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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第一章 繋ぎ紡ぐは継承の証
54/89

紅蓮の炎よ燃えろ荒く

済(2022.10.26)



「ねえジー。バン大丈夫かなぁ?リューくんすっごく強かったよぉ?」


 場面は変わり、ここはツナギたちの戦闘区域からは離れた場所だ。

 未だ手足を封じられたままのリノがジーンに問う。


「そりゃあそうだが……お嬢。大将もまた、くそ強い」


 ジーンは自らの主の実力を疑っていない。ロイデバンが負けるところなど想像できないのだ。


「やーどうだろう。エルムもいるみたいだから四対一になってるはずなんだよねー」


 その会話にモフも加わる。モフの主張は、人数のいるこちらの方が有利であるというものだ。ただし、ロイデバンの場合はその個が突出している。そう簡単な話ではない。


「バンはすごいよ。私速くなってるのに全然気にしないんだもん」


 先ほど述べた心配はただ口にしただけといった様子で、リノがロイデバンを語る。リュウゴは猛攻を防ぎきっていたとは言え、やはり僅かな傷はあった。しかし、ロイデバンにはそれが無く、そもそも攻撃が当たることが極端に少ないのだと言う。


 ソフィアはその会話を聞きつつも、表情は固い。眉を寄せて、リノとジーンの様子をうかがっている。


 故に、その接近に気付いたのはルーンだけだった。足音は無く、ルーンのみがその匂い(・・)に気付いた。林の中から人影がやってくる。

 そして、輪を囲んだように座る五人の中心に、いつの間にか座っていた。


「随分と慕われているのじゃな、あのバカは」


 その人物の出現に、ルーンとモフ以外の三人は唾を飲み込んだ。ソフィアは新たな人物の出現に。リノとジーンは、明らかな強者の出現に。怒っているのか、気にしていないのか、今の感情は全く読めない。


「だぁれ?」


「お嬢ちゃん、それはあまり人に向けるものではないぞ?」


 突如現れた老人に声をかけたのはルーンだ。手にはついさっき拾った小枝を握り、老人の背後に立ってそれを向けている。


「何も知らんなら、戦いなぞ知らぬままでよい」


 ルーンの視界から老人の姿が消えた。気付くと、手に持った小枝が無くなっており、それは老人の手の中で折られていた。白髪と羽織が風にはためく。細身の老人だ。

 そしてルーンの体がひとりでに動き――――


「ルーンちゃん、やめて」


 ソフィアがルーンと老人の間に【聖域】を展開した。それに頭から突っ込んだルーンは、額を大きく強打する。


「痛っ!」


「……そうか、あの子か。大きくなったのう……」


「お久しぶりです。レイさん……でいいんですよね?」


「ホッホッホッ」


 レイさんと呼ばれた老人を、ツナギはじいちゃんと呼び、リュウゴとエルムはジジイと呼ぶ。ソフィアにとっては何年も前に少しだけ会っているといった程度だが、容姿が変わっていないので心当たりがあったようだ。


「あれ?ソフィ姉?ボク何してた?」


 今までの行動は全て無意識下であったのか、そうとも取れるような言葉をルーンが発した。


「ルーンちゃん、覚えてないの?」


「う~ん……おじいちゃんが来て……それからどうなったっけ?て言うか頭痛い!」


 つい先ほど強打した額を押さえて、ルーンは涙目になっている。それにソフィアが寄り添い、なだめ始めた。


「モフよ。奴が来ておるのじゃろ?詳細を求む」


「オーケー、アーサー」


 纏う空気を変えた老人に、モフが応える。あまり気にした素振りは見せていないが、声に凄みが溢れ出ている。


「エルムとツナギとリュウゴと……あとグレンくん。彼らが応戦しているよ。あ、ほら、ここからでもよく見える」


 モフが簡潔な状況説明をする。指を指した方向では、ちょうど『紅炎』が空に昇っているところだ。


「そうか……さて」


「「ッ……!」」


 向けられた老人の視線に、リノとジーンが息を飲む。ジーンは咄嗟に腰に差した刀を抜こうと指を動かして――――止めた。


「なんじゃ、動かんのか」


「……動けねぇんだよ」


 ジーンが押し殺した声でそう言う。直感的に、動けば死ぬということが分かったからだ。


「ふむ……まあよい。わしはもう行くぞ」


「はーい、行ってらっしゃーい」


 この場でモフだけが、終始マイペースを貫いている。多少緊迫したこの場にはふさわしくないと言えるが、意識して直せるものでもないので仕方がない。


「お主らも後からついてこい。ゆっくりでよいぞ」


「分かりました……」


 老人の指示に答えたのはソフィアだ。その顔はいくらか優れない。先ほどから轟音が響く、その爆心地に向かえと言われたのだ。気圧されもする。


 ツナギは無事か、リュウゴは生きているか。気になる。自分も少しでも力になれるなら、微力ながら【聖域】の力を使えないか。何かしたい。役に立ちたい。

 ソフィアの思考はそれらに縛られている。


「貴様らもついてこい。異論は認めん。モフよ、頼んだぞ」


「はいはーい」


 続けて老人はリノとジーンに命令する。有無を言わせぬ、圧倒的上位からの言葉だ。


「いいの?私とジーは敵?……なんじゃない?」


 逆らう気はないが、リノが確認だけする。


「敵……か。くだらん」


 しかし、老人はそれを一蹴した。そしてこう言い放った。


「わしの"敵"はロイデバンただ一人」


 老人がゆっくりと歩きだし、言葉を続ける。


「それ以外の有象無象どもは……ただの些事じゃ」


 つまり、お前たちなど相手にならない、と。





◇ リュウゴ


 俺たちは、今絶賛ヤバい状況にある。


『だぁぁぁこのクソイベがぁぁぁーーー!!』


 普通の攻撃はロイデバンに届かない、つまりノーダメ。そのくせ向こうの攻撃は一撃でこちらを再起不能にしてくるほどの威力を持っている。

 今も目の前を拳が通り抜けた。


 対するこちらの手札は、なぜか使える『紅炎』、そして俺とツナギの近接戦闘。

 後はエルムの魔術が少々。あいつの周りだけ色が戻っているが、【アーク】で何かしらの対処をしているのだろう。もっとも、魔術の数は圧倒的に減ったが。


『ぜってー調整ミスってんだろ!フラグからやり直させろ!コマンドよこせぇ!』


「耳元でギャーギャーうるせえ!黙ってろバカ!」


 俺もツナギも騒ぎたくもなるものだ。少し追い詰めると発狂モードに移行。時間制限はありません、クールタイムもありません。では、クソゲー認定してもよろしいでしょうか?


「チッ、もう一回いくぞ!グレン!」


「承知した!」


 ツナギの掛け声にグレンが応える。色褪せたモノクロの世界の中、紅い炎がよく映える。


「【紅炎】……」


『う、し、』


「ろぉぉぉーーー!」


 ツナギが紅く燃える剣を、体を半回転させて後ろへ振る。その先には大きな影があり、ロイデバンの腕が剣を止める。それに弾かれ、ツナギは大きく仰け反ってしまう。


「こんのぉぉーー!」


 体勢の崩れたツナギに代わって、体の主導権を俺が握る。どちらにせよ仰け反ったままではあるのだが、準備出来ている分、俺の方が僅かに速く対応できる。


「まだ食らいつくかっ!!」


「死にさらせやがれぇーーー!!」


 俺は瞬時に限界に【叛逆】、そして魂を燃やす。いや、その言い方は少し語弊があるかもしれないが。

 無駄に力んで漏れ出た力をうまく活用する。言葉に起こすとそうなるが、これはそもそも理論的なことではない。ニュアンスで理解するロマンなのだ。

 それはともかく……


「ジャリジャリうっせえんだよ!さっきッからっ!」


 問題は俺が引き起こす波紋だ。これが広がる度にパリパリと薄氷を踏んでいるような音が聞こえる。それが耳について俺のイライラをさらに加速させる。


 折れた剣と拳が正面から衝突し、そこから波紋が音を立てて広がる。これは拳の威力の方が高い。完全に振りきれなかった剣を横にずらし、俺は距離をとる。

 ロイデバンはその間合いを詰めに前へ出るが、背後からグレンの『紅炎』、下からエルムの魔術が追撃をかける。僅かながらに出来た時間に、俺は距離をとる。


「ふぅ……グッバイ煩悩」


 その様子を見ながら、俺は心を落ち着かせる。苛立ったままでは最大限のパフォーマンスは発揮できない。


 冷静に狂っている状態が一番調子がいい。これは俺の持論だ。


「負けイベごときで俺を止められると思うなよ」


『どうでもいいが俺を巻き込むのだけはやめろ』


 ゲームにおいて、負けイベというものが存在する。数多のゲーマーたちが『なんだ負けイベか』と諦めるそれだ。

 ゲームシステム的に無理ならどうしようもないが、単に敵のステータスが高いだけのものもある。これはプレイスキルでなんとかなる場合が多い。


 そういうのが、俺の大好物だ。


「ほら、さっさと特殊ムービー見せて終わってくれ」


 自然と口元がにやけてしまう。


「クッフッフッフッ」


 攻略方は一つ思い付いている。それで駄目なら、またゼロから考えるさ。

ルーン「だってリューゴ兄ちゃんが『コイツはやべぇ』って言うんだもん」

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