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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第一章 繋ぎ紡ぐは継承の証
55/89

紅蓮の炎よ、純白の魂よ、碧雲の風よ

 信じられるか?純白の魂ってリュウゴのことなんだぜ?漆黒とか腹黒とかの方が似合うと思うんだ……


◇ エルム


 色褪せた世界が広がった後、俺の視界が狭まった。続いて、宙に浮いていた俺は落下を開始。しかし、それは途中で再度魔術を掛け直すことで防ぐ。

 もっとも、出力はかなり落ちているのだが。


 眼下ではロイデバンがツナギとリュウゴに詰め寄る。その巨体がとてつもない速さで迫り、あの二人は防戦一方となっている。


「我は先に行く。お前は?」


 グレンが声をかけてきた。ツナギとリュウゴの救援に入るつもりのようだ。


「ちょっと時間がかかるかもしれねえ。とっとと行け」


 しかし、俺は現状確認を優先させる。


 先ほどまでと比べて明らかに制限された視界。

 発動の難易度が上がった魔術。

 色を失った魔法陣。

 そして、大気中に感じられないマナ。


 挙げればキリがない。俺にとって死活問題であるそれらを先に解決する。


『サボってんじゃねえぞバカエルムーーー!!』


 それまで下のことは一度忘れよう。



 この現状は恐らくロイデバンの呟いた【補完世界】というものが関係しているのだろう。絶対数が少ないのであまり知られたことではないが、【アーク】には他者へまで影響を及ぼすものもある。それの拡大解釈により、自身の【アーク】のルールを強制させる。

 俺たち以外が色褪せた理由はそこにあるのだろう。



 だが、あくまでも【アーク】ならば、俺の【掌握(アーク)】で対応出来る。


 魔術――――体内のマナを消費して発動可能。

 魔法陣――――これは色を失い、反応もない。破棄した後、再度展開。

 (ビット)――――こちらも反応なし。地面に落ちていたそれらを再び宙に浮かせる。

 視界――――大気中のマナを介して見ることはできないが、方法は何もそれだけではない。


 そしてこれらの動作を全て【アーク】を併用して行う。大気中のマナは使えない。よって懸念すべきはマナの枯渇だが、いざとなれば借りれば(・・・・)いい。


 結論として――――


「多少窮屈だが問題はない」


 実害はと言えば、手数の減少と範囲の縮小ぐらいなものだろう。


 おそらくこれは、ロイデバンの【アーク】の本質に触れる部分だろう。他者にルールを強制する類の、『世界』の展開だ。条件をすり抜けるもの以外は全て無効化されてしまう。

 こちらの行動を制限した上で、自身はそのまま。有利を振りかざし、こちらに不利を押し付ける。


「ま、相性だな。思考しねぇバカなら終わってるところだ」


 不幸中の幸いと言うべきか、それとも必然と言うべきか。俺の【アーク】はロイデバンと相性がいい。ツナギが先ほどから使う炎も、この『世界』で紅く燃えている。やはり視た(・・)通り、本質は炎とは別のものであるのかもしれない。


『だぁぁぁこのクソイベがぁぁぁーーー!!』


 今の自分が出来ることを確認した後は、実行に移すのみだ。俺は眼下の戦闘を見下ろしながら思案する。


「暴れろ『昇杖』。この『世界』を【掌握】する」


 俺はそう宣言し、右手に持った杖を構える。白いマナを纏ったその杖を媒介とし、【掌握】を実行するのだ。


「《スピリットクロス》」


 俺は風を纏う。淡い(あおみどり)の光が俺を包みこんだ。

 眼下で何かがパリパリと剥がれるような音がする。俺の眼は、そこに生じた揺らぎを逃さなかった。


「風よ、吹き荒れろ」


 俺の周りに色が戻る。そして俺は、自身の周囲の魔法陣と(ビット)を使って一つの新たな魔法陣を生み出す。


立体三十二重(トラキッド)――――《グランハルモ》」


 ロイデバンの足元から魔術を発動する。風の魔術だ。発生した竜巻は奴を閉じ込め、グレンの放った炎と共に高く昇る。そしてロイデバンの体表に薄い傷を量産した。


「どうした?バテてきたか?」


「フン、まだまだ(ぬる)いわァッ!!」


 俺はロイデバンに声をかける。その返事通り、奴はまだまだ余裕な上、おそらく奥の手もまだ隠し持っていることだろう。

 一方で、俺たちの消耗は激しい。ツナギとリュウゴはそろそろ一息ついた方がいい。俺も手札はほとんど使ってしまっている。


「そうかい。じゃあ遠慮は要らねえな」


 俺も地面に降り立ち接近戦を仕掛けることにしよう。新たな風が、この『世界』の淀んだ空気を吹き飛ばしたような気がした。


「今日はいい天気だなぁ……こんな日にはいい風が吹く」


 見上げるのは灰色(モノクロ)の空。そして見据えるのは、その先の青空。


「ただしちょっと狂暴だからな……せいぜい刻まれないように気を付けろ」





◇ ツナギ


「どうしたエルム、なんかキラキラしてんな。心の濁りでもキレイになったか?」


 リュウゴがエルムに突っかかる。今のリュウゴはとにかくキレキレだ。精神状態がおかしな方向に振り切れている。誰彼構わず煽りに煽る。


「頭がパァになっちまったのか?奔流(それ)みてえに」


「よかろう、レスバだ阿呆(あほう)


「ほざけバカ」


 エルムは碧の淡い光を身に纏っている。対する俺たちは紅い炎と白い奔流。何もしていなくともジワジワと体力は削られていく。


「代われツナギ、くそ暑い」


 リュウゴが汗を滴らせるも、落ちた雫が剣に纏わる『紅炎』に呑まれた傍から蒸発した。


「お前ら、もう時間はかけてられん。速攻で片付けるぞ」


「わーってるよ。ツナギ、これ使え」


 そんなリュウゴでもさすがに状況は分かっているようだ。

 感覚で分かるのだが、俺たちももう長くは戦えない。『紅炎』によって体に熱がこもってしまっているのだ。短期決戦は絶対条件でもある。


「【限界叛逆(アンチリミテッド):魂の残滓(ソウルレミナント)】」


 リュウゴが限界に叛逆し直し、白い奔流がさらに勢いを増す。意図は理解した。このまま代わるだけならば、奔流は霧散するだけだろう。


『【エンチャント――――』


「――――:限界叛逆(アンチリミテッド)】」


 だから、俺の体に無理矢理定着させる。俺は左手を胸に押し当て、体のリミッターを外した状態でリュウゴと交代する。


「――――グッ、クゥ――――」


『明日は筋肉痛が酷いぞ。もうバッキバキだ』


 体が痛いくらいなら気にする必要はない。だが、死は怖い。体温の上がった俺の体へ意識を向けると、いつ止まってしまってもおかしくないとさえ思えてしまう。しかしこの熱が俺を動かす原動力であることもまた、事実。


「なあグレン。俺だけじゃ足りない。力を貸してくれ」


「言われなくとも、元よりそのつもりだ」


 俺一人の力などたかが知れている。だから、繋ぐ。皆の力を繋ぎ合わせて、俺はここに立っている。


「そのために、我は今ここにいる」


『こっからはノンストップだ。止まると死ぬぜ?』


「やるぞ。また借りる」


 グレンが、リュウゴが、エルムが、目的は同じだ。


「ククク、ハッハッハッハー!貴様らの悉くを捻り潰してくれよう!」


 戦いは最終局面へと向かって行く――――

 最終回みたいな雰囲気出し始めたぞこいつら。終盤とは言えまだ一章だぞ?なんで最終形態みたいになってるんだ……?


 実はこの中でエルムだけツナギに声をかけているわけじゃない。ならばいったい誰に向けて言ったのかというと…

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