獣同士の喰らい合い
済(2022.10.14)
◇ リュウゴ
白い奔流を纏った俺と、雷を纏ったリノが白兵戦を繰り広げる。そこにジーンが斬撃を飛ばす。
「彗川」
これは突きだ。突き出した刀が作った無数の斬撃が、小川の様に俺とリノへと迫ってくる。リノごと攻撃したのは、あいつなら避けられると知っているからだろう。
距離を取ったリノに対して、俺は剣を前へ振るう。ジーンの斬撃を搔き消すためだ。
「それじゃぁ俺に届かない」
俺の振るった剣筋の後には、カーテンの様に白い靄がかかった。そこに吸い込まれる様に向かった斬撃は、その悉くが消え失せた。
「知ってるさ――――墓炭」
次にジーンが繰り出したのは振り下ろし。先ほどの様な数で攻めるものではなく、一閃で決めるためのものだ。
ともあれ、それも知っている。故に俺は、後ろに下がって攻撃を透かす。
そして誰もいない地面へと叩き込まれた斬撃は地面を割り、抉った。
「そこぉ!」
間髪入れず、リノの攻撃だ。リノはとにかく速いので後手に回ってしまうのだが、後の先をとればいい。【限界叛逆】状態でないならいざ知らず、今は速さは同等だ。
【限界叛逆:魂の残滓】は単なるバフだと思ってくれていい。体内にあるマナとは違うまた別の力――――便宜上『ソウル』とでもしておくそれが、このバフ専用のMPゲージだ。
発動のイメージは命を削る感覚――――と言っても危険性はあまりない。人間誰しも必ず、生きていれば僅かでもソウルを垂れ流すので、俺はそれを再利用している。
エルムはこの存在を何となく認識しているだろうが、ツナギは全然適正がなさそうだったので知らない。ジジイも詳しくは知らなかった。
何故俺だけなのかはどうでもいい。使えるものはとことん使い尽くして骨までしゃぶる。
「グッバイ」
またしても俺はリノの手首を掴み、ジーンへと投げ返す。単純バカは扱いが楽でいい。スペック差でゴリ押ししてくるなら技術で返せばいい。その点俺には技術最高峰が身近にいたので運がよかったと言えるだろう。
正直、あんにゃろうの部下ならさっさとスプラッタ動物園にしてやろうかと思っていたが、こいつらはどうも憎めない。
直接リノに触れたことで痺れる手をもう何度目か、と振りながら無造作に立ったままの俺に、ジーンが斬撃を飛ばす。
「蓮閃」
今回、俺は上に飛んで避けたが、後方にはソフィアとルーンがいる。もっとも、そこは今一番安全な場所かもしれないが。
「壁はしっかり張ってろよー!」
「言われなくても……ッ」
ソフィアの【聖域】は、そう簡単には破られないだろう。誰も彼もがローゼンの様に対抗策を持っているわけでは無い。
そもそもマナ分解の剣なんてものはクソ高い。ルーツの問題で、日本円換算でウン百万はするだろう。物に強力な魔術を付与するということがまず難しい。ツナギは特殊なだけだ。
話が逸れてしまったが、【聖域】は問題なく斬撃を防ぎきった。今はそれだけだが、将来的には移動式安全地帯や不壊の剣と言ったものも出来るかもしれない。
【アーク】は使い方次第だから。
「あ……上から……」
話は変わるが、斬撃を飛ばすことが出来るなら当然対空手段の一つや二つは持っているわけで……
「飛鳥・墜」
ルーンが指摘した様に、上からの攻撃が俺を襲う。あらかじめ飛ばしておいたのであろうそれは、急降下する鳥の様に俺へと向かってくる。
こっちも使えるのか……。
とは言え先ほどまで使っていたものよりは練度が一段下がっている様に感じる。視線はジーンに向けたまま、俺は上に剣を振るって斬撃を弾いた。
いいことを思い付いた。
「【アンチグラビティ】」
重力に【叛逆】した俺は、そのまま宙に浮いた状態となる。そしてジーンとリノを上から見下ろした。
「壮観だなぁ……神にでもなった気分か?」
「まさか。俺は神より支配者の方が好きだぜ?」
「どっちも上じゃん」
リノから見たらそうかもしれないが、俺は全知全能にはなりたくない。サイコロを振っていたい。不確定要素がなくては面白くない。
白い奔流を纏った俺が見下ろしたことで、かなりの威圧感を与えてしまったようだ。もっとも、これからそれはさらに強くなるのだが。
「これは俺の第一の行動理念なんだが……」
俺は両手で握った剣を上段に構えた。
「せいぜい楽しませろ」
「小僧……いや、悪魔め……」
悪魔とは恐れ入る。しかし、神なんかよりはよっぽど俺に合っている。この狂気的な笑みの前には……
「フッハッハッハッ、ヒャッハッハッハッ」
◇
「下がれお嬢。死にたくなければ」
「分かった。ジーも死なないでね」
何も考えていないようで、その実本能で理解している。面倒事は自分に押し付けて本人はさっさとどこかへ行く。
もっとも、これは信頼しているからでもある。
(全く誰に似たのやら……親だな。絶対親だ)
ジーンは、かつて自分を振り回した友の姿を思い浮かべ、口元を歪める。
「生憎まだ死ぬわけにはいかねえんでねぇ。約束もまだ残っていやがる。俺にも通すべき仁義ってもんがあんのさ」
「命乞いは終わったか?」
「話聞いてたか?」
リュウゴも分かった上で言っている。実にろくでもないことだが、シチュエーションに水を差すのもまた、大好物なだけである。
「もういいよな?」
リュウゴの背後には、白い奔流が渦巻き、象ったモノがある。身内の技術最高峰が技は見て盗めと言うのと、さらにコレを使える条件が実にくそったれで適応させるのが難しいことから、リュウゴが実質自力で編み出した技である。故に、思い入れは深い。
「呑まれ返されても、文句は無しだ」
一方ジーンは刀の先を下に向け、棒立ちとも言える姿勢で突っ立っている。そして、脱力した状態から一気に刀を振り上げる。
「斬魔:白虎!」
「大狼牙穿!!」
上を取るのは白い虎。剣の振りの穏やかさとは逆に、荒々しく大地へ駆ける。
下から迎え撃つは狼。牙を剥き、上から落ちてくるモノを喰らおうとする。
両者激突し、凄まじい衝撃波が巻き起こされ、地上を光が埋め尽くした。
◇ リュウゴ
激突の余波が収まり、俺は地面に降り立つ。爆発直下の地面は、どうやら抉れているようだ。
俺の虎とジーンの狼。
どちらが勝ったのかは……
当然俺だ。
虎が狼を喰らった。もっとも、これを比喩と呼ぶべきか、それとも直喩と呼ぶべきかは賛否が分かれそうだ。
「あー……ジー負けちゃったー」
「きゃっ」
「うわっ」
リノの声に驚いたのはソフィアとルーンだ。どうやらリノは、ソフィアが球体状に張った【聖域】の後ろへと一瞬で避難したようだ。
「なんでここに?」
「だって一番近かったし……」
あまり気にはしていなかったが、あの爆発を防げる場所と言えば【聖域】くらいなものだろう。
とは言え、さすがに外だったので爆発の余波を受けて髪もボサボサだ。いや、それは元からか?
「まぁいっか。それより起きろワンコ」
ソフィアたちにはそう危険はないだろうとして、俺はジーンに向き直る。ジーンは大の字に仰向けで寝転がったままだ。
「おいこら檻にぶちこむぞ」
「ハッハ……そりゃあ勘弁。檻はこりごりだ」
こいつ捕まったことがあるのか……?さすがに俺でも警察のお世話になったのは、前世で注意を受けたくらいだぞ。ちな中二と高一の計二回。こっちではまだ無い。と言うか捕まってないだけ。あの頃は俺もまだ若かったなぁ……
「じゃ、お前らの負けってことでいいよな?」
「あー」
ジーンの返答は肯定。さて、これで問題の一つは片付いた。あとは……ツナギが帰って来ない。いったいどこをほっつき回っているんだ、全く。
「暇潰しにもっかいやるか?」
【魂の残滓】のリスクは皆無とは言えないので使わない。さっさと解除している。軽く体をほぐすくらいの気持ちで、俺はジーンに話しかけた。
「誰がやるか。お前みたいな悪魔と」
「ふーん、悪魔ねぇ……面白い」
悪魔といえば、俺よりも適任がいる。そしてそいつは……
「お前らのボスの方がよっぽど悪魔だろ?」
さて、この時の俺は笑っていたのだろうか。
取り敢えず一区切り。
作中で使ってる技は、ヤベー奴らのヤベー剣技にエフェクトがついたものです。だいたいマナがそれ。
流派として残っている。
こっちに来て化けた。もともとバケモンだったけど。




