ビリビリ高速戦闘
済(2022.10.12)
◇ リュウゴ
「ハッハァーーーッ!」
俺は現在、上下左右を問わずに、大樹の枝から枝へと激しく移動している。何故こんな跳弾じみたことをしているかと言うと、理由の大半はリノである。
「追いついて見せてよ!」
「んにゃろ」
リノは、とにかく速い。体に雷を纏いだしてからと言うもの、光を捉えることはできるのだが、姿勢や輪郭が曖昧だ。しかし、攻撃が単調なのでそれなりには対応できているが。
リノの姿が葉に隠れる。
「チッ」
この大樹は、幹近くにはあまり葉が生えていないが、枝の先となるとそうもいかない。生い茂った葉を挟むと、相手の位置が見えなくなる。
だから俺は大樹の中心へと向かう。背中を幹に預けて、奇襲される方向を減らした。
これで注意は前方に向けておけば――――
「やあ」
眼前にリノの足がある。俺の死角、つまり下からやって来たのだ。このまま振り抜かれると、俺の頭を打ち据えるだろう。
その非常時に、俺の頭は別のことを考える。
(纏った雷が髭みたいになってんな)
バチバチと音を立てる雷が、リノの頬に差し掛かったことからだ。他にも、割と髪はフワフワだとか、耳は思ったより大きいとか、あとは――――
(口のかたちが俺と一緒だな)
とか。
俺の口元が、知らぬ間に弧を描いていた。特に意識したわけではないが、俺の体はリノの足に対して刃を立てるかたちで両者の間に剣を差し込む。
リノの方から見ると、俺と目が合っていたので、視界の外から剣が生えてきたように感じただろう。
「よお、猫女」
「フフッ」
こちらへと迫っていたリノの足が、僅かながらに軌道を変えた。剣を捉えるつもりなのだろうか。
それが分かったとしても、もはやコンマ何秒の世界だ。ならば次の一手を打つために行動した方がいい。
「ポイッ」
真っ白な歯を眩しいほどに見せながら、リノは足の親指と人差し指で剣を掴み、上空へと投げ捨てた。
「そう来るか」
それに対して、俺は抵抗しなかった。むしろ剣を握る手を緩めたくらいだ。
「予想通りだ」
今の俺は無手。つまり何も持っていない。
ではどうする?答えは俺の胸元で光っているペンダントにでも聞いてみることをおすすめする。
「二刀流っていいよな」
ペンダントから、二つの柄が現れた。それを右手と左手で一本ずつ握った俺は、それを引き抜く。
その際に右手で握った剣を上空に放り、リノに飛ばされた剣にぶつけて軌道を変える。結果として、その二本はそれぞれ大樹の枝と幹に刺さった。
「でも、多刀流はもっとロマンだ」
ペンダントの光はまだ収まらない。自分のターンはまだ続いていると言わんばかりに主張する。
新たな剣の柄が見え隠れする中、俺は大きく構えをとる。
「さあ、ついてこれるか?」
「ニッ、上等」
仕切り直しを宣言した俺に、リノが笑顔で応じる。
剣を空中へと展開した俺は、そのうちの一本を取って再び両手に剣を持った状態となる。これはどうやら刀だったようだ。
「千本ノックだ」
両手の剣の刃で、宙に浮いたままの剣が落ちる前にその柄尻を打つ。幾つかはそのまま落とした。勢いよく発射された剣が、剣身をリノへと向けて飛んで行く。
「アハハハハッ!楽しい!」
自分へと向かって来る剣に、狂的ともとれるほど、リノは高揚していた。幼い頃から、これぐらいしか心踊ることを知らないのだ。
一本、また一本と剣を避けられる。
高笑いしながらものすごい速さで動き回るリノに、俺も感化されて声を上げる。
「ヒャァッハーーー!」
また一本避けられた。剣は全部で十本ほどしかないので使いすぎには注意しなければならない。ペンダントは物を詰め込みすぎると重くなるからだ。自分の現在位置、そして、剣が大樹のどこにあるかを脳内に描きながら、俺はリノを追いかける。
「こっちこっちぃー!」
雷を纏ったリノには、高速機動が可能になる。端から見ている分には、相手だけ早送りしているようだ。と言うかあれでちゃんと周り見えてるのか?
それと、空中でも多少は軌道を変えられるらしい。誘導だろうか。電界とか磁界がどうのこうので。
(まあ、魔法がある世界なんだ。理論がめちゃくちゃでも別に驚きゃしねえけど)
遠くに見える黄色い点が、みるみる大きくなるのを見て、リノの接近を確認する。リノは、さっきからずっとヒットアンドアウェイ戦法で戦っている。
「攻撃が単調なのは楽でいいねぇ」
「そんなつれないこと言わないでよ」
「だったらよぉ……俺を楽しませてみろや」
正直さっさと終わらせるつもりだったのだが、予想以上に期待している自分がいる。自分が楽しめればそれでいいという考え方が俺の根本の部分にあるからだろう。
「ハァッ!」
至近距離での戦い、インファイトでは俺の分が悪い。一瞬で動ける量に差がでると、綻びが生まれる。格ゲーの基本だ。
隙が多いということは、それだけ技を差し込まれるということ。一度食らえばそこから繋げられる。
ならばこそ、俺は戦闘において立ち回りを重要視している。二番目に。え?一番はいったい何だって?それはまた別の機会に語ろう。
「ほら」
大樹の幹や枝に刺さっていた剣を取っ替え引っ替えしながら、リノの攻撃を凌ぐ。時に投げ、時に手に取りながら戦闘を継続する。
リノを誘導しながら。
そもそも、立体的な戦いはリノの得意分野なのだ。360度どこから来るか分からない、さらに認識が困難なほど速い。
そりゃ、地上で――――特に開けた場所で戦う方がマシだろう。それでも乗ったのは、ただ単にこの戦いを楽しみたかっただけだ。
(なんとなくは分かった。さっさと終わらせてアイツを追いかけねえとな)
どうやらリノに思考加速の類いのバフはかかっていないらしい。でなければ脳筋なりに動きを変えるだろう。もしかしたら景色すらまともに認識できていない可能性もある。それならば随分と楽になるのだが……
「えいやっ」
「おっと」
足元から現れたリノの攻撃をいなしながら、もう片方の剣を投擲する。
「さて質問です。達人は剣を選ばないという。俺も大して剣にこだわりはない。何故?」
「自分が強いって言いたいの~?」
「ブッブー」
俺が強いのなんざ分かりきったことだ。今さら教えてやるのもめんどくさい。だからこれは、ただのお話だ。
そもそも答えなど見れば分かるだろうに。
「正解は……ぶん投げっから意味ねぇんだなァ~!!」
「いぃ!?」
業物だろうがナマクラだろうが勢いよく突き刺せば大抵の物は貫ける。一部例外がいるのがこの世界なのだが、リノはその限りではない。
「ヒャッヒャッヒャッヒャッ」
投擲武器も乙なものだ。
◇
今現在のリュウゴの懸念は主に二つ。
一つは、例の男を追いかけなければならないこと。彼の人物にはしっかり落とし前をつけさせる、と。
そしてもう一つ。他にもいろいろと気にかけるべきことはあるのだが――――
ツナギがまだ戻っていないこと。




