紅蓮の炎よ燃えろ熱く
済(2022.10.25)
◇ エルム
大爆発が起こり、大気が歪んだ。
俺がロイデバンへと向けた魔術――――《ゼクタ》。
その大まかな概要は、対象を切り取った座標ごと消滅させるというもの。
それにより、自然にはあり得ないはずである空間に穴が開くという現象が起きた。そこに空気やマナが流れ込み、大爆発が起きたのだ。つまり、爆発自体は副次的効果であったということだ。
「これで終わってくれればいいんだが……」
俺はそう呟くも、そう簡単なことではないということを知っている。そもそも、この程度で終わるのならばとうに誰かがやっている。
「なかなか面白い技だったぞ。傷を負ったのは何年ぶりだ?」
「十分化け物じゃねえか。もう否定するなよ」
もうもうと上がる土煙の中から現れたのは、体の表面に薄く傷をつけたロイデバンだ。所々血で滲んでいるが、たいしたダメージにはなっていないということが分かる。
上半身に唯一着た羽織は、所々破けているようだ。
ロイデバンの【アーク】を【掌握】したはいいが、それはほんの一部な上、今ではもう手放している。いつまでも他人の中にいることは出来ないというわけだ。
ロイデバンの【アーク】にはまだ未知の部分もある。自分の『世界』を広げて相手に強制させるらしいということは分かったが、もう一癖どころか二癖はありそうだ。
「あーやだやだ。嫌になるねぇ」
悪態の一つや二つも出てくるというものだ。自分の力を過信するわけではないが、俺はこの世界でも有数の実力者であろう。俺個人で国に対する抑止力になる程である。
そんな自分の力が通じない、常識の埒外にいる奴が今目の前にいる――――
「三段階くらい……一気に上げるかぁ!」
だから世界は面白ぇ。俺は自然と口元に笑みを浮かべる。或いはそれは、自身に対する自嘲だったかもしれない。
「『昇杖』ラヴェルダーナ――――展開」
俺は手に持つ杖の名前を呼ぶ。それに呼応するように、『昇杖』が変型した。
杖の先の、丸く曲がって円となっている部分に白いマナが纏わりつく。そこよりも手元側の部分では、鋭く尖った楔のようなものが回転している。
「散れ」
俺はそう言って、腰の周りに連結させていた楔を宙に浮かせる。ちょうど戦場にまんべんなく、10個ほど展開した。
「ここら一帯消し飛んでも、お前は死なねえよなぁ」
「俺を殺す気でいるか。無駄なことを」
「ああ……だから――――」
俺の体の中で膨大なマナが溢れ出るのを感じる。俺の体と『昇杖』がまるで繋がったような感覚に陥り、しかし俺の【アーク】はそれが不可解ながらも正しいということを示す。
付近のマナをも体内に収めた俺は、俺こそがこの小さな『世界』を回す者であると主張する。
ロイデバンはそう簡単には死なない。
だから――――
――――死ぬまで殴れば死ぬだろ。
俺は実にシンプルな結論を下す。頭が悪いと言われても仕方がない。何もかも実行してみせたあいつが悪い。
緊迫したにらみ合いの中、俺は一歩踏み出して――――
「おい木偶の坊……上だ」
俺の感覚が一つの影を捉えた。それに、俺は体の力を少し抜く。
まず最初に出た思いが、『水を差しやがって』。
次に出たものは、『よく来た』、もしくは『やっと来た』。
「【エンチャント:紅炎】……!」
俺とロイデバンの頭上が、紅い炎に覆われた。
◇ ツナギ
「アホエルムめ……森林破壊は駄目だとあれほど……」
俺、リュウゴ、グレンの三人は大樹の枝の上から大爆発を見ていた。恐らくエルムが引き起こしたであろうそれに、リュウゴが苦言を呈したのだ。
あれほどの規模ではないとは言え、自らの悪行を棚に上げて他者を責めるのはやめたほうがいい。この付近もかなり破壊の跡が目立つのだ。
「さて、冗談はこのくらいにして……行くか」
リュウゴが珍しく真面目な顔をする。ずっとこの状態でいてくれるならばどれだけよかったことだろう。
「それで、ここからどうやってあそこまで行くつもりだ?」
「フッ、決まってるだろ?I can fly.」
グレンが問うも、リュウゴはそれにさも当然のことのように意味不明なことを言いだした。まあ、空を飛んで行くって意味だろう。だんだんとリュウゴのことが分かるようになっていくのが少し怖い。
「んじゃ行くぞ。【叛逆】」
体を沈み込ませ大樹を踏みしめたリュウゴに俺は声をかける。譲れないことだ。
リュウゴと大樹の接着部からは波紋が広がっている。
『なあ、リュウゴ。一番最初は俺にやらせてくれ』
「ああ、いいぜ」
奴に――――ロイデバンに攻撃するのは、俺が先だと告げた。そしてリュウゴは、なんでもないことのようにそれを了承した。
ただし――――
「ぶちかませ」
と。
◇
「【エンチャント:紅炎】……!」
『紅炎』――――それが、俺が継承した炎の名だ。
その特徴を簡単に言うと、感情の昂りによって熱と勢いが増す。これの度が過ぎると、俺自身をも灼くことになるやもしれない。
もっとも、再度ロイデバンを目にした際に、そういったリスクがどれ程のものであっても背負いきることを決めた。取り敢えずは、たった一撃だけ。
空一面を覆うほどの紅い炎が、俺の持つ剣に集束する。
そして俺は、憎悪を煮えたぎらせて言葉を発した。
「死ね」
それは、憎悪。
それは、嫌悪。
それは、殺意。……
俺の負の感情が渦巻く。
かつての友と同じように――――お前が殺した俺の友と同じように、惨たらしく死んでくれ、と。
………………………………
………………………
………………
それまでが、俺の嘘偽りない本心。感情を剥き出しにして叫んだ、あの時の僕だ。
そしてこれから語るものもまた、俺の嘘偽りない本心だ。
一人なら、それでもよかっただろう。だが今は違う。
一人なら、そこで潰れていた。自滅だ。
リュウゴへの感謝は口にしない。言うと調子に乗って余計なことをするのが目に見える。
「お前を殺すためなら、俺は俺すら飼い慣らすさ」
最終目標はロイデバンを殺すこと。そこは譲れない。だが、その過程で俺が俺でなくなることは絶対にあってはならない。リュウゴが失われることも。
「朱雀落陽」
俺はロイデバンへと真っ直ぐ剣を振り下ろした。
正眼に振り終わった剣の後を追うように、『紅炎』が燃え盛りながら落ちて行く。
紅い炎が眼下を呑む。
あとには、表面を融かし抉られた地面と――――
ロイデバンが立っていた。
そう簡単に越えられるはずないだろう?ラスボス様だぞ?硝子化した地面に素足で立っているような奴だぞ?さすがに羽織は燃えたけど。
強化形態持ち主人公のエルムさんが本気で当てにいった魔術を【アーク】込みとは言え、技で透かしたんだぞコイツ。ロイデバンに理性をインストールしたせいでだいぶ手がつけられなくなったからヤ■■さんとキ■■さんには反省してほしいですね。
悪ふざけはひとまず置いといて、『紅炎』と同じ系統のモノはあと4つあります。『○炎』という名前のやつがあと4つ。炎に絞らなければ他にもまだありますが、炎系統はあと4つ。
さあいったいだれがげっとするんだろうなぁー(棒)
なお、一部は獲得され済み。




