我らの命よ燃えろ、燃やせ
今作主人公二人と前作主人公と相棒枠
VS
ラスボス
の死闘です。お納めください。(なお一章)
え?本当に一章でいいんですか?はい………はい、はい。分かりました。問題ないそうです。
◇ ツナギ
「オラオラ行くぜぇーーー!!」
ロイデバンに向かってリュウゴが駆ける。こちらに向けられた攻性の結界を、時に身を屈め、時に剣で弾き、時にエルムに助けられてやり過ごす。そうして近づけば、後は接近戦だ。
「ァラァ!!」
リュウゴが右手の燃える剣をロイデバンの首目掛けて振るう。
ロイデバンはその軌道に腕を差し込み、手首辺りに結界を展開して受け止めた。
「その程度では俺には届かんぞ」
「てめえこそ勘違いしてねぇか?――――俺ァ一人じゃねぇんだよ」
そして、俺はリュウゴと入れ替わる。身長差の問題で宙に浮いていた足を地面に着け、大地を踏みしめて力を込める。
もちろん、『紅炎』を燃やすのも忘れずに。
「アアァァーーー!!」
炎の勢いが増した剣が、ロイデバンの結界を引き裂いて手首に傷を作る。そこからは血が垂れている。
それでも、ロイデバンは笑っていた。まだここからだ、と言うように。いや――――
「やっと……ここからだ!」
念願の遊び相手が見つかったように。
「【破界】」
先ほどまでの透明な結界とは違い、黒い結界が俺たちに迫る。これはおそらく【結界】と【破界】の合わせ技。つまり、ただの物理的な攻撃である【結界】と比べて、当たるとさらにヤバい。
「【アンチイナーシャ】」
即座に体の主導権を入れ替えた俺たちは、距離をとろうと動きだす。リュウゴが慣性に【叛逆】し、細かな激しい動きで大地を駆ける。なんでも、体がラグなしで動くのだそうだ。
「前も後ろも、気を付けろ」
ロイデバンが指摘した通り、次の瞬間に前方からも黒い結界が迫ってくる。わざわざ言わなくてもよかっただろうに、ロイデバンはこの戦いが心底楽しいようだ。ヘドが出る。
モノクロの世界の中、黒い靄を中に詰めたような結界が四方八方から迫る。前後だけではなく、左右、そして上下からも。
「剣ぶつけたら折れるよな?」
『ああ』
リュウゴが話すのは、右手に持った折れた燃える剣についてだ。ロイデバンが最初に【破界】を展開した際に、先の部分を折られた剣だ。今は鋒がなくなり剣身が長方形の形をしていて不恰好な見た目となっている。
「【刑黒戦舞】」
ロイデバンがそう呟いた途端、剣の、槍の、斧の――――武器の形を型どり始めた結界が、勢いをつけて飛んできた。そのどれもが俺たちへと刃を向けており、球状に俺たちを取り巻く。
「チッ、もう四の五の言ってられねぇ……【残滓】!」
数本をかわしたリュウゴであったが、これ以上はジリ貧だと感じたのか、消耗度外視で黒武器を迎え撃つ。
左手に持った刀が白い奔流を纏い、ちょうどこちらに刃を向けて迫る剣を真正面から突き返す。
「割れろ」
リュウゴがそう呟いた瞬間、黒武器に亀裂が入り、霧散した。リュウゴはそのままとどまることなく自身へと迫る黒武器を刀で薙ぎ払い、そのどれもがまた、ひび割れ霧散した。しかし、刀もそう遠くない内に折れてしまうことだろう。
「ビンゴ……ッ!」
何かを確信したようにリュウゴがそう呟いた。
それでも尚、黒武器の数は減らない。打ち漏らしたものが足元に刺さり、そのまま地面に沈んで行く。服の端にかすったものは衣服を削り取り、穴を空ける。
『後ろ!二本!』
リュウゴの背後から迫る黒武器に、俺が警告を出す。リュウゴはそれを見ずに刀を振るい、叩き落とした。今のでまた刃こぼれが目立つようになった。
「クソエルムーー!!さっさと手ぇ貸せェーー!!」
◇
その様子を見ていたロイデバンはさらに高揚する。そしてその場に殴り込もうとするも、数歩踏み出したところで足を止める。
「邪魔をするなよ。鳥風情が……っ」
眼前に広がるのは、紅い炎。地面に燃え移り、高くそびえ立つ。
「風情などと言ってくれるな。同類よ」
その言葉を聞いたロイデバンが歯を見せて笑う。彼の左胸から肩にかけて見える黒い痣が、少し蠢いた気がした。
「『紅』の炎を継ぐものよ。小僧と合わせて一人前か?」
ロイデバンがグレンに問う。その質問は当たっていると言えるのかもしれない。そもそも『紅炎』はグレンとツナギで半分ずつ所持している。足して1とも取ることが出来る。しかし――――
「否」
グレンは否定した。
「この焔は他と毛色が違う。知りはしていないようだな」
「フゥン」
グレンがロイデバンに思わせ振りな答えを告げる。ロイデバンも完全には理解していないが、その本質を察することは出来る。自身も似たようなものを抱えているから。
『紅炎』は、0でも1でも10にでもなれる。全ては使い手の怒り次第。
「さて、数十年ぶりの心踊る闘争だ。邪魔をするなら……消す」
「出来るものならやってみるがいい」
グレンはそう不敵な言葉を口にするが、余裕があるわけではない。むしろ切羽詰まっていると言った方が正しい。グレン単体でロイデバンに勝てると思うほど自惚れてはいない。しかし、それを表には出さない。
「『紅炎』――――”紅蓮”」
ロイデバンの目の前に広がる『紅炎』の雰囲気が変わる。まるで絵のタッチが変わったような荒々しさを見せ、グレンを中心に渦巻いている。
「俺の前に立ち塞がるか。貴様とも楽しめそうだ!ほんの一瞬!」
覇気を上げるグレンに対して、ロイデバンが敵と認めたのだ。今のロイデバンには眼前のグレンしか見えていない。
しかし、今この場には動ける者があと二人いる。
「吹き抜けろ」
戦域に横向きの強風が吹く。その内の一人――――エルムの放った魔術がロイデバンへと迫る。
「【幻界】」
ロイデバンはそれに振り向かず、自らの【アーク】でやり過ごそうと考えた。しかし――――
「ッ!」
ロイデバンの体に無数の裂傷が出来る。風の刃が肉を裂き、血が吹き出す。それでも両断といかないあたり、ロイデバンの肉体そのものの強度は段違いだ。地面には鋭利な傷跡が深く残っている。
「ご丁寧に出しっぱにしてくれてたんでなぁ……それじゃあ自由に【掌握】してくださいって言ってるようなもんだろぉ!?」
それを引き起こしたエルムがあまり余裕がなさそうな声で説明をする。先ほどのロイデバンの【アーク】の不発は自分が引き起こしたものである、と。
現在エルムは頭を抱えており、時折する頭痛に耐えながら魔術を行使しているのだ。
「ガキどもは別として俺をこの『世界』に引き込んだのは間違いだったなぁ!やりたい放題じゃねえかッ!」
エルムにとって今の状況は、裏事情見放題なのだ。優れた眼と、それを処理する脳があればどこまででも覗ける。
「もうやりたくなかったのによぉ……仕方ねぇよなぁ!もっかい寄越せッ!」
エルムが視たのは、深淵。ロイデバンが展開した『世界』の根幹を成す部分だ。
エルムがこの少し前に視た黒い世界とは圧倒的に格が違う。それでも自身も呑まれかねない領域に踏み込んだのは、ひとえに「ただ、気に入らないから」。
「つーわけで……死ね」
大きく目を見開き、エルムが魔術を繰り出す。
ただ光を纏っているだけではない。この淡い碧の光にも、きちんと意味がある。
「《碧風》」
瞬間、大気が脈動した。
もしも空気に色があったなら、このモノクロの『世界』全体をその色で埋め尽くしていたことだろう。しかし実際にはそうではなく、薄く碧のラインが見えるだけだ。
「『無限』ッ!!」
自身へと迫る風を前にして、ロイデバンの感情は称賛一色であった。
【補完世界】と言う名の一種の檻。そこでは個人の引き起こす現象は著しく制限される。
しかし、手札が限られた中でエルムたちは各々の出来ることを押し通し、現在ロイデバンは追い詰められている。
(ああ、いつぶりだ……?こんな奴らを見るのは……)
ロイデバンの脳裏に親友と、戦友と、悪友と、――――自身に強烈な衝撃を与えた人物達の姿が浮かぶ。
「燃えろ、紅炎!」
グレンを中心に渦巻いていた『紅炎』がロイデバンに向けられた。
碧色をした風の刃と、紅い炎が自身へと迫ってくるのを見てなお、ロイデバンは笑う。もう本当に、久しぶりに本気を出せるかもしれないのだ。
(ククッ……!これは……!)
自身が死ぬかもしれないほどの。
まず、風の刃が一番最初に届く。ロイデバンはそれを指先に集中させた【結界】で受け流す。一点に集中して、エルムからの妨害の影響を最小限にする。半身になって弾くも、胸や顔には裂傷が増える。
次は『紅炎』が迫る。モノクロの空が全て紅く染まり、ロイデバンはそれを見ていた。今度は両手を前に突きだし、それを受け止める。
(燃えろ……)
黒くなった手の先が熱く感じる。必要以上の力は使わない。この期に及んでもまだ、ロイデバンは楽しむことを最優先としている。
黒い閃光が光り、『紅炎』が割れた。周囲に円形に広がって、渦巻きながら天高く昇る。炎の壁に包まれたようだ。
その中でロイデバンが叫ぶ。
「ハハハ……もう、終わりかぁッ!!」
「まぁだだッ!!ボケナスッ!」
エルムが鼻血を滴しながら叫び返した。
《碧風》は風の刃だけではない。もっと言えば、そもそも魔術ではない。エルムの持つ力の一つと言うのが一番いいだろう。
エルムは左の握り拳に力を入れ、ロイデバンの周りの空気を操る。
「《碧風》――――”風刃”!!」
何でもない空間が碧色の風となり、刃を型どり、ロイデバンの体を貫いた。エルムは内臓を狙ったのだが、それはロイデバンに防がれた。しかし幾つかは確実に届いている。
体から碧の刃を生やしたロイデバンが、ふと空を見上げる。そこには何もなく、いや、『紅炎』が一部吸い取られているように見える。
「【エンチャント】ォ!!」
壁となった『紅炎』を突き破って、少年が上空から落ちてくる。その穴はすぐに塞がるも、少年の持つ剣から燃える炎と繋がり、渦巻く。
視線の先には、真っ赤に燃える少年が。
次回、決着。
こいつら実はまだまだ上がある。だからこれが一章でも問題ない……はず。




