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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第一章 繋ぎ紡ぐは継承の証
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憂鬱な旅路、出発


 この国の名は、『マノガスト聖王国』。およそ5000年前の戦乱の時代から名を残すような、世界でも有数の大国である。

 もっとも、"聖"王国となったのはここ最近のことであるが。


 さて、突然だが、そのような大国でもっとも大きな催し物は一体何だろうか。


 王の即位式?確かに規模は最大であろう。だが、そのようなものは一生に二、三度しか経験しないだろう。そもそも今代の王はまだまだ若い。


 商業都市での各種イベント?それは国民にとってもっとも馴染みのあるイベントだ。だが、頻度は多いが規模がそれほどでもないことが多い。商人たちの牽制と罵声と野次と……それらが飛び交う楽しいイベントだ。

 では、結局どれが一番なのだろうか。


 規模と頻度を考えると、『聖誕祭』こそがもっとも大きなイベントであると言えるかも知れない。

 それは、年に一度の祭りだ。『聖都』ベラを中心として、国民全員で『初代聖託(せいたく)』ベラ・サクホードの誕生日を祝う。

 他国からも『聖都』へ王侯貴族を招き、現『聖託』が彼らをもてなす。ベラ・サクホードとはそれほどの人物だったのだ。現に、400年ほど前に『マノガスト王国』を『マノガスト聖王国』へとしたのは彼女の功績があってこそだ。


 最近では宗教じみたことになっているが、現『聖託』様はこれを否認しておられるようだ。


 ………そんなところから国賓として招かれる『アーサー・レイ・マノガスト』某については、今は割愛しよう。名前に国の名を冠しているが、割愛しよう。



 ともかく、これがツナギとリュウゴが向かっている『聖都』、ひいては『聖誕祭』の概要である。







 森の中を駆ける影が一つ。桃色の髪をなびかせて走るのは、ツナギだ。

 じいちゃんとの戦いに負け、渋々ながらも『聖都』へ向かっている途中だ。

 慣れた様子で森の木々を避けて進みながら、ツナギとリュウゴは一昨日のことを思い出す。自分から一本とってみろと言われ、二人がかりで挑み、そして敗れた記憶だ。


『あのジジイ、やっぱ頭おかしいわ』


「うん、じいちゃんは強いね」


 会話が絶妙に噛み合っていないように聞こえるが、この二人にはこれが普通だ。いちいちリュウゴの言うことを気に掛けても意味がないのだ。赤ん坊の時から15年ほどの付き合いで、ツナギはそれを学んだ。


『だってさぁ~剣燃やしたらさぁ~普通勝ったと思わない?』


「ソウダナ」


 多少の肯定を口にしながらも、ツナギはもうまともに会話する気がないようだ。


 戦いで使った木剣は当然木でできている。ならば燃やせばいい。純粋な剣技での戦いで、どうすればそのような邪道を思い付くのだろうか。それほどまでに『聖都』へ行きたくないというのか。


『なのにあのジジイ、『聖剣』を出しやがった………』


「ウン、ソウソウ」


『剣一本で全方位からの攻撃ってどうやってんだよ……』


「サスガハジイチャン」


思い返すのは決着の瞬間。剣を失ったじいちゃんに攻めようとした二人、その刹那、全方位からの殺気を感じとり、気付いた時にはもう遅かった。刃が複数見えたのは幻覚か、それとも……


「まあ、先に魔術と【アーク】使ったのはこっちだからね。じいちゃんが本気出しても……」


『甘い!甘いぞツナギ!お前は『聖都』に行きたかったのか!!』


「え、イヤだけど?」


 計画犯(リュウゴ)実行犯(ツナギ)の会話は実に下らない。


 静かな森には、二人の声がよく響く。となれば小鳥などの小動物はその場から逃げ出し、逆に血気盛んなモノは………


「グオォォォォォォォォォ!!!!!」


 このように襲ってくる。さっきから何度もだ。


 魔物だ。


 魔物、もしくは魔獣と呼ばれるそれらは、大抵は狂暴な動物のことを指す。昔は人間以外の危ない生き物をそう呼んでいたようだが種族、部族間での軋轢が生まれたとかで、現代では再定義がなされたらしい。特に強大なものを魔獣と呼ぶことが多い。


 もっとも、どこかの国では魔物を飼い慣らしていると聞いたり、狂暴な魔獣とお互いを認め合ったという武勇伝があったりするようだが。


『今度は熊だな』


「あれなんて名前だっけ?」


『どうせなんちゃらベアだろ?熊だし』


 危険な魔物を目の前にしても、ツナギとリュウゴに焦った様子はない。それどころかふざけ倒す始末だ。


『スルーで』


「あいよ~」


「グオォォォォォォ~」


 置き去りにされた熊が遠くで吠える。解せないとでも言いたそうだ。


「いちいち相手してる暇はないんだよ。悪いな」


 森の奥の家から『聖都』までの距離はおよそ200km。その距離を徒歩と、運が良ければ馬車に乗って行かなくてはならない。と言っても、もう何度も通った道だ。慣れている。ただし、森の中は舗装されているわけではないのだが。


「明日中には森を抜けたいな……」


 というのも、現在、当初予定していた半分ほどしか進めていない。魔物が多いのだ。放って置くと村を襲う場合もあるので最初の内は倒していたのだが、いかんせん数が多い。20体ほど倒したところで諦めた。

 それから出会った魔物は放置している。魔物はどこかピリピリした様子で、だいたいの進行方向が一致している。しかし、二人がそれに気付いた様子はない。


 着くのは一体いつになることやら。


 『聖誕祭』まで、あと4日。






 『聖都』。街中がお祭り気分で浮かれている中、一人憂鬱そうな少女が通りを歩いていた。

 これから自分を巻き込むであろう厄介事を想うと、今日何度目かわからないため息をつく。


「あーあ。何かおもしろいことでも起きないかしら……」


 そう言いながら路地裏へと消えた少女は、宙を歩いて(・・・・・)建物の上へと登る。


 いっそこのまま街の外に出てしまおうかとも思ったが、後の事が少々怖い。


「ハァ……」


 少女にとって、次期(・・)聖託(・・)』なんてものはまっぴらごめんなのだ。

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