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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第一章 繋ぎ紡ぐは継承の証
44/89

ワクワクヒャッハータイム

済(2022.10.14)


◇ リュウゴ


 勢いよく突っ込んで来たリノを僅かに横に逸らしつつ、両手はリノの腕を掴む。纏った雷でビリビリ痺れるのに我慢しながら、俺はくの字に折れ曲がって空を飛ぶ。


 さて、このままでは背後の滝にぶつかってしまうだろう。それも超スピードで。そんなのは嫌なので、俺は――――


 少しだけ本気を出すことにしよう。


「ッ!」


 まずはリノを引き剥がす。密着したこの状態では、満足に動けない。思いっ切り殺気をぶつけ、それを察知したリノが咄嗟に俺から離れる。

 空中に尾を引く軌跡。それの途中で、リノは取り残される形となった。


 次、と言ってもこれで最後なのだが。

 何をするのかは簡単だ。エネルギーをリセットして止まればいい。だが、ただ止まるだけでは面白くない。


(少し遊ぼう♪)


 俺は首から下げたペンダントから、予備として一本確保しておいた剣を取り出す。残りはだいたい大樹に刺さったままになっているので、正真正銘のラスイチだ。

 後で回収するのが面倒だな。ツナギに行かせよう。


「クハハッ」


 思わず笑みがこぼれる。精神状態が変な方向に向かっているのかもしれない。テンションが、とても、上がっている。だが、それなら僥倖だ。そういう時は決まって調子がいい。

 俺は、限界(・・)に【叛逆】し、知覚能力を引き上げる。もちろん、身体能力も強化されている。脳内麻薬でのセルフドーピングみたいなものだ。


 さっきまでブレた色しか判別できなかった景色が、急に鮮明になる。俺が飛んできた方向には、未だ宙に浮いたまま落ちてこないリノの姿があった。

 その姿を尻目に、俺は空中で体を捻る。空気抵抗や圧力を上手い具合に調節してやれば、空中での体勢も自在だ。若干のラグが気にならないわけではないが。


(滝を割ろうじゃないか)


 モーゼは海を割ったそうじゃないか。今回はそれをやってみようと思う。規模はかなり小さいのだが。

 グレンに怒られたら謝ろう、ツナギが。


 俺は手に持った剣を、上段から振り下ろした。

 これが風圧なのか、衝撃波なのか、はたまた飛ぶ斬撃なのか。正直詳しいことは分かっていないのだが、有効射程が伸びる。この事実があればそれでいい。


 滝が、半ばから割られた。ある一点から裂けた滝はそのカーテンを失くし、奥の岩壁をさらしている。岩壁には、縦に一筋の剣の痕が。

 その傷は正面の岩壁からはるか下の滝壺まで斬り裂き、水飛沫と呼ぶにはあまりにも塊なそれが宙を舞う。


 さて、この次が一番大事だ。早すぎても遅すぎてもいけない。完璧なタイミングでなくてはならない。

 いったい何がと言うと……壁着地綺麗に決めたいよね、ってことだ。


(はいここドンピシャァーーー!)


 再度体勢を整え、岩壁との衝突ギリギリで慣性に【叛逆】。僅か数cmの隙間は足を伸ばせば埋められる。ピタリと止まった俺は剣を持っていない左手も岩壁に添えながら、両の足の裏で岩壁の横に立つ(・・・・)


(フッ、決まった)


 ものすごくいい気分なのだが、それで終わりとはいかない。一秒にも満たない内に頭上から水が降ってくるだろう。滝とはそういうものだ。

 今ばかりは慣性に感謝しようか。俺は多分一生反抗期だろうけど。


 余韻に浸る暇もなく、俺は岩壁を駆け下る。つまり、垂直下向きに走ったのだ。重力も相まって、普通に走るよりもスピードがでる。滝壺まで下るのに、時間は全然かからなかった。

 直角に折れ曲がる際は一度止まる。勢いそのまま無理矢理曲がるよりも、一つ一つの刻んだ動きを組み合わせた方が体への負担も少ないし、何より効率もいい。

 もっとも、今回は別の理由からだが。


 しっかりと地面を踏みしめた俺は、足に力を込める。狙いを定めた先は、ついさっきやっと落ち始めたリノだ。


「【アーンチグラビティ】……」


 声に出したのはそれだけだが、他にも抵抗や摩擦にも【叛逆】する。空気から受ける影響は微々たるものだが、そのほんの少しの差は、高速戦闘において馬鹿にできない。


「ヒャッハァーーーっ!」


 かくして俺は、リノへの反撃を開始する。

 右手に剣を、左手にボロボロで(・・・・・)錆び錆びの剣(・・・・・・)を持って……






 ドオォォォォォォ!!!


 リノから見て、滝が再び水を落とすのと、眼前に俺が迫って来たのはほぼ同時だろう。


「来たねっ」


 知っていたと言うよりは、勘が当たったといった雰囲気で俺を出迎えてくれる。


 足場などない空中でぶつかれば、そのエネルギーはどこへ行くのか。本来ならばどっちもダメージを受けるのだろうが……そんなの知るか俺が消す。


「【アンチイナーシャ】」


 俺の体がリノの目の前で止まった。俺の接近を見越して振るった爪は、どうやら空振りとなったようだ。俺が上体を反らして避けたからだ。

 そもそも重心がブレブレで、体重も乗っていない攻撃は脅威ではない。


「でもまだまだぁ……」


 めげないこと挫けないこと諦めないこと。

 リノの纏う雷がバリバリと強くなる。まだ戦えるという意思表示だろう。実に素晴らしい。

 だが――――


「知るか、飛んでけ」


「カッ、ハッ……」


 懐に潜り込んだ俺が、左手に持った錆びたボロボロの剣でリノを叩く。それと同時に剣は砕け散った。


 この剣は、さっき滝壺で拾ったものだ。岩壁から滝壺へと移る際に目に入った。古くはなっているが見覚えがあった。おそらく5年ほど前に投げ込んだものだろう。

 環境汚染はいけないからね。リサイクルだ。いや、この場合はリユースかな?僕が捨てたんじゃないよ。やったのはツナギだよ。


 まあとにかく、刃の潰れた剣ではたいした斬り傷にはならないだろう。打撃の属性の方が強そうだ。


「クッハハハ」


 疲弊していたところに認識外からの攻撃。それをまともに食らってしまったのだ。受け身は取れなかったのではなかろうか。

 さて、リノを飛ばした方向は、くしくもソフィアたちのいる場所だ。戦場が最初の位置に戻ってしまうな。


 え?どうやって追いかけるのかって?空中には足場がないって?

 おいおい、あるじゃないか立派な足場が。左手に。剣の柄だよ。


 空中で軽いものを足場とする際、注意点が2つある。まず、できるだけ体を軽くすること。そもそも俺の【叛逆】は俺の体にしか作用しない。つまり服や剣はその一点において俺の枷なのだ。そこで、俺は右手に持った剣を進行方向に投げる。

 左手の柄だけになった剣はその場で指のスナップを利かせて回転させる。


 次はコツについてだ。とにかく速く、最小限の力で。足場の慣性がなくなり落ち始める前に、できるだけ長い時間踏み込む必要がある。ギリギリの見極めが肝心なのだ。

 あれ?もしかして慣性ってすごい?慣性教にでも入信しようかな?


「ハッハッハッハッ!ヒャッハッハ!」


 気分がハイになって思考が脇に逸れることがあるのは、戦闘においてもはや日常茶飯事だ。


 俺はリノを追う。

 柄はちゃんと拾うよ。ツナギが。

 環境破壊はダメだよねっていいながらポイ捨てする奴。

 後で拾う(拾わせる)などと供述しており………

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