紅蓮の炎よ燃えろ高く
前作主人公(事実無根。雰囲気とその場のノリで授けられた名誉ある称号)
済(2022.10.25)
◇ ツナギ
俺は剣を振り下ろし、その剣が纏った『紅炎』が眼下の人物を呑む。
絶大な威力であった「朱雀落陽」だが、ロイデバンは未だ立っている。地面の表面を抉り融かし、黒い土の中に見える紅く熱を持った部分の上に、さも当然のように立っているのだ。
「小僧、貴様も……」
いくら俺が『紅炎』自体の熱は感じないとはいえ、熱せられた物質はその限りではない。右手に持った剣は高熱を放出し、俺の体もほんのりと熱を帯びて体から『紅炎』が漏れ出ている。ロイデバンのように素足で、今の熱せられた地面の上に降り立つわけにもいかない。
「《シェルアイス》――――四重、
《ウィルフーン》――――二重」
だから、エルムに場を整えてもらう。
氷に覆われた地面は、一拍置いて蒸気を噴き出す。その蒸気と上昇気流を風でまとめて横方向に押し流した。
「クハハッ」
その方向にはロイデバンがいる。攻防一体と言うよりは、自分に向けられた攻撃への対処のついでに牽制の一手を打ったといったところだろうか。
ロイデバンが手の甲でそれを殴る。風圧同士がぶつかり合いエルムの魔術は搔き消されるも、火のついたロイデバンの羽織を吹き飛ばした。
「おいてめえら、俺を巻き込んだことに関して何か申し開きは?」
「『ない」』
俺とリュウゴの声が重なった。
俺は未だ少量の蒸気が見える地面に降り立ってそう言った。
『その場にいたテメエが悪い』
別にエルムごと巻き込むつもりはなかったが、結果としてそういう形になってしまったのは申し訳ない。しかし、エルムなら避けられると信じての行動だ。ロイデバンに避ける気がなかっただけである。よって、言うべきことは何もない。
「そうか……とでも言うと思ったかこのクソガキども……!」
『クククッ、思わねぇ~』
リュウゴが俺の立場であれば、単に嫌がらせ目的でエルムを巻き込む可能性は大いにあるが。今現在も余計な口出しをして話を拗らせている。
『一人じゃ何も出来ないとは……あわれなり……』
「てめえも一人じゃ勝てねえだろ」
『残念でしたぁ~。俺たちはデフォルトで二人なんですぅー』
これ以上の問答は不要であると断じたのか、エルムが無言でリュウゴに向けて魔術を放った。小さな岩の礫が虚空を飛んでリュウゴの顔をすり抜けた。
『なんだ……見えてんのか』
「チッ、これじゃ死なねえか」
リュウゴの目が見開かれ、両者の間にピリピリとした空気が流れる。この表現は比喩であると同時に、リュウゴの周りの空気が静電気を帯びているのだ。エルムが別のアプローチを探しているのだろう。
「いっそ空間ごと削り取るか?」
随分と物騒なことを言いだした。そろそろ止めねば。
「さて、雑談は終わったか?」
エルムの魔術を防いだ後、俺たちの様子を見ながら体をほぐしていたロイデバンが声をかけて来た。どうやらあちらは準備万端のようだ。
『ま、一時休戦といこうじゃねえか』
「その面見せなきゃそれでいい。ほれ、しっしっ」
ともあれ、目的は同じで共闘するだけの理由もある。個人の好き嫌いはそれに優先されない。
『接待させてやるよ。俺のために尽くせ』
「ほざけ。ちょうど肉壁が欲しかったところだ」
いつまでも言い争いをやめないリュウゴとエルムに、俺の当たりがきつくなるのは仕方のないことだろう。
「お前らいい加減にしろ。足、引っ張るなよ」
『「おい、誰に言ってやがる』」
「息ぴったりじゃねぇか」
さっきまでのギスギスはどこへやら。頼もしいことで。これなら問題はないだろうが、何か釈然としない。こいつらいっぺん酷い目にあってしまえ。
「二人がかりでも、どこからでも、かかって来い」
ロイデバンが俺たちに再度宣戦布告をする。どこからでもかかって来いと言ったあの男は、両手を広げて堂々と佇む。もっとも、こちらは二人なんてものではないのだが。
「上等だ。やるぞ」
『分かってんじゃねぇかツナギィ。さあ目の前の、理不尽の権化に――――【叛逆】しようか!』
時間にしてほんの僅か。戦闘の最中の空白の時間は、今終わった。
◇
「【エンチャント:紅炎】」
剣に炎を纏わせて、俺は前に出る。不自然さを感じさせないように、俺が前へ出る。
「積年の恨みでも込めているのか?」
ロイデバンの指摘はあながち間違いではない。俺が燃やしているものは、まさしくそれであるから。
「そうだな……」
「俺もそれを知っている。そして衝動の赴くままに……」
「知るか。んなもん勝手にやってろ」
俺はこんなことは言わない。だが、その言葉を紡いだのは間違いなく俺の口だ。ならば、答えは一つ――――
「【残滓】」
俺の体が、ロイデバンへと急接近する。右手に持った剣は『紅炎』と、白い奔流を纏い、背後には波紋が広がっていく。
「俺だ。さっき話したろ?忘れるなんて酷えじゃねぇか……詫びとして死ねや」
ロイデバンの懐に潜り込んだリュウゴが、口元に笑みを浮かべてそう告げた。
「斬魔:青龍――――feat紅炎」
紅と白が螺旋を描きながらロイデバンへと向かう。体の大きさは、俺とロイデバンではまるで違う。ロイデバンの下から突き出された剣が龍の如く心臓目掛けて昇って行く。
「これで終わりか?」
果たして剣は――――ロイデバンの手前数cmで止まった。見えない壁に遮られたようだ。
接触部では僅かな空間の揺らぎがあり、それがだんだんとこじ開けられている。
「あっちぃ……」
俺は『紅炎』の熱をさほど感じないが、リュウゴにはそれは適用されなかったようだ。額に汗が浮かんでいる。無理もない、すぐ近くに通常の炎よりも高温な炎があるのだ。さらに、攻撃が一部跳ね返って来ていた。
「さて……次、だったなぁ……」
リュウゴは片手で剣を上に掲げた。次の一手――――分かっている。そこまで分かりやすくしてくれなくてもいい。
「来い!グレン!」
俺たちは体を入れ換え、グレンが上空から炎を落とす。これもまた、『紅炎』だ。
そもそも、『紅炎』の半分を俺が継承するという約束だったのだ。さっきまで俺が使っていたのはその半分。ではもう半分は?
「【エンチャント:紅炎――――プラス残滓】」
グレンが落としてきた『紅炎』と、リュウゴの残した奔流を剣が纏い、紅と白が再び勢い付く。紅は再度燃え上がり、白は霧散を止めてその場にとどまる。
そして俺は左手でも剣を握る。両手でしっかり握りしめた剣を――――
振り下ろした。
それを阻むのは見えない壁。恐らくロイデバンの【アーク】であろうそれが機能する。しかし――――
グニャリ――――と、空間の揺らぎが一気に広がった。歪んだ空間越しにロイデバンと目があった。
「褒めてやろう」
「お前に褒められても嬉しくねえよ」
ただ、怒りがさらに募るだけだ。剣の纏う『紅炎』とは別の、辺りに燃え広がっている俺の炎が揺らめく。
「だが、まだまだ俺は越えられん――――【破界】!」
ロイデバンの手が俺の剣に触れた途端、剣がそこから折れた。いや、崩れた、と言った方がいいのかもしれない。
俺が今持っている剣は、俺が持つ全ての剣の中でも特別だ。ある人の渾身の一振と言っても過言ではないほどの出来で、強度も申し分ない。そして何よりの特徴が、マナをとどめるという鉱石で造られたこと。つまり、【エンチャント】との相性がいいということだ。
だが、今はそんな感慨に耽っている暇はない。そんな暇があるならこの後の展開を考えた方がいい。
「こんなもんじゃぁ、俺は止まらねぇよ……!」
幸いなことに、剣が折れたのは半ばからだ。根元からではなく、ちょうど刃の長さが半分になった具合だ。ならば、多少使いにくくなった程度のこと。俺は止まらない。
「紅炎!」
突き出されたロイデバンの腕を起点として体勢を整えながら、俺はそこを掴んだ左手から『紅炎』を噴き出し、ロイデバンを炎に包む。
そうして出来た隙に、俺は後ろに下がる。
『二対一じゃねぇ……』
リュウゴが火だるまになったロイデバンに声をかける。その視線は上空を向いている。
『四対一だ、ばぁか!』
「《ゼクタ》」
エルムが上空から魔術を放った。
それは対象を切り取って消滅させる魔術で――――
そしてその後の大爆発が――――
「【補完世界展開】」
起こらなかった。
俺たちの周囲の色が急速に褪せていく。空の、大地の、木々の色がなくなり、"モノクロ"となる。
色の付いたものは俺とリュウゴ、エルム、グレン。そして辺りに燃え広がっている『紅炎』のみ。
「少しだけ、本気を魅せてやろう」
『紅炎』に包まれた中から声が聞こえる。音すら消え去った『世界』で、ロイデバンの声だけがよく響いた。
そして遂には『紅炎』が搔き消えた。
「案ずるな。ほんの戯れだ」
そこには、相変わらず僅かな傷しかついていない、余裕を見せるロイデバンの姿があった。
ロイデバンが後手からでも対応出来ているのは、あいつの周りにいた奴らがロイデバンに対して悉く先手を取り続けて来たから。そりゃあ、絶対防御みたいな能力があるならそれに合った戦い方になるよねっていう……
■マ■さんと■リ■さんとア■サ■とその他etcは反省してどうぞ。
ロイデバンの【アーク】には許容量があります。【結界】が単純な壁の展開で、エルムの《ゼクタ》とトントンぐらい。
ごり押しでも理論上は突破できるけど弱点特効した方が圧倒的に楽。
今のところメタは、
・【掌握】(ハッキングできる)
・『紅炎』(一部ダメージ貫通する)
・【叛逆】(※特定条件を満たす必要あり)
あれ?こいつら最適パーティーなのでは?




