紅蓮の炎よ燃えろさらに
済(2022.10.26)
◇ ツナギ
「【エンチャント:ウィンド】」
俺はそう唱えるも、何も起こらない。エルムには使える魔術が、俺には使えないのだ。
「気にすんな。俺が特殊なだけだ」
「分かった。俺も自分に出来ることをやる」
エルムの励ましを聞きながら、俺はペンダントから剣を取り出す。二本の剣を構え、その両方に『紅炎』を纏わせる。銀色の刃が熱せられて紅く染まっていく。
「【エンチャント:紅炎】」
モノクロの世界に紅が映え、それと呼応するように俺の体温も上がっていく。
『準備は……いいな?』
「もう、とっくに」
俺は一歩踏み出し、戦闘は再度開始する。二本の剣を携えた俺が、ロイデバンに迫る。ロイデバンのその表情は、笑っていた。
「これ以上、言葉は要らんだろう!?【結界】!」
ロイデバンが前方に壁を展開した。俺の右手の折れた剣がそれと激突する。
『言葉が要らねえとはつれねぇじゃねえか!こっちは言いたいことが山ほどあんのによぉ!?』
「クククッ、まずはこの俺を超えて見せろぉ!!」
「ッラァァァーーー!!」
リュウゴとロイデバンの会話を余所に、俺は二本目の剣を突き立てる。接触部が僅かに歪み、少しずつその壁を抉じ開けているように感じる。
どうやら以前よりも強度が増しているようだ。このモノクロの世界では、外の世界と比べてロイデバンの【アーク】の力が強くなっている。これ程の力を加えると破れた壁が、未だに俺を阻んでいる。
奴が強くなったのならどうすればいいか。答えは簡単だ。
俺も強くなればいい。
「もっとっ!燃えろ!紅炎!!」
俺は感情を昂らせ、炎の出力を上げる。『紅炎』の勢いが増し、俺の剣二本が目の前の壁を斬り裂いた。
しかし、左手に持った剣――――先ほど取り出した剣の剣身が、熔けてなくなった。高温に耐えきれなかったのだ。俺とロイデバンとの間で、液体となった鋼が揺れる。
「自身を顧みぬ一閃……だが、まだまだ未熟!」
ロイデバンの前に、黒い力場が発生した。
「【破界】」
それが液体となった鋼に触れ、細かく分解する。その雫の一部がロイデバンにかかるも、気にした様子はない。
ともあれ、当たると死ぬ。そんな攻撃が俺へと迫る。今の俺は両腕を前へ出し、体は宙に浮いたままだ。避けることの出来るような体勢ではなく――――
風が、俺の体を後方へと飛ばした。
「助かった!エルム」
俺はそれを為した人物に感謝を告げる。現在ロイデバンの前に立つエルムは淡い碧の光を纏い、突風や竜巻を引き起こしながら戦っている。
その風が吹き抜けた跡には色が戻るが、すぐに褪せてしまう。しかし、その軌跡がよりいっそう幻想的な雰囲気を演出する。
『ツナギ、代われ。俺にもやらせろ。んでお前はちょっと抑えてろ』
リュウゴに言われ、気付く。俺の体の一部では『紅炎』が揺れながら燃えている。体にこもった熱も相当なものだ。リュウゴはそんな俺を心配したのかもしれない。
俺は『炎』の言葉を思い出す。試練の際、言われたことだ。
――――度が過ぎれば、お前の身は炎に灼かれるぞ。
それは忠告。二人で一つの体を共有する俺たちにとって、俺の死はリュウゴの死にも直結するかもしれない。そもそも、体が朽ち果てれば元も子もない。だから――――
『おい、お前くっだらねぇこと考えてんだろ』
リュウゴがつまらなさそうな声音で俺に声をかける。
『俺が死ぬとか思ってる顔だぜ?』
ああ、何もかもお見通しというわけか。リュウゴは時々勘が鋭い。
『何回も言ってんだろ?俺は死なねえんだよ。つまり、お前も死なねえ。分かったら、もうビビんな』
「うるせえ脳筋」
『んだとゴラァ』
リュウゴが俺を正面から見据えてそう言った。
気にする必要はなかった。リュウゴは、俺のすることを全力で肯定してくれる。
「ま、ありがとう。相棒」
リュウゴは少し驚いた表情をしていた。俺が素直に感謝を述べたのが意外だったのだろうか。
『フン、任せろ。つっても……お前も要所で顔出せよ』
そして俺たちは体の主導権を入れ換える。
◇ リュウゴ
ウチのツナギ坊っちゃんがおセンチになってるようだったので少し声をかけた。
先ほどから軽口は叩くも、目は笑っていなかった。ずっと眉間に皺を寄せ、ロイデバンを睨んでいた。
そもそも気にする必要は本当にないのだ。
この体の熱をツナギがどう思っているのかは知らないが――――
ただ死ぬほどクソ熱いだけだ。
死なないなら問題は何もない。むしろいい気付けになる。
「ちょこまかとぉ!」
「ノロマがぁ!」
ロイデバンの周りを、宙に浮いたエルムが飛び回る。それと同時に罵声も飛び交う。さっきからここまで届く風から察するに、それで動力やら体勢維持やらを補っているのだろう。
「ッシャ、行くか」
そこに俺も混ざるとする。ペンダントからもう一本の剣を取り出し、熔けた剣の柄を投げ捨て、代わりにそれを持つ。
ペンダントの中に入れている剣はこれで最後だ。リノ戦で大盤振る舞いしたことを少し後悔するが、すぐにその考えを捨てる。
「問題ないか?」
「よお焼き鳥ぃ……期待してるぜ?」
走る俺にグレンが追従する。右手は燃える剣を、左手に鈍く銀色に光る刀を持ち、背後に波紋を広げながら進む。波紋はパリパリと音を立てながら広がっていく。その音を聞きながら、俺は勝ち筋を立てる。
「ヒャァァッ、ハーーッ!俺も混ぜてくれよ!」
エルムの放つ風の刃を掻い潜りながら、俺は二人の間に飛び込む。ロイデバンの展開した壁に左手の剣を突き刺しながら、俺はそう言い放った。
「小僧っ!白い方だな!」
俺とツナギを見分けているらしいロイデバンがそう言う。特に言っていないとはいえ、お互いこれだけ素をさらけ出していたら気付くものなのだろう。「あ、なんか違うな」、と。
俺の【叛逆】は、俺の体にしか作用しない。以前にも述べたかもしれないが、すなわち剣は物理法則に囚われたままだということだ。
「ハッハッハァー!」
あぁ、いいなぁ……。いい感じに狂ってきたぁ……
「ブチのめす!」
俺は両手の剣を振るう。外界からの一切の影響を受けない――――【アーク】によって擬似的な無重力状態となった俺は剣に振り回されるが、それは逆で、俺こそがこの剣の支配者である。
「ヒャッヒャッ」
動き一つ一つを流動的に繋げ、最も効率のいいDPSを導き出す。視界は常に一定ではあらず上下左右がグチャグチャになるが、それすら俺の狂気を加速させる材料になる。
このテンションの赴くままに、熱が冷めないように、俺はさらにブーストをかける。
「【残滓……」
「【結界】」
突き刺した剣に力を込めようとした瞬間、目の前の壁が弾けた。そして、一度消えた壁が再展開された。
眼前に。ただし、鋭く、こちらに向けて。
「ッ!」
俺は即座に慣性に【叛逆】。限界にはすでに【叛逆】している。持てうる手段の中で、最速でここを離脱する。狂気が少し冷めるのを感じる。
「んにゃろ……」
それはエルムの方も同じだったようだ。ローブに穴が空き、そこに棘のようなものが刺さっている。
(ま、出来るわなぁ……)
つまり、ロイデバンは【結界】を攻撃に転用させたのだ。丈夫な壁を自由に張れるなら、その形はどうだろう。かくしてロイデバンは、鋭く尖った【結界】をこちらに向けてきたのだ。
だが――――
「当たりゃ死ぬのは変わらねぇ。数が増えただけだ」
難易度が上がっただけだ。
グレンが放った『紅炎』を掻き分けてロイデバンが現れる。
「あれを避けるか。さすがはアーサーが集めた――――」
「ジジイは関係ないぞ。てめえがやらかしてるから俺たちは憎んでんだよ」
エルムがロイデバンの言葉を訂正する。一瞬だけ違うかもとは思ったが、全くその通りだった。そう考えればすごい確率なのかもしれない。因縁と言うやつは因果律さえねじ曲げるものなのだろうか。
「フン、その通りだな。無粋だった。では――――その何者でもないお前たちが俺を越えられるか、見せてみろ!」
ロイデバンがそう言う。眼前には無数の壁が展開され、その全てが攻撃的だ。
さっきからロイデバンはやけに挑発的だ。こちらの足掻きを楽しんでいる節まである。舐められているのは気分が良くないが、付け入る隙があるというのならばそれを受け入れよう。ケジメは死を以て償え。
「つーわけでツナギ。今、だ。手ぇ貸せ」
『分かってる。俺もちょっと冷静になった』
ここからはさらにギリギリの戦いになる。命を賭け皿に乗せるだけでは足りない高みに手を伸ばさねば。
空を見上げると、灰色が広がっている。その景色に俺の波紋が重なり、パリパリと音を立てたその先。僅かに見えた空色に、俺は口元をにやけさせる。
「んじゃぁ、この肥溜めをぶっ壊す。メッキ剥がしてやるよ」
そして俺は、あの言葉を口にする。
「さあ、『世界』に【叛逆】しようか!」
このラスボスを作り出した■■トさんと■■マさんと■ー■ーとその他etcはツナギたちに謝れ。もう本気で怒っていいと思うよ。【アーク】の汎用性上げたのはこいつらだから。




