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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第一章 繋ぎ紡ぐは継承の証
50/89

因縁 そのn

済(2022.10.21)



 時は少し遡る――――



 森の中を、ローブ姿の男が歩いていた。パキパキと足元の小枝を踏む音が聞こえ、破壊の跡をなぞるように進んでいる。


「久しぶりに帰ってきたと思ったら……何でてめえがここにいる」


 その男――――エルムは、森の木々を薙ぎ倒しながらまっすぐ進んでいた大男へと追い付く。


「お前はたしか……ああ、魔術師だ。覚えているぞ。随分と老けたな、『無限』」


「10年も経ちゃあ見た目も変わるさ。そういうてめえはお変わり無く」


 人生の全てをかけてというほどではないが、ずっと探していた男が目の前にいるのだ。


 エルムは杖を構えた。赤いクリスタルの付いた杖の先を大男に向け、つば付き帽子の奥の瞳が鋭く光る。


「そうだ。今度会ったら聞こうと思ってたんだ」


 ふと思い出したように、エルムがそう声をかける。目の前にいる男への皮肉を込めて――――


「人々に『悪夢』と恐れられ、書物から名前が抹消される気分はどうだ?

 ――――ロイデバン・ラグトラ」


「フン、感慨はなし」


 エルムが動くも、ロイデバンには動く気配はない。

 そして――――


「《フレクトル》――――八重(オクタ)


 エルムの魔術が炸裂した。





◇ エルム


 さて、まずは挨拶として魔術をぶっぱなしてここら一帯を更地に変えたが――――この程度で死んでくれるのなら苦労などしない。


 故に、さっきの魔術も本質は設置だ。地面に魔法陣を敷き、その魔法陣上の特定座標へと攻撃を送る。

 物が触れた場所に攻撃、というような簡単な指示ならオートでも出来るが、この男はそう甘くはない。八つの魔法陣の同時展開、そしてそれらのマニュアル操作。その上で俺本人も戦局を掻き回し、絶えず魔術を繰り出す。これくらいでようやく戦線が崩壊しない最低限(・・・)だろう。


 破壊の規模はさらに拡大している。舞い上げられた木や岩をその場で止め、俺も宙に浮く。ロイデバンには一切の傷も見当たらない。


「やるぞ。命はとうに、預かった」


「ハッハッハ!来い!」


「別に……てめえに言ったんじゃねえよ!」


 俺は上空から、木や岩をロイデバンに向けて射出する。風の魔術によって加速させたものだ。


「フンッ!」


 それをロイデバンは拳で砕き、破片が周囲に飛び散る。


「《ストーム》」


 その破片を含んだ風をロイデバンにぶつけるが、やはりかすり傷にもならない。


「《グランドランス》」


 ならば死角から質量のある攻撃を、と仕掛ける。ロイデバンの左右の地面から土で構成した槍を突きだすが――――


(ぬる)いぞ」


 ロイデバンは俺が射出した木の根を掴み、それを横薙ぎに振るった。その結果、土の槍二つと木はお互いに砕け散った。土でできたものとは言えかなりの強度を誇るはずなのだが、見るも無残な姿になっている。いったいどれほどの力で振るったのか。


「もう終わりか?」


「いいや、終わらねえよ」


 前回の邂逅はいったいいつだったか。もう10年以上前の話だ。その間に忘れかけていた脅威を、肌で感じる。

 これまで味わってきた死線とはまた違った緊張感が、胸を覆い尽くす。


「終わらねえし、逃がさねえよ。――――【掌握】」


 俺の視野(・・)が広がる。目で見るよりもより鮮明に、より鋭敏に、世界を知覚する。たった二つしかない双眸では視たいモノも満足に視えない。


「《ボルテクス》、《フレイアス》――――フォールン」


 ロイデバンの頭上に、雷と炎を落とす。


「【結界】」


 口元をつり上げて白い歯を見せるロイデバンが片手を突き出した。そこに発生した力場が、俺の魔術を受け流す。雷は地面を抉り、炎は燃え広がる。


「《グランデス》――――二重(ツイン)


 ロイデバンの足元の地面を操り、無数の槍を突き出した。全方位から出現させたそれらはロイデバンを貫く――――ことはなく、空振りの感覚が残る。

 しかし、それに呆然とする暇はない。俺は次の行動を開始した。


「【現界】」


 俺の感覚が再びロイデバンを捉えた。どうやら、一時的にだが消えていたらしい。


「なかなか面白い技だ……」


「それは結構」


 いつまでも遠くから魔術を放つだけでは埒が明かない。俺はロイデバンに接近し、奴の背後から声をかける。


「火葬はしてやる。安心して死ね」


 杖を持った右手とは反対の左手の掌に、小さな球体状の力場を発生させる。


「《メギガルード》」


 俺は、俺へと振り向いたロイデバンの懐に潜り込んで左手を奴の胸に突きだし、球体を体の中へ押し込む。《メギガルード》の力場がロイデバンの体の中で炸裂する。


「なんだ」


 やっぱ効かないか。

 俺はそう思った。


 結論から言うと、俺の魔術は不発に終わった。奴の体の内側から爆発を起こすつもりであったが、そうならなかったのだ。

 厳密には発動はしたのだが、それはここ(・・)での話ではない。俺の眼のみに写っていただけだ。


 そして俺は一つの結論を導きだす。以前から思っていたこと、話に聞いていたことが実感と共に確信に変わる。


「今、何かしたか?」


「チッ、化け物め」


 つまり、こいつも自分の『世界』を持っているのだ。他者からの干渉をされない【アーク】を。

 似たような奴を一人知っていたので、この結論はすんなりと受け入れられた。感謝はしない。あのろくでもない余計な方には。もう一人の方は随分と聞き分けがあるのだが。


 ロイデバンが、突き出したままの俺の左手を掴む。力を込めているのか、今にも手首を潰されそうだ。


「離せよ」


「断る」


 ロイデバンが込める力がさらに強くなる。


 ここにいない癖にいる(・・・・・・・・・・)

 厄介な能力だが、対処法がないわけではない。俺が向こう側に行く、もしくはこちら側に引きずり出す。取り敢えずはこの辺りだろうか。


「《フレクトル》――――七重(セプタ)


 戦闘開始と同時に展開した魔法陣をロイデバンを囲むように再度展開させる。


「《トリップ》――――フラッシュ」


 俺は、俺たちごと魔術を発動させる。空間を歪ませるのだ。気を抜けば体がバラバラになってしまう可能性があるが、きちんと視えている(・・・・・)ので問題はない。


 空間ごと湾曲したのであれば、特に抵抗などしていないロイデバンの姿も歪む。その歪みを調節してやれば、俺の手首を掴んだ手の拘束も、あってないようなものとなる。


 そうして拘束を抜け出した俺は、八つ目の魔法陣を起動する。それは、既にロイデバンの足元にある。


「ラスト――――《ピラー》」


 空間の湾曲により輪郭がブレて見えるロイデバンの姿は、笑っていた。


(やれやれ、面倒だ)


 魔法陣から光が立ち上り、ロイデバンを埋め尽くす。しかし、ロイデバンは何の痛みも感じてはいなさそうだ。


「【幻界】」


 ロイデバンが呟く声が聞こえたと思えば、すでに目の前にいる。振りかぶった拳が太陽と重なって見えて――――


「《ブースト》」


 俺は、加速する。体内を循環するマナを血流に沿って強引に流す。元々の知覚能力と相まって、世界が止まっているかのような感覚に陥るが、それでも目で追えないほどにロイデバンの拳は速い。


 目で見えないものを視るにはどうすればいいだろうか。

 答えは、別の視点から()ればいい、だ。視覚のみに頼らずに、感覚として広く認識すればいい。もはや"視る"より"感じる"だ。


「【掌握】――――拡大」


 俺は、自身を転移させた。行き先は宙に浮いたままとなっている木の上。

 さっきまで俺がいた場所にはロイデバンの拳が振り下ろされ、地面を大きく陥没させた。


 その様子を見ながら、俺は左手の傷を癒す。握り潰されて骨も折れているだろうが、痛みを感じても動かせる程度でいい。


「おい、ギアを上げるぞ。ついてくんなよ」


 俺は木の上からロイデバンを見下ろす。相変わらず世界が静止したような感覚はそのまま、時折する頭痛と手首の痛みを無視して杖を構える。


「見下ろすばかりか。降りてこい」


丁重(てーちょー)に断る」


 俺は杖を上空に掲げ、幾つもの魔術を発動させる。魔法陣の数は優に100を越える。


「壮観だな」


 上を取られ、宙には幾つもの魔法陣が構成されている最中であるが、ロイデバンは焦ることをしない。淡い光も無数に集まれば空をも埋め尽くす。その様子を眺めながら、俺は一つ、自身の結論(・・)を語る。


「魔術ってのはだいたいが言葉で説明出来る。簡単に言うと、俺の使う魔術は俺の可能性の域を出ない。これを有限とでも言っておく」


 魔術、魔法、魔導――――混同されるような言葉は多くある。その中で、魔術とは。

 魔術とは、基本的に全て理論で証明出来るものだ。俺の使うものの大半がこれに分類される。

 逆に魔法という言葉は、強いて言うならば今現在も解明されていない現象に対して使われる。大別すれば【アーク】もこの類いだ。


「てめえはこの辺詳しくねぇだろ?」


「仕方がないだろう。矮小な小細工は全てねじ伏せたのだから」


「フン……まーてめえみてーな化け物がウヨウヨいやがんのがこの世界だ。だから俺が――――俺たちが生き残るためには何をするべきか、どうあるべきかを考えた」


 俺は辺りの空間を【掌握】する。具体的な操作としては、マナを支配下に置いた。これで魔術は撃ち放題だ。


「聞いておこうか。お前の導き出した答えを」


 照準を、ロイデバンに合わせる。俺は口元に笑みを浮かべた。


「有限を無限に繰り返す。シンプルでいいだろ?」


「ほう……ほう!なるほど、原動力は……ククッ、精霊のようなことをする。本当に人間か?」


「俺の周りにはイカれた奴が多くてねぇ……人間やめるのには慣れてる」


 さて、世間話はこのくらいで切り上げよう。俺はつば付き帽子を頭から外し、丁度いい具合の枝に引っかける。この戦いの後でまだ残っていれば取りに来よう。


「さあ、魔法の時間だ。『昇杖』ラヴェルダーナ」


 俺は右手に持つこの杖の名を呟く。冠するのは、かつてこの杖を振るった英雄の名だ。


「我が敵を――――(かい)せよ」


 かつての英雄サマはいったいどんな気持ちでこの杖を振るったのだろうか。

 俺なら――――


「ククク」


 俺なら、嘲るが如く力を振るった。

 口元に笑みを浮かべたのは、必然であったのかもしれない。


 間接的とは言え、因縁も多いからだ。恨みは、そう簡単には忘れない。


 親友に関することなら尚更に。

《フレクトル》

 魔術専用のゲートみたいなもの。魔法陣型で、その魔法陣上の座標ならどこからでも魔術を出せる。

 『聖都』で使ったのは、魔法陣の大きさが街全体を覆っていた。よって全域に攻撃可能だった。今回は密度重視で数を優先したため、エルム本体からの射程は短め。小さめで頑張れば150個ぐらい出せるけどそれら全てを使いこなせるかはまた別の問題。


《メギガルード》

 接触部から表面を抉って体中で爆発させて中からズタズタにする魔術。今回は不発だったが、決まれば絵面がグロい。


《ボルテクス》

 雷の魔術。けっしてモブ処理専用の魔術ではない。


《フレイアス》

 炎の魔術。けっして森を燃やすために撃ったわけではない。


《グランデス》

 土の槍で土葬して差し上げるための魔術。今回は透かされたけど、本来なら中で圧死させるのも目的の一つ。


《トリップ》

 本来なら空間転移系の魔術のはずなのだが、同座標、もしくは非常に近い座標を指定したものが幾つもあったので、干渉し合って「空間が湾曲」という結果になった。

 説明しないと何が何やらといった雰囲気だったはず。今話の問題児。テレポートの間違った使い方。


その他etc.



 誰もがエルムみたいにポンポン魔術を撃てるわけじゃありません。魔術師としてトップクラスなのと、実質的に演算装置が2個あるというのが強みです。

 と言うか、純粋な魔術師としてエルムよりも格上である奴は今後出てきません。


 純粋な魔術師(ただし、【アーク】がなくても十分戦えることを条件とする)

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