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アーク・ロスト・ワールド  作者: 江本平
第一章 繋ぎ紡ぐは継承の証
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隣の悪魔は敵で味方


「おつかれさま~何の話をしてるの~?」


 妙に間延びした声が聞こえてきた。ツナギ達は「リュウゴのやつにどう落とし前つけさせるか会議」を切り上げ、声の方に向き直る。リュウゴは救いを求めるように、話題を切り替えるように、つい声を上げてしまった。


『よぉ、モフ。いつもごくろう』


「やっぱ起きてんじゃねぇか!」


『やべっ』


「ほら、さっさと代われ(・・・)!まだ腹が少し痛いんだよ!」


 負担をもう一人に背負わせようとする様のなんと醜いことか。

 リュウゴはツナギが首に掛けているペンダントから声を出している。このペンダントは、赤ん坊のツナギが老人に拾われた時にはもうすでに持っていたそうだ。リュウゴは転生ボーナスだろうと推測している。


「何があったの?」


 ついさっき話しかけてきた人物、といっても全身が黒い毛に包まれ、明らかに人間ではないことが分かる。毛並みは柔らかそうで、リュウゴがモフと彼を呼んだようにモフモフでさわり心地が良さそうだ。

 モフの質問に老人が答える。


「ガキがまた要らんことをしたんじゃよ」


「いやぁ~こうして見るとまだどっちも子供なんだけどねぇ~」


 二人の視線の先では、まだ言い争っているツナギとリュウゴの姿がある。他の人にはリュウゴの姿は見えない。何も知らない人には、一人で言い争うツナギの姿は気が狂ったのではないかと思われてしまっても仕方がないが、二人には見えないはずのリュウゴの姿も手に取るように分かる。


 モフが持ってきた水を飲みながら老人はそんな孫達を見つめる。ここ最近はずっと賑やかだ、と。


「あ、そうそう」


 ふと思い出したかのように、モフが声を上げる。二人はまだ言い争っている。耳をふさぐリュウゴを見るに、何か後ろめたいことがあるのだろうか。むしろそればかりかも知れない。


「聖都から手紙がきてたんだよね~。『レイさん』宛ての招待状と『アーサー・レイ・マノガスト様』宛ての招待状、どっちがいい?」


「む、ついにそっちの名で送ってきたか……食えん小僧め……」


 モフが自らの毛の中から二つの封筒を取り出す。片方は白い封筒に紅い封蝋、もう片方は、光の加減によって色が変わるいかにも高級そうな封筒だ。朝日を受けて虹を纏うその封筒には、金色の文字で『アーサー・レイ・マノガスト様』と書かれていた。

 そんなモフと『レイさん』の会話を聞いたツナギの顔が青ざめる。


「俺は!今年こそは!!絶対に行かないからな!!!」


 まるで見たくないものがあるかのようなツナギに対して、ここぞとばかりにリュウゴは攻勢に出る。


『いや、行ってやれよ。そしてまた晒せよ、お前の黒歴…』


 リュウゴの声が途中で切れた。ペンダントから声を出している以上、それに細工をしたら声は出ない。ツナギはこれを、そういうものだと直感的に理解している。何はともあれ、使えるものは全て使うのだ。


「ツナギよ……わしにも用事があるのじゃ。だから……」


「いいやもう嫌だ!!生暖かい目で見られるのはかなり堪えるんだよ!!!」


(『ほら行けよ。行っちまえよ。楽になるぜ?』)


 周りには聞こえていなくとも、ツナギにだけはリュウゴの声が聞こえる。が、一体何年その声を聞いてきたのだろうか。いつしかツナギは、必要な音とそうでない音を聞き分けることが出来るようになっていた。だからリュウゴの声は華麗にスルーだ。


「じゃあボクは支度してくるね~去年みたいなことになっても困るし明後日にはでないとね~」


「待って、モフ!こっちの味方を……」


「ウーン、コレバッカリハボクジャドウシヨウモ……」


 棒読みである。どうやらこの場にツナギの味方はいないようだ。ツナギは縋るような目付きで老人を見る。


「なぁ、じいちゃん。こんなガキに国賓『アーサー・レイ・マノガスト』様の代理が出来ると思うか?」


「まあ大丈夫じゃろ。エルムもいるし」


『なっ、今年はアイツもいるのかよ!』


 ツナギの集中が切れてどうやらリュウゴもまた喋り出せるようになったようだ。


「なんじゃ、そんなに嫌か?」


「絶対にイヤだ!!」


『アイツの顔は見たくねえ!!』


 つい先ほどまで言い争っていたとは思えないほどの速さでお互いの意見に同調する。困難を切り抜けるためならば、すぐ隣にいる悪魔とでも手を結ぶ。

 それがツナギとリュウゴの関係だ。――――上っ面は。


「ならば、わしから一本とってみせろ」


「『上等だ!!!」』


 結果は――――






 ツナギ&リュウゴ、聖都行き決定。


 肩書き、国賓の代理

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