実体験からの注意喚起は説得力が違う
済(2022.10.04)
◇ ツナギ
「ほらソフィ姉、早く早く~」
軽い足取りで俺の後をついてくるルーンが、後方のソフィアを促す。ルーンには疲労の色があまり見られない。グレンを頭の上に乗せてもなお、だ。
「すごいわね、ルーンちゃん。これでも私結構体力あると思ってたのだけど……」
『そりゃ毎日追いかけっこしてたらなぁ……。Z軸まで使って』
ソフィアを追いかけるのは……うん、かなりめんどくさい。空を飛べでもしない限りそう思うのではなかろうか。逆にエルムなら楽なのだろう。現にすぐ捕まってたし。
『聖都』での思い出を振り返っている内に、遠くから滝の音が聞こえてきた。グレンの住居が近いのだ。右手に見える少し大きめの川を辿るとそこに着く。
なぜそこに寄ることになったのかと言うと、今朝の記憶を掘り起こさねばなるまい……。
………………………………。
目の前にグレンを頭の上に乗せたルーンがいる。ルーンは両手を頭の上に伸ばし、グレンを不思議そうにさわっている。いや、モフっている。
「私の頭の上には乗ってくれなかったのに……」
『邪魔なんだろ。そのアホ毛が』
自分の髪の毛を指で引っ張るソフィアをリュウゴがちゃかす。
さて、朝起きるともう一人増えていたので一瞬戸惑った。それがルーンだと気づくまでそう時間はかからなかったが。
昨日はリュウゴがルーンを助けて、それから夜に少し話したのだったか。……はて、何を話したっけ。ルーンの記憶がないことと……後は覚えていないな。なら大したことではないだろう。
「それで、ルーンはこれからどうする?」
「?どういうこと?ツナギ」
おかしいな。なぜ呼び捨てなのだろう。リュウゴとソフィアは兄ちゃん姉ちゃんと呼ばれていた気がするのに……
「まあいいや。俺たちについてくるか、それとも『聖都』にでも預けるか」
「ついていくよ」
即答であった。
もっとも、ソフィアと一緒だ。一人守るのが二人に増えただけだ。家に帰るまでそう危険はないだろう。後のことはじいちゃんとでも話し合おう。
そうやって、俺は楽観的な結論を下した。
『よし!それじゃあ魔の森ツアー続いての目的地は……グレンにでも決めてもらおうか』
リュウゴが意地の悪そうな笑みを浮かべて話題を変える。その矛先はどうやらグレンに向けられたようだ。
「我の住みかに寄ろう」
『なるほど確定……と。でもどんなイベントだ?』
一人ブツブツと呟くリュウゴのことは放置する。いちいち気にしていたら埒が明かないからだ。
「じゃあ、ご飯食べたら行こっか」
『あ、そーだルーン。一応言っとくけど危なくなったらすぐ逃げろよ?』
「うん!わかった!」
『クソ猿とか羽いっぱいの蛾とかコピー狼とか』
「何それ?そんなのもいるの?ここ」
何度も言うが、ここは危険な『魔の森』ことベンマトル森林地帯。通常ならば呑気に朝食を食べるような場所ではないのだ。
ソフィアにはあらかじめ注意喚起はしておいたが、具体的な脅威を挙げたのは今回が初めてだったかもしれない。
『クソモンスTOP3を言っとくぞ。老いた虎、無限火薬庫、コピー狼、こいつらに出会ったらまず逃げろ』
「こわー」
「?」
随分と偏見が混じった意見だ。むしろ強くても話が通じる奴らを挙げている。より気を付けるべきはまだ多くいると言うのに。
「絶対会いたくないわね」
「ソフィアは絶対会ったことあるよ」
俺の小さな呟きはソフィアの耳には届かなかったようだ。実はこれ3分の2が人間なんだって。いったい誰のことなんだろうなぁ。
………………………………。
湿った空気が服を軽く湿らせる。滝によってできた水飛沫の影響だ。
魔の森のちょうど中央付近。そこにグレンの住居はある。勢いよく水飛沫を上げる滝と大地に根を張る大樹に目を引かれる。そして大樹の根元にある小さな祠――――苔が生えて緑がかったそれは年数を感じさせる。
「おぉ、すごい……」
滝を目の前にして、ルーンが感嘆の息を漏らす。轟音を轟かせながら落ちてくる水は、心なしか以前よりも多い気がする。
「ルーンちゃん、もっと近くまで行ってみましょうか」
そう言ってソフィアが自らの【アーク】で宙に足場を作る。ガラス張りの床の様に、すぐ下は水面だ。
「何それ!?行く行く!」
「フフン」
ソフィアはどこか満足そうな顔をしていた。おそらくルーンに慕われるのが気持ちいいのだろう。
宙を足場とし、だんだんと滝壺に近づく二人にリュウゴが声をかける。
『落ちたら危ないからほどほどにしろよ~』
「分かってるわよ~」
さすがてっぺんから落ちた奴が言うことには実感が込もっている。上から落ちてくる水が水流となり、下へ下へと体を運ばれるのだ。それでもソフィアが近くにいるなら大丈夫だろう。自分とルーンを【アーク】で一緒に包んで底にいるだけなら助けに行ける。ちょっと無茶するけど。
そこまで考えて、俺は意識を切り替えた。こういうのもいいかもしれない。
「――――ツナギ、お前に言っておくことがある」
『おっ?やっと話すか、この焼き鳥野郎』
グレンが神妙な雰囲気で俺に話しかけてきた。
「どうかした?」
「……継承の儀を受ける気はあるか?」
『なんだそりゃ?』
リュウゴの疑問はもっともだ。俺も初めて聞いた。だから、さらなる説明をグレンに促す。
「継承の儀とは焔の継承。今回の場合は、我の持つものの半分なのだが」
『あー、なんとなく見えてきたぞ』
グレンの持つ炎……俺も過去何度か見たことがある。俺が魔術で作り出すものとは少し違った印象だ。少なくとも、俺にはあそこまでの温度は出せない。
「なあ、それで強くなれるか?」
「なれるだろう」
「じゃあ受ける」
『……』
手札は多い方がいい。それに、強くなれるならならなくちゃいけない。俺の目的のためにも。
………………………………。
「じゃ、行こっか。グレン」
まずはソフィアとルーンを呼んで来ないと。
『魔の森』のイカれた生態系を紹介するぜ!
1.老いた虎……一番つえー奴。話が通じる。
2.無限火薬庫……バグ野郎。基本話は通じる。
3.コピー狼……相手してて一番面倒臭い。一応話は通じる。
EX.呪いの獣王子……間合いに入れば相手は死ぬ。めちゃくちゃ話が通じる。
EX2.二重構造の来訪者……イレギュラー。片方は話が通じない。
あれ?この理論で行くと一番イカれてるのはリュ……二重構造の来訪者君なのでは?




