入った。



(このまま振り切る!)


 拮抗は、時間にすると一秒にも満たないものだったかもしれない。しかしこの瞬間は、とても長く感じた。


 熔けた剣の雫が頬に触れ、耳の近いところで俺の肉の焼ける音が聞こえる。その痛みに顔を歪めつつ、込める力は一切緩めない。


 結界のヒビが、空中にも広がる。



 そして、結界が割れた。そのヒビは空中まで広がり、モノクロの世界が剥がれ落ちるように壊れて行く。


 割れた『世界』の向こう側には、青空が見えていた。


(ここだっ!)


 その様子を見ていたエルムは、最後の力を振り絞る。と言っても、自身の過半数(・・・)を割いて行っていた解析が、光明を見出だしたのだ。

 エルムは、割れた『世界』をそこから抉じ開ける。



 一方、ツナギとリュウゴの剣は、二枚目の結界に阻まれていた。



 一枚目の結界は割った。そしたら二枚目が出てきた。クソッタレ。

 だが、ここで、そんなことで諦めるわけがないだろう?


『いいこと教えてやるよ』


「確率が小数点の彼方にぶっ飛んでいようがなぁ……」


『無限回繰り返しゃあ……』


 表に出るのと裏に戻るのと――――。

 断続的に、『紅炎』が勢いづく際にはツナギが、【残滓(レミナント)】が勢いを増す際には俺が、それぞれ表の人格となる。

 口を動かして喋る声と、ペンダントを介して声を出すのとが交互に繰り返される。


「可能性は無限大なんだよ!!」


 【残滓(レミナント)】は、ある程度ならば自発的に増やせる。そもそもがロスを無駄なく使うというコンセプトなので、自らその無駄(・・)を増やせばいい。感覚としては、命を削っている気分になる。それでも、躊躇いはしない。


 【残滓(レミナント)】がさらに爆発的に増加する。

 そして俺たちは二枚目の結界を割り、さらには三枚目、四枚目と結界を割る。

 後はロイデバンだけ。



 そして遮るものは何もない。

 ――――そのはずだった。



 ロイデバンは、歓喜していた。

 自身が追い込まれていることに。いや、正確に言うのなら、血湧き肉踊る戦いそのものに歓喜していた。


 だからこそ、ロイデバンのもう一つの力――――それを、大々的に使おうと決めた。



「燃えろ――――『黒炎(こくえん)』」


 ロイデバンの左胸から肩にかけて刻まれた痣が蠢く。痣は広がり、首筋や左腕、心臓付近にまでその()を広げる。


 紅く燃え、白く光る剣を、真っ黒な炎が包み込む。『紅炎』も、【残滓(レミナント)】も、それに触れた傍から焼き付くされるのを感じた。


 そして黒い炎はツナギとリュウゴをも呑み込まんとする。



 これに触れても死ぬことはない。ただし、ある意味では死よりも恐ろしいことになる。


 そう本能の部分で分かるのは、俺が『紅炎』を継承したからだろうか。ロイデバンが呟いた『黒炎』とは、おそらく『紅炎』と同じものなのだろう。



 剣とロイデバンとの間に黒い炎が出現した。それだけで、形勢が逆転したかのように思えてしまう。

 しかし――――


「”紅蓮”!!」


 『黒炎』に対抗するかのように、グレンが『紅炎』をぶつける。『黒炎』の勢いが弱まった気がした。


「ようやっと……掴んだぞ……!てめえの『世界』!」


 気付けば、空は蒼色に覆われていた。さっきまでのモノクロではない。パリパリと剥がれた傍から、陽光が差し込んでくる。そしてその何条もの光が、俺の顔を照らして奮い立たせる。


「行け!」


 グレンがそう鼓舞してくれる。


「何回だって捩じ伏せてやるよ……」


 リュウゴが、後は俺に託してくれる。ありったけの【残滓(レミナント)】を残して。


 グレンが押さえつけてなお、『黒炎』は徐々に拡大していく。それでも確実に、グレンは規模拡大の足枷となってくれている。



 一瞬だけ、躊躇した。

 それは、この後のこと。取り返しのつくギリギリは、今、ここが瀬戸際だということ。

 最悪は、俺だけではなくリュウゴも燃え尽きてしまうこと。

 それは――――多分、今一番怖いことだ。

 だから、今のまま――――


『後のことは後考えろ!今はただ!ぶちかませ!!』


 いつだってリュウゴは、俺のすることを全力で肯定してくれる。

 もう、迷いはなかった。


 俺はお前(ロイデバン)を殺す。

 メチャクチャに。残酷に。

 それだけを、そのためだけの――――。


 俺はもて得る限りの憎悪を、嫌悪を、怒りを、――――想いをこの一撃に込める。


 覆い被さってくる『黒炎』が、俺の『紅炎』に焼き付くされる。『紅炎』自体も焼き返されるが、こっちの方が火力は高い。


『好きにやれ!自由に!世界を彩れ!』


 今は、ただ、全力で。

 現実は後から(・・・・・・)付いてくる(・・・・・)


「ガアアアァァァーーー!!」


 俺は剣を振り抜き、ロイデバンの体に俺たちが与えた中で一番の傷が刻まれ、血が舞う。噴き出す。


 しかしその血もすぐに、俺の『怒り』で蒸発した。






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